あらすじ
【第71回読売文学賞(評論・伝記賞)受賞】
没後なお人気の高まる不世出の異才の生涯
作家の最晩年に編集者として謦咳に接した著者による初の伝記。未公開資料と知られざる逸話を交えながら、不世出の異才の生涯を辿る。
「伊達の薄着」の美学
2019年は澁澤龍彥の生誕91年目にあたる。生前に残した膨大な作品群は根強い人気を誇り、今なお若い読者を惹きつけてやまない。本書は、澁澤と交流をもった最後の世代の編集者であり、2006年に『書物の宇宙誌 澁澤龍彥蔵書目録』を編纂した著者が、知られざる逸話を交えながら不世出の異才の歩みを明らかにする初の試みである。
生い立ちと幼少年期、多感な青年時代。同時代を生きた盟友、出口裕弘や松山俊太郎、種村季弘、三島由紀夫、多田智満子、生田耕作、加納光於、野中ユリ、土方巽、稲垣足穂、加藤郁乎、池田満寿夫、巖谷國士、唐十郎、高橋睦郎、金子國義、四谷シモンらとの出会い。澁澤が彼らと交わした書簡や関係者の証言など未公開資料を盛り込みつつ、若き日の雑誌社でのアルバイト、岩波書店の校正室で知り合った最初の妻・矢川澄子、サド裁判、1960年代から80年代にかけて時代を映す出版物を次々と刊行した版元との関わり、雑誌「血と薔薇」編集長としての仕事、二度目の妻・龍子との出会い、晩年の生活にも触れられる。
戦後の日本で、フランス文学の紹介者として、翻訳家、小説家、エッセイスト、アンソロジストとして、日本文学史上に唯一無二の足跡を残した澁澤の文学と人生を一望する1冊。
[目次]
第Ⅰ章 狐のだんぶくろ(一九二八―一九四五)
1 生誕
2 先祖/両親と親族
3 幼少年期
4 幼少年期の読書/南洋一郎
5 旧制中学時代
6 東京大空襲/敗戦
第Ⅱ章 大胯びらき(一九四六―一九五四)
1 旧制浦和高校/野沢協、出口裕弘との出会い/シュルレアリスム/コクトー発見
2 浪人時代/姫田嘉男/吉行淳之介/久生十蘭
3 東大時代/サド発見
4 「新人評論」/恋愛/小笠原豊樹
5 デビュー前夜/小牧近江
第Ⅲ章 神聖受胎(一九五四―一九五九)
1 『大胯びらき』とコクトー
2 岩波書店の外校正/矢川澄子/松山俊太郎/父の死
3 昭和三十一年/「未定」/マルキ・ド・サド選集/三島由紀夫/多田智満子
4 昭和三十二年/生田耕作と片山正樹/コクトーの手紙
5 昭和三十三年/大江健三郎論/石井恭二/花田清輝
6 昭和三十四年/結婚/加納光於と野中ユリ/「聲」/『サド復活』/瀧口修造
第Ⅳ章 サド復活(一九六〇―一九六二)
1 サド裁判
2 昭和三十五年/『黒魔術の手帖』/矢貴昇司/日夏耿之介/土方巽/稲垣足穂/推理小説月旦
3 昭和三十六年/『わが生涯』の共訳/政治
4 昭和三十七年/『神聖受胎』/『犬狼都市』/『さかしま』/加藤郁乎/小町の家
第Ⅴ章 妖人奇人館(一九六三―一九六七)
1 酒宴の日々/池田満寿夫/巖谷國士
2 昭和三十八年/「世界悪女物語」/サド裁判控訴審判決
3 昭和三十九年/中井英夫と塚本邦雄/『夢の宇宙誌』/矢川澄子の役目/種村季弘/『サド侯爵の生涯』
4 昭和四十年/三島の年賀/『快楽主義の哲学』/高橋睦郎/金子國義/《サド侯爵夫人》
5 昭和四十一年/皿屋敷事件と暴風雨の一夜/「異端の肖像」/唐十郎/世界異端の文学/古典文庫/ 北鎌倉の新居/高橋たか子
6 昭和四十二年/四谷シモン/林達夫/喧嘩
第Ⅵ章 ホモ・エロティクス(一九六八―一九七〇)
1 矢川澄子との離婚
2 昭和四十三年/日本文学へのアプローチ/『美神の館』/アスベスト館
3 「血と薔薇」
4 昭和四十四年/美学校/『怪奇小説傑作集4』/サド裁判最高裁判決/再婚/薔薇十字社
5 昭和四十五年/澁澤龍彥集成/初のヨーロッパ旅行/三島の死
第Ⅶ章 胡桃の中の世界(一九七一―一九七五)
1 前川龍子/昭和四十六年/三島事件の余韻/『暗黒のメルへン』/『黄金時代』/石川淳/アラブ旅行
2 昭和四十七年/鷲巣繁男/『偏愛的作家論』/『悪魔のいる文学史』
3 昭和四十八年/青土社/別冊新評「澁澤龍彥の世界」
4 昭和四十九年/イタリア旅行/『胡桃の中の世界』/吉田健一
5 昭和五十年/ユリイカ特集号
第Ⅷ章 記憶の遠近法(一九七六―一九七九)
1 昭和五十一年/怪人松山俊太郎/音楽
2 昭和五十二年/『思考の紋章学』/フランス・スペイン旅行/世界文学集成
3 昭和五十三年/「玩物草紙」/『記憶の遠近法』/蔵書/日本の古典
4 昭和五十四年/時評/『悪魔の中世』/ビブリオテカ澁澤龍彥/著述の分量
第Ⅸ章 魔法のランプ(一九八〇―一九八六)
1 澁澤の日常/昭和五十五年
2 昭和五十六年/オスカル/ギリシア・イタリア旅行/澁澤の旅/『唐草物語』と泉鏡花賞
3 昭和五十七年/翻訳/反核アンケート/河出文庫
