【感想・ネタバレ】嗤う伊右衛門のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

歌舞伎で観る東海道四谷怪談とはまったく異なり、伊右衛門も岩も、不器用ではあるが愛に溢れている。現代の夫婦像にも通ずるところがありそう。
ただ周囲はひたすらにグロテスク。
どす黒い血に塗れた屍たちの中、桐箱だけが尊く描かれたように感じたが、それは天国なのか地獄なのか。

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2021年12月28日

Posted by ブクログ

ネタバレ

【本の内容】
疱瘡を病み、姿崩れても、なお凛として正しさを失わぬ女、岩。

娘・岩を不憫に思うと共に、お家断絶を憂う父・民谷又左衛門。

そして、その民谷家へ婿入りすることになった、ついぞ笑ったことなぞない生真面目な浪人・伊右衛門―。

渦巻く数々の陰惨な事件の果てに明らかになる、全てを飲み込むほどの情念とは―!?

愛と憎、美と醜、正気と狂気、此岸と彼岸の間に滲む江戸の闇を切り取り、お岩と伊右衛門の物語を、怪しく美しく蘇らせる。

四世鶴屋南北『東海道四谷怪談』に並ぶ、著者渾身の傑作怪談。

[ 目次 ]


[ POP ]
腹の中にどろどろとしたものを溜め込んでいる伊藤喜兵衛。

この男が妖怪に思えてならない。

彼には悪事を働いているという意識さえないように見えるからだ。

喜兵衛の悪意がお岩と伊右衛門のお互いの気持ちを踏みにじる。

憎い奴だが、彼がいることで主人公たちの純粋な想いがぐっと浮かび上がる。た

だの悪党には違いないのだが、私はこういうキャラクターが気になって仕方がない。

すべての出来事がこの男を中心に起きているように見える。

それにしても、四谷怪談をこれほどまでに切なく悲しい物語に仕上げるとは、京極夏彦はすごい。

はじめは京極版・四谷怪談と聞いてさぞかしおどろおどろしい話になるのかと思いきや見事に裏切られた。

感情表現が下手なお岩と伊右衛門は似たもの同士。

そんなふたりの不器用な姿が余計に胸を締め付ける。

本書を読むのはこれで何回目だろうか。

自分でも呆れるくらいこの物語が好きだ。

物静かでいちども笑ったことのない伊右衛門が、一気に感情をあらわにさせて嗤うところは何回読んでも泣けてくる。

[ おすすめ度 ]

☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)

[ 関連図書 ]


[ 参考となる書評 ]

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2015年01月18日

Posted by ブクログ

ネタバレ

東海道四谷怪談を京極夏彦が京極夏彦の文体で語ってくれる本だと思っていたら、設定を一部借りただけで全然違う話だった。
人間を書ける京極夏彦らしい、人間模様が交錯して成立するストーリーが、あくまでもシリアスに展開する。
ほんとに些細な登場人物まで、悉く人間がよく書けてる。
簡潔かつ的確で品位ある美しい文体も、時代物にぴったり。

んで、すごく読みやすくてスルスル読むうちに話はいつの間にか過去の回想シーンになってたりまた戻ってきたりで(京極夏彦のいつものやり口)、私はいつも時系列が混乱していまう。
ややこしくないことをややこしく見せられてる感はしなくもない。

他人のことを思いやることで余計にすれ違うことって、自分の身の回りにもよくある。
だから、岩と伊右衛門のすれ違いには身に覚えがあって心が痛む。
でも、それを美談にしちゃあいけない。我々はエスパーじゃないから、やっぱり気持ちは伝えないと伝わらないんだよ。幸せになろうよ(笑)。

クライマックスの、伊右衛門が報復(?)するシーンは、気分がスカッとした。
この前段階に、伊右衛門が梅から喜兵衛宅での一件を聞かされて全貌を知るシーンがあるはずだけど、そういう黒い感情が渦巻くシーンはわざと省かれてる。
読者は伊右衛門の立ち回りを目で追いながら、その省かれたシーンを想像で補う訳だ。
同様に、逐電した岩が伊右衛門と再会(と言っていいのかどうか)して、岩が死ぬシーンも想像力で補う必要がある訳だけど、こっちはいささか難しい。
特に、岩がどうやって死んだのか。
伊右衛門が殺したと考える人たちがいるみたいだけど、もう伊右衛門は真相を知ってるんだから殺しはしないと思うんだ。刀も研ぐ前だし。
でもとにかく、伊右衛門が落とし前をつけようと決心したきっかけは、岩の死だったはず。
何となく、岩が生きてるうちには会えなかったんじゃないかと思うんだけど、どうだろうか。

全体に壮絶な純愛譚で、すごく美しくまとめられてたけど、なぜか夢中になって読む感じにはならなかったので☆3つです。
(京極堂シリーズファンの性かもしれない…)
でも岩はこれまで読んだ京極夏彦の女性登場人物で一番魅力的でした。



