あらすじ
論文は、自分のモヤモヤした考えを明確にするため、またそれを他者に伝えるために書かれる。「自分とは何者か」から「人間の生」「現代社会の在り方」まで幅広いテーマを取りあげて、論文の「かたち」と「なかみ」を丁寧に解説する。本書は、大学入試小論文を通して、文章技術の基本を身につけるための哲学的実用書である。
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Posted by ブクログ
「考える力」を身につけたいと思い、その一助となるような本を探していたのだけど、これは良い出会いだった。小論文対策として以上に、一人の人間として物事(人間の生や社会について)を考え、まとめることについて真摯に取り組んでいる本だ。
読んでいて思ったのは、「独自性ある文章」は思っている以上に簡単には出てこないし、かといって諦めるほど手の遠いものでもないんだ、ということ。
普段から、私たちの周りには「もっともらしい正論」がそこら中蔓延していて、すぐに思考がそっちに引きずられてしまいがちだけれど、それは結局は考えた「つもり」でしかない。そうした紋切型の思考の軛から離れるには、素朴な問いに立ち返ること、粘り強く検討を続けて物事と自分を結びつけていくことが必要になる。
残念ながら試験における論文には制限時間があるので、そんなことを言っていたらすぐにタイムアップが来てしまうが、普段の生活においては、その粘り強い思考こそが何よりも重要なのだろうと思う。その思考の繰り返しが、思考の深み、重みを生むのだと。
実際にいくつか例を使ってその違いを見せられると、成程と頷くしかない。
その問題についてどう問いを立てるか、抽象的に考えていくか、具体的に見ていくのか、歴史的視点はどうみるか、自分との引き付け方は…。そうやって細かく、慎重に考えを積み重ねていくこと。これは、とても面倒くさいことだ。しかし、この本はそこにある面白さを、伝えてくれる。考えまとめたものが「自分の経験」として確かに肉付けされていくのだと教えてくれる。とても素敵な本だった。