4 昭和五十八年/晩年の土方巽/『三島由紀夫おぼえがき』/ウチャ
5 澁澤龍彥批判
6 昭和五十九年/バルチュス展/澁澤龍彥コレクション/ボルヘス/サイン会
7 昭和六十年/「私のプリニウス」/富士川義之/幻想文学新人賞
第Ⅹ章 太陽王と月の王(一九八六―一九八七)
1 素顔
2 昭和六十一年/土方巽の葬儀/『うつろ舟』
3 入院、手術、死
4 葬儀
あとがき/詳細目次/主要参考文献
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Posted by ブクログ
国書刊行会で晩年の澁澤龍彦を担当していた編集者による伝記。
私は澁澤が自生活を書いたものは意図的に避けてきたので、特に前半生は知らないことばかりだった。東京空襲で幼少期に読んだ本が焼けていることなど、考えればわかることなのに思ってもみなかった。防空壕をでて焼けた自宅を見に行ったお母さんが、釜のお米が炊けていたと喜んで持ち帰ってきた話がすごい。
学生時代のエピソードはこんな萌えキャラがいていいのかよという感じで、ガリ勉のちびっこでありながら家では2人の妹におだてられて暮らすお山の大将だし、女にフラれたときには余裕ぶった"優しい手紙"を書き、妹に読ませて名誉回復してから投函したりするプライドの高い王子さま。それがそのまんま、子どもがいらないのに避妊をしないで矢川澄子を四回も中絶させるクズさに直結するのだが。
一番驚いたのは、三島とこっくりさんをやったという有名な話の夜に岡上淑子もいたということ。「◯◯夫人」という呼び名の裏に目隠しされてきた情報に呆れるほかない。アルトー『ヘリオガバルス』の澁澤訳があることや、大橋巨泉の『11PM』にTV出演したことがあるのも知らなかった。書き方からして磯崎さんも映像を確認できていないみたいだけど、TV局にも残ってないのかしら。
周囲の人で印象に残るのは、三島以外だと、いつも大事なところで怒ってくれる野中ユリと、やっぱり松山俊太郎。それなりに敵も多い自由人の澁澤が、松山の前では一歩引いて笑って自由を明け渡している感じ。尤も、松山自身はお互いに対等ではなかったからこそ続いた(澁澤のことを兄貴分として慕っていた)関係だとしている。三島と澁澤の関係も同じだったのではないかと思う。
編集者時代に担当していた久生十蘭からの文学的・人間的な影響や、遠い国の良きライバルとしてボルヘスを常に意識していたことなども面白かった。花田清輝に会わなかったのは不思議で残念だし、寺山修司が澁澤の小説に期待しながら若くして亡くなったのも無念。『高丘親王航海記』はおそらく寺山の読みたいものとは違っただろうけど。
澁澤が書いたものの面白さは、インターネットが普及して情報が飽和状態になってからのほうが認められやすくなったんじゃないかと思う。自分が読んだ本からの引用・抜粋ばかりしている人はTwitterにもたくさんいて、だけどその人独自の文脈、独自の面白がり方が見えてくれば読み物として成立している。発想のオリジナリティよりも、選択と並び替えのオリジナリティ。そしてそれは近代以前の知の在り方にも近いんじゃないだろうか。
女性読者として気になるのは、矢川澄子が澁澤そっくりの字を書いて「ずっと清書をやってたから」と笑っていたということや、龍子さんも清書するのが一番の幸せだったと語っていることだ。男性でも編集者なら「原稿を一番に読める喜び」を語ることはよくあり、女性だからと一概に言えるものではないかもしれないけれど、澁澤に限らず〈家庭内編集者〉としての妻の存在を考えずにいられないなぁ、この時代の人は。
著者の礒崎さんは澁澤を神様のように思いながら編集者を始めた人だそうで、本書も批判的というよりは、現代の目で見て評価できる面に重きを置く肯定的な本だ。高原英理の「ガール・ミーツ・シブサワ」を長々と引用していて、あれに共感する側の人なのだなぁと思った。澁澤の棺をだすときに降った天気雨を天使にたとえたのも印象深かった。
Posted by ブクログ
20歳頃から愛読していた澁澤龍彦。「ヨーロッパの乳房」を読んでから憧れ続けていたイタリアのボマルツォに、ローマから電車とバスを乗り継いで行ったのもいい思い出だ(もう20年以上前だ!ちなみにアカウントの写真はその時の)
晩年の担当編集者だった著者による伝記で、考察を交えながら澁澤龍彦がどんな人物だったのか、様々な資料から基本、時系列的に事実を追っている。正直、澁澤龍彦ってこんな人だったんだ、と意外に思う部分もあり、澁澤龍彦像を頭の中で作り上げている少年少女は、もう30年くらい経ってから読むのをオススメしたい。
伝記ではあるのだけど、読者がなぜ自分は澁澤龍彦に惹かれるのかを解き明かすための書物ともなっている。澁澤龍彦を媒介にして自分を見つめるとは、なんとも愉快な体験だった。感謝。