(追記)
読み終わってもず〜っと消化できなくて、もう1度つまみ読んで、やっと一連の出来事のからくりを理解した。
毒は又左衛門が盛ったの、初読で分からなかった。
自らの読解力のなさに落ち込む。
(以下、自分へのメモ)
伊東喜兵衛から岩との縁談を望まれ(喜兵衛は本気じゃなかったけど)、いや他からも縁談話が出て、娘を手放したくない又左衛門は出入りの薬売りに頼んで毒を入手し岩に盛る。
表向き疱瘡に罹ったせいで顔がただれたとされた岩だが、喜兵衛の腰巾着堰口は、喜兵衛への意趣返しに何者かが岩に毒を盛ったと推測。
喜兵衛は岩を診た医者西田尾扇を恫喝し、民谷家出入りの薬売り小平にたどり着くが、民谷家の薬は利倉屋から仕入れられてることしか判明せず、痘痕は本当に毒のせいなのか、であれば誰の仕業だったのかは分からずじまいだった(とりあえず小平は殺害)。
モヤっとしっぱなしの喜兵衛は腹いせに利倉屋の娘梅を蹂躙する。
怒った利倉屋は喜兵衛に責任を取るよう直訴、事情を聞いた直助は、宅悦を通じて又市を引っ張り出し、喜兵衛との談判に乗り込む。
聞く耳を持たない喜兵衛が又市らを斬ろうとしたところへ又左衛門が現れてその場を丸く収め、梅を民谷の養子にした上て喜兵衛に輿入れさせると利倉屋を欺く。
又左衛門の存在が気に入らない喜兵衛は、鉄砲に細工し事故を起こして又左衛門を再起不能にする。
西田尾扇は自分に類が及ぶ前に直助を売り、喜兵衛は直助の妹袖を蹂躙する。
袖は自害。直助行方をくらます。
岩の行く末を心配した又左衛門は宅悦に相談し、又市は伊右衛門の婿入りの話をつける。
喜兵衛は伊右衛門も気に入らず、夫婦不仲につけ入って岩を騙して家を出るよう仕向け、廃嫡とし、妾となって子を孕んだ梅を民谷養女として伊右衛門に添わせる。
喜兵衛から離れたい梅は喜兵衛の企みを知りつつ従い、伊右衛門と夫婦になった途端に伊右衛門に喜兵衛の謀を暴露、ただし岩が喜兵衛に騙されたことだけは黙っていた。
やがて子が生まれるが喜兵衛は梅との関係を絶たず、5日ごとに民谷家を訪れる。
身を隠していた直助は妹の復讐に西田を殺害。その後偶然伊右衛門に遭遇し、民谷家の中間となって匿われる。そのあいだに情報を収集し、喜兵衛の企みを知る。
宅悦と直助は真実を岩に伝え、伊右衛門が全く幸せになっていないと知った岩は発狂し、宅悦を撲殺。

…で、隠坊堀へ向かった岩は伊右衛門が夜釣りしてるのを目撃して、直助らの話が真実だと確信するのか。

いつまでも消化できないのは、最も肝心なエピソード(岩の死)が書かれていないからだ。
やっぱり私の想像力では補いきれない。
岩が逐電した翌日に又市が民谷家に行って、荷車に木材を積んだ伊右衛門と会ってる時には、多分岩はもう死んでて屋敷内に安置されてるだろう桐箱に入ってる、と思う。
隠坊堀で伊右衛門を認めた岩は、それからどうしたんだろう。
伊右衛門と会話しただろうか。
梅を、喜兵衛を斬った伊右衛門は、コトの真相――岩が喜兵衛に騙されて家を出たことを把握していたのだろうか。そうでないとあんな落とし前にならない気がする。
だとしたら、伊右衛門は岩から真相を聞いたか。
そして、岩はどうして死んだ?
京極夏彦の匂わせ方はいつもとても分かりやすいけど、ここだけはどうしても分からない。
それこそ読者の解釈に任されてるのかな。

勝手な妄想を語ると、伊右衛門が岩を斬ったとする説は採らない。なぜなら人を斬れない伊右衛門が決心して刀を研ぎに出し喜兵衛(と梅)を斬った、という展開じゃないと「人を斬れない気持ちより勝った感情」が感じられなくなるから。
隠坊堀で帯刀してたとも思えないし。
狂死か、自死か…。やっぱり分からない。

あと蛇足ながら、本作品には男性と母親の関係についても何か言いたいことがありそうだけど、イマイチ摑めなかった。
これについてはネット上に優れたレビューがあったのでそちらに譲る。

それにしても、こうして出来事を起きた順に列記しても、小説としては面白くないか。
京極夏彦の卓越した物語の見せ方を改めて思い知ったかも。

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2020年12月20日

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