【感想・ネタバレ】歌う国民 唱歌、校歌、うたごえのレビュー

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唱歌、卒業式の歌、校歌、県歌、労働者の歌をそれぞれが作られた社会状況に照らして分析する。

地理唱歌、唱歌遊戯、1891(明治24)年「小学校祝日大祭日儀式規程」の制定などなど

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2023年10月22日

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 明治12年という早い時期に新政府は西洋音楽の導入を始める。目的は芸術・文化の向上などではなく,「日本国民」を作るためだった。「コミュニティソング」をキーワードに,明治から昭和までの歌の歴史をたどる。
 西洋音楽の導入は,日本を国民国家としてスタートさせるにあたり,近代的制度や生活に必要な知識の普及を主眼に行われた。貯金の仕方,食中毒の防止法,栄養の大切さ,なんかを歌いながら覚えさせようという話で,東京音楽学校の先生たちは大真面目にそういう唱歌を作った。もちろん皇国イデオロギーを植え付ける唱歌も作られ歌われたが,それだけでなく,日本の地理とか銀行とは何かとか,実用知識を身につけるための唱歌も多かった。そして国だけでなく民間からもそういう歌がたくさん提案され,歌われた。かなり意外。
 また,江戸時代までの日本人は,皆で一斉に体を動かすようなことをしなかったので,近代的兵隊には不向きだった。リズムに合わせて全員揃って動かせる,そういう身体を作り上げるのに,音楽は不可欠だった。あと,近代制度・知識を伝える唱歌をはじめとして,内容つまり歌詞重視で,メロディは結構西洋のをそのままパクってきちゃうこともあった。今,我々は中国を著作権が守られないとか批判するが,日本も近代化の途上ではあっけらかんと同じようなことをしていた。
 少し例を挙げると,「郵便貯金唱歌」の歌詞。♪いざ貯金せよ貯金せよ 貯金の数の重なりて 通の紙のなくならば 又別帳を請ひ受けよ
「夏季衛生唱歌」の歌詞 ♪蟹やイカタコ海老イワシ 揚げ物貝類ところてん ささげにかぼちや,もち,だんご いづれもこなれぬものなるぞ ♪すべて飲み食ひしたものが あとで悪いと気付いたら 指を差し入れ吐き出して あとを塩湯でよく洗へ
 こういう唱歌で,下々の日本人は近代をとりいれていったのだなあ。そして皆で声を合わせて歌って,一体感を高めることも重要。コミュニティソング。そうして日本人とか何々県人とかが出来あがった。感慨深い。
 唱歌「栄養の歌」の歌詞 ♪豆腐・納豆・味噌・黄粉 豆こそ肉の代用なれ 小間切肉や煮干添へ 美味と栄養兼ね得べし 凡そ調理に心して 廃物出さぬ工夫せよ 貯蔵の法を弁へて 天の恵みを無益にすな
 何だか保育園で歌う歌みたい。食べ物って大事だよ!
 卒業の歌についても一章割かれていて,唱歌「仰げば尊し」と戦後の「旅立ちの日に」の綱引きについて詳しい。「女王の教室」というドラマが一役買っているらしい。あと,宗左近のぶっとび校歌とか,長野県歌「信濃の国」についても触れている。戦後のうたごえ運動についても。うたごえ喫茶とかうたごえ