あらすじ
「あのまま一人で焼け死んでくれていたら……」
真面目に生きてきた人が、陥穽にに落ちる時――。
「高齢化社会×犯罪未満」をテーマにした傑作心理サスペンス。
デビュー10周年の現役医師作家の新境地!
「沈黙の患者」
まだらぼけの母がボヤを出し、介護に悩まされる、バツイチでビルの清掃員として働く56歳の早智。近所の鷺沼に唆されて、「認知症の母」をレンタルして介護保険を騙し取ってしまった。500万という大金に最初は喜ぶ早智だったが、鷺沼が“念書”なかなか返してくれず、焦り始める。念書に使ったのは息子の名刺だったのだが、その息子は……。
「ニセの語り部」
『わたしたちの戦争を語り継ぐ会』のスタッフ・早苗は、88歳の語り部・兵頭の“語り”に感動して涙し、その語りを広めようとする。しかし兵頭は年齢を高く偽っている、彼の記憶は借り物ではないか、という噂が流れる。早苗は必死に彼を庇おうとするが、SNSでの攻撃が始まってしまう。
「王子様の不親切」
医学療法士・村上は訪問リハビリサービスで担当する87歳の御影さんに「王子様」と呼ばれ、色々頼られている。しかし、“お金”にまつわることで、どうしても引き受けられない頼みを断ったことから、担当を外されてしまう。どうすればよかったのか――答えの出ない村上は、別の利用者からあることで、現金を預かることになり、動揺する。
「夕暮れの善意」
子ども食堂のボランティア・春菜は、ある日訪れた老人・寺尾と“孫”メグの仲睦まじさに心温まるものを感じた。しかし、寺尾は見ず知らずの少女を連れてきているのではと疑惑が持ち上がる。面倒ごとに巻き込まれたくない春菜はスルーしようとするが、彼の家を訪ねた際、不審なアルバムを見つけてしまう。
「シル専の女」
79歳の父に58歳の「恋人」ができた。父が騙されているのではないかと疑うアラフィフ独身姉妹の美穂と江里。恋人・淳子の入れ知恵で父が通院もせず降圧剤を飲んでいないことなどを知り、二人を無理やり別れさせる。しかし、父はそれを境に生きがいを失い、みるみる体調を崩してしまった。江里はこんなことなら認めればよかったと嘆くが……。
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Posted by ブクログ
この本は高齢化社会を背景に、現役の医師である作家が介護の負担やお金、善意に潜む危うさを描いた5編の心理サスペンス短編集だ。
表題作『沈黙の患者』の主人公は、清掃員として働く56歳の早智。認知症の母の介護認定を替え玉の老婆で受けさせ、大金を得てしまうという話。
そのほか、戦争体験を語る老人の話、訪問リハビリの担当者がお金に関する頼み事を断る話。子ども食堂に来る老人と少女の話。高齢の父の恋人を疑う姉妹の話…
いずれも話のどこかに、むさし訪問クリニックの水戸倫子先生と看護師・コースケが共通して登場するというのが面白い。(この2人は、南杏子さんの別作品『サイレントブレス』に登場する主人公だ。)
また『シル専の女』がシルバー専門で老人を騙して財産を巻き上げる女の人を指すということも初めて知った。
なかなか全ての話が面白く、その辺にあるのではないかと思いながら読んだ。表題作『沈黙の患者』は、我がオフクロの件で昨年慌てて介護認定を受け、要支援2から要介護2という判定を取り、ホッとしたことを思い出した。これを替え玉受験するなんて発想は目からウロコだったなあ。しかし、要介護認定の結果が施設入居の鍵を握る現実があり、これを偽って儲けようと考える輩がどこかにいそうだと思う…
高齢化社会のあちこちにできた歪みが、一歩間違えると犯罪に繋がるのがリアルで怖いなあ。