【感想・ネタバレ】人間和声のレビュー

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Posted by ブクログ

 昔ちょっと音楽の勉強をしていたから、和声?人間?とタイトルに目を引かれたのが出会いだった。紹介文によるといわゆる幻想怪奇小説という類の物語らしい。あまり馴染みがない。きっとどうせ完読できないだろうという弱気から手に取るまで時間がかかったが、色々と偶然の後押しもあって読んでみたらとても面白かった。まずはその達成感が嬉しい。
 
 主人公はロバート・スピンロビン、二十八歳。彼は何か大いなる物に憧れ、魂の真の冒険を求めている夢想家だが、臆病さゆえに自ら行動を起こすことはできず、そんな自分の卑小さ平凡さを恥じる謙虚さはきちんと持ち合わせているというところがまた可愛らしくもある、そんな人間である。彼はある日、次のような謎めいた求人を見つけ、胸躍らせて応募した。
〈勇気と想像力ある秘書求む。当方は隠退した聖職者。テノールの声とヘブライ語の多少の知識が必須〉。
 さてその仕事とは?この聖職者は一体何をしようとしているのか?これが「幻想怪奇」の一番のあんこの部分であることは間違いなく、そのドキドキが推進力となってずんずん読み進んでいく。正直、情景描写については幻想が過ぎて何だかよくわからないところもそこそこあったが、それでも気にせず薄目で読んでいけるほど、スピンロビンという人間の心理描写から目が離せなかった。
 非凡な聖職者スケール氏と出会って、彼に心酔していくスピンロビン。しかもその偉大なるスケール氏の偉大なるプロジェクトに、取るに足らないちっぽけな自分が必要とされているのだ。父親のような威厳と愛情とに満ちた態度で自分に接してくれるスケール氏の期待に応えようと、懸命に仕事に打ち込むスピンロビン(こういうとこ可愛い)。ホームズにワトソンみたいな敬愛関係が築かれてゆく。
 スケール氏の仕事には、他にも二人の女性が関わっている。スピンロビンがテノール、スケール氏がバスであるならば、アルトとソプラノの人物も当然必要なのだ。人里離れた荒野の屋敷におけるこの男女四人きりの生活を続けていくうちに、スピンロビンの心境にも徐々に変化が訪れる。スケール氏の恐るべき仕事が着々と完成に近づいていくなか、愛すべきスピンロビン君はハムレットさながらに思い悩む、これが見どころだ。幻想怪奇小説の形をしてはいるけれど、実は単純なボーイ・ミーツ・ガールの物語だ、とも言える。

 ちなみに原題は”The Human Chord”で、辞書的にはchordは和音で和声はharmonyなのだそうだが、スケール氏の思想はピタゴラスの考えた「天球の音楽」(宇宙は音楽を奏でている、それがこの世の調和すなわちハーモニーを作り出している、という説)を思わせるところがあるので、邦題の「和声」が却って適切なのかもしれない。

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2022年09月24日

Posted by ブクログ

The Human Chord, 1910.
ジョン・サイレンス先生のブラックウッド。
(Algernon Henry Blackwood、1869年3月14日 - 1951年12月10日 )

真名を四重奏で歌うことにより神の力を手に入れる。
そのために集められた4人の唄い手(詠唱者)。
和音を醸すソプラノとアルトは恋仲になってしまい神の力か人の世の愛か悩む。

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2013年12月11日

Posted by ブクログ

読んだ手触りがゴシックホラーと言うよりは、SFに近いテイストで、ブラックウッドってこんなの長編も書いていたのか!と。
「カバラ」や「真の名前」を正確にいにしえの発音で発声することで実体を持ち力を得る…と言った(ちょっと日本の言霊に近い感じの)思想。それにより「誰」を召還しようとしているのか、全く知らされないまま実験に巻き込まれていく主人公の青年……。前半の周囲の人物描写からにじみ出す不穏な雰囲気はちょっとクトゥルー作品なんかを彷彿とさせて、そういうのが好きな人にはオススメの作品です。
青年の神秘体験の描写については、音に色や形を持たせようとして筆を尽くしての描写が圧巻。面白かったー。

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2019年07月22日

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