あらすじ
地下室に住む中年男の告白を通じて、人間存在の矛盾と不条理に根ざした生の哲学を描く。ドストエフスキー全作品を解く鍵と評される“永遠の青春の書”をロシア文学者・亀山郁夫氏による名訳で。「この小説がドストエフスキー文学の原点です」――亀山郁夫。「地下室」とは、言い換えるなら、青春時代を生きるだれもが一度はくぐりぬけなくてはならない“戦場”である……ドストエフスキーはこの人物を通して、ある一つの真実を語りかけようとした。すなわち、この“戦場”を戦いぬくことなく、遠い将来、一個の自立した人間として大きな成熟を手にすることはできないということを。この『記録』にこめられているのは、おそらく若いドストエフスキーが身をもって経験した躓きの記憶だが、その痛々しい記憶の彼方に輝いているものこそ、人間の真実、あるいは人間の生命という聖なるオーラなのである。(「まえがきにかえて」より)
...続きを読む感情タグBEST3
Posted by ブクログ
言い回しを現代風にするなど、読みやすさに特化した新訳です。
うだつが上がらない地下室人の雑記がひたすら続くという内容ですが、この整然としていない点に人間性があります。
普通の人間が無理矢理に自分の思いを書いている勢いを感じました。
引っ込み思案で苦労する彼の手記には続きがあることになっていますが、その後の人生を色々想像してしまう一冊。
Posted by ブクログ
正直に言うと、前半は読み進めるのがしんどかった。
読み進める度に、「こんなに自意識過剰なのでは、どうやって生きていけるのか」と頭を抱え、思考がそこにとどまってしまった。
しかし、後半を読んでなぜ主人公がこうなってしまったのか、納得ができた。
「罪と罰」の主人公には、助けようとする友人や家族、恋人とのやり取りがあり、他者へと開かれている部分があり、それが救いにつながっているような印象を受ける。
そういった他者への希求が全て内向きになってしまっているから、救いのなさのようなものを感じさせるのだろう。
風穴という言葉の大切さに気付かされた。
Posted by ブクログ
トルストイ(1828〜1910)、ドストエフスキー1821〜1881)と時代が重なり合う同士であったが、若い頃のドストエフスキーは社会主義の運動で逮捕、死刑執行直前で保釈、小説家となりこの「地下室の記録」をあたかも病んだ、意地悪い男として表現、社会に間接的に抵抗していたのである。巨匠二人ともに時代の背景にある合理化一辺倒の社会主義国ロシアで「幸福、希望、夢」を追った作品は現代では理解できない厳しい規制社会だったに違いない。