【感想・ネタバレ】NHK「100分de名著」ブックス 夏目漱石 こころのレビュー

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Posted by ブクログ 2020年10月14日

夏目漱石の他の作品や評論文なども引用し「こころ」という小説が本格的に論じられていてしかもわかりやすく書かれた良書だと思う。自分の分身を殺すことにより自分自身を殺すエドガー・アラン・ポーの「ウィリアム・ウィルスン」のように、Kは「先生」の分身であったとも読めること、「夜と霧」のフランクルがいう「態度価...続きを読む値」(自らの努力では逃れられない運命とも呼べるような事態に陥ったときに、その運命を受け止める態度によって実現される価値のこと)により「先生」はKの死後ぎりぎり生きていたという部分が印象に残った。

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Posted by ブクログ 2015年02月02日

漱石が高等遊民のような一般的にはとても「先生」と呼びがたい人びとに「先生」の呼び名を与えたのは、漱石が生きた明治の時代がリーダー不在の時代で、理想なき若者が増えていくなかで、新しい手本として登場させたという論は面白かった。教師や政治家にではなく、自分が「この人だ」と見込んだ人がすなわち「先生」である...続きを読むという、「名よりも、実を求める」漱石の気持ちの表れによるものだという説は頷ける。
漱石作品とその時代をリンクさせた年表や、先生の年表などがあるのもありがたい。
先生と呼ばれることの多かった漱石自身、教師としては大変熱心で、若い人を育て導く漱石の一面も再確認することができました。だからこそあれだけの弟子もいたのでしょう。上からではなく、自分の持っているものを分け与えるというスタンスの漱石は、当時の教壇では大変ユニークに学生に写ったのかもしれません。
Kの自殺の原因が孤独というのは小説内にあることで、私がKに言ったこと、仕出かしたことがどれ程Kを傷つけたか、孤独を際立たせたか。Kには帰るべき家がなく、すがる友もいない。信じてきた道は恋によって奪われ、進退極まる・・・からの、死。煩悶死。
孤独で寂しいから、ではなく、本当に行き詰まったんだろうな、というのは読んで伝わってきます。そのことに当時の若かりし「私」は気づかず、恋の裏切りによって親友を死なせたと誤解する・・・これもKの真実を理解しないという点で、Kを二回殺してますよね。
恋に我を失った男同士の悲劇。
Kと私のやりとりがエドガー・アラン・ポーの『ウィリアム・ウィルスン』に着想を得ているのでは、という説は面白かったです。Kが善良をにない、私が悪をになう。一心同体の彼らは、片割れが死ねば、その片割れも死んでいくしかないという設定は、是非とも読んでみたいし、確かに私とKにも当てはまるような気がします。
お嬢さんに対しての言及も面白く、先生がなぜ妻には何も話さずに死んでいくのかも、自分達を狂わせた張本人には真実は教えてやらない、という理由は背筋が寒くなりました。私とKは同郷の幼馴染みで、私が部屋を分けて住まわせてやるくらいの仲です。その中に突如現れたお嬢さんという存在は、罪悪でもあり、神聖な存在でもあったでしょう。彼らの仲を永遠に引き裂くだけの魔力をもっていたのです。
誰も幸せにならない小説だ、と著者は指摘していますが、まさにその通り。
先生の余生は、「態度価値」であるという作者の指摘は、造詣深すぎて脱帽です。そんな言葉があるんですね。何となくわかるけど、それを明確な言葉と名前にしている学者が既にいました。漱石くらいを読みこなそうと思えば、様々な知識がいるんだなぁ。
この主要三人のこころを想像すると、現代人の抱える思いや悩みは、ここに帰結すると思うのです。
そんな小説を書いた漱石は、あの時代に生きながら、現代人より現代人らしかったのかもしれません。
こんな小説を書いた漱石は、『生』の肯定者だとか。『硝子戸の中』は読まねばなりませんね。
先生の遺書を託された「私」は看取り人であり、先生から信頼された唯一の人であり、死ぬ機会を与えたという人でもあります。Kと先生の生の歴史を受け取った私は、次は誰に引き継ぐのか。一見人が死んでばかりの小説ですが、その歴史を繋いでいくという視点で見れば、これは生の小説でもあるという著者の読みは、納得させられる部分が多く、まだまだもやもやは残るものの、一つの『こころ』の読みとしてはアリだなと思いました。

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