【感想・ネタバレ】犬婿入りのレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

⚫︎受け取ったメッセージ
混ざり合い、影響しあう人間と文化

⚫︎あらすじ(本概要より転載)
多摩川べりのありふれた町の学習塾は“キタナラ塾”の愛称で子供たちに人気だ。北村みつこ先生が「犬婿入り」の話をしていたら本当に〈犬男〉の太郎さんが押しかけてきて奇妙な2人の生活が始まった。都市の中に隠された民話的世界を新しい視点でとらえた芥川賞受賞の表題作と「ペルソナ」の2編を収録。

⚫︎感想
「犬婿入り」
全てのものに境界線がない世界観。民話風な雰囲気で現在と過去、現実と虚構、動物と人間、父と娘、妻と夫、先生と生徒、男と女、清濁、といった境界全てを曖昧にしてひとつの世界を作っている。非常に不思議なお話。排泄物の話や鼻くそノートなんてものも出てくる。これも自分のもののようで自分から離れて、でも自分のものなのか?という象徴か。すべての登場人物が普通のようで普通でなく、すべて「生き物」として描いている。

「ペルソナ(能面)」
ドイツに住む日本人である主人公が、言葉が違う国で暮らすことで「日本人」としては認識されず、「東アジア人」として曖昧に認識され、曖昧な状態におかれる。日本らしさを象徴する能面を被って街へ出るが、もはやそれは主人公とは認識されない。
最近の多和田さんのインタビュー記事を読み、著者はこの「間合い」の世界を捉え、作品にしていると知った。この作品は主人公の苦しみが中心だが、多和田さんはその間合いを好ましく捉えて執筆している。

「純粋にたった一つの文化から生まれる言語があるとは思いません。言語は常に混ざり合い、他の文化や言語の影響を受け合っています。」というインタビュー記事から、このこと自体をテーマとして物語が創出されているのが多和田作品なのだとわかった。

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2023年11月21日

Posted by ブクログ

ネタバレ

2編収録。
・ペルソナ
ドイツに姉弟で同居する道子。二人はそれぞれ留学中の身である。ドイツ中世文学をやる弟、道子はドイツ現代文学を研究中だが、成果なく、奨学金を得られなくなり細々したバイトに明け暮れている。
自分に向けられる差別、自分以外の外国人に向けられる差別、日本人の奥さんたちと弟が持つ差別感情。道子は常にそれらを感じながら生きている。
作者の体験から出てきた作品なのだろう。肌感覚の嫌な感じがうまく文章から伝わりゾクゾクする。

・犬婿入り
面白すぎる。だが笑って済まされるものではない不穏な物語だ。民話にありがちなエロさ、不潔さ、理不尽さをきちんと備えた、しかしちゃんと現代の話である。なんのメタファーか寓意かわかりそうでわからない。作者の只者ではない力量に感服するほかない。

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2022年01月01日

Posted by ブクログ

ネタバレ

人は自分と共通点のある似通った人とは仲間になりたがるけれど、ちょっとでも異なる人とは区別したがる。
生まれた国や言語、文化、風貌、立ち振舞い等あらゆる基準により自分とは異なる者を「異物」と見なし排除し、時に攻撃する。
まるで多数決で多い方が正義となるかのように。
『ペルソナ』でのドイツに住む日本人・道子に対して、表情が乏しく何を考えているのか分からない、と言って傷付けたり、表題作の風変わりな塾教師に対して母親達が無責任な噂話を広めたり。

個人的には芥川賞受賞作の表題作より『ペルソナ』(これも芥川賞候補作)が好き。
道子が日本人の顔になるために化粧をする姿(素顔ではベトナム人に間違えられるため)や能面(ペルソナ)で顔を隠すことにより柵から解放され堂々と歩く姿がとても印象深い。
長年ドイツで暮らす多和田さんも、ドイツに住み初めの頃は色々と苦労したのだろうか。

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2018年11月25日

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