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Posted by ブクログ
久々に再読しました。
表紙は怖いけど、自分は読み終わって「夫婦ってなんだろう」みたいなことをずっと考えていた。
何回も読み返して、味わい尽くしたい本。京極作品はいつもそうなのだけれど。
Posted by ブクログ
どうやったらこんな文体でこれほど完璧に書けるのだろう。京極夏彦は実は昔の人なんじゃないだろうか…
と思ってしまうほど、慣れ親しんだ現代文章とは違う。しかし、戸惑うのは最初だけで、読み進めるに従いどんどん慣れてきて、むしろこちらがその世界に引き込まれてしまう。
ジャンルはミステリーではないはずなのに、伏線や人物が徐々にからみ合って行き、謎とは思っていなかったことが実は謎だった、そしてそれが解決されるカタルシス。
こっそり又市一味が出てくるのもファンには嬉しい。
Posted by ブクログ
人は結局、自分勝手に生きている。
そのズルさをわきまえながら、
図々しさにちょっと照れながら、
人間クサく生きている治平さんが好きです。
主人公の性格(モノの考え方・・・哲学?)がすごく魅力的だったのと比べ、物語自体はフツウだったので、☆4つ。
☆☆☆内容(ネタバレ)☆☆☆
主人公、小幡小平次(こはだ=こへいじ)は、
押入れの中に引きこもり、
ふすまのわずかな隙間から、女房をじっと見ている。
話しかけても答えないし、
語りかけても応じない。
奥さんが叩こうが蹴ろうがわめこうが怒ろうが、
何もしない。
ただただ、ずっと、押入れの奥から
覘いている。
「何とか云ったらどうなんだい!!」
女房は、益々荒れた。
--***--
小平次は役者だった。
何も演ずることができない、駄目な役者だった。
劇団の座長が死んだときも前妻が亡くなった時も、
腹の底から悲しくなった筈なのに、涙が出てこなかった。
泣くべきときに、何故か涙が出てこない。
もしかして本当は悲しくないのか。
悲しみとは何か。感情とは何か。
ひょっとして自分は何も感じないのか。
そう考えあぐねているうちに
・・・とうとう「自分がなんだか分からなくなっちゃった」人だ。
--***--
遺体に取りすがり、涙に暮れる遺族が居る。
「さぞ無念だったろう、さぞ悲しかろう、悔しかろう」
思いやる。
だが実際は、人の心が分かることなどない。
他人の気持ちが分かろう筈もない。
「自分の身近な人が殺されたらショックだろうな。。。」
「自分が殺されたら嫌だなぁ」
というイメージを自分勝手に膨らませ、
遺族に“なったつもり”の自分、
“『家族を殺された人の役』を演じる”自分、
悲しい気持ちになった自分を、
憐れみ、なぐさめる。
遺族を思いやっているのではない。
自分の演技に、酔うている。
小平次は自分が嫌いだ。
苦しむ人を見るにつけ、悲しむ人を目の当たりにするにつけ、
ふつふつと感情を湧き上がらせる自分が厭だ。
不幸な他人を“演じる”ことでハッキリしてくる、
ずうずうしい己が厭だ。
いつでも薄く冷ややかで、静かな状態で居たがった。
そうして、
小平次はしゃべることができなくなった。
自分のことを語ろうが、他人の事を話そうが、
しゃべるという行為は結局『自己主張』になってしまう。
自分のことをしゃべるのは、厭だった。
--***--
小平次は、他人を演じられない。
だから貶せない。褒められない。
呪えない。祝えない。
蔑めない。
怒れない。笑えない。悲しめない。
泣けない。
喜べない。
他人の心の内を、
覘くことしかできない。
そういう、悲しい男の物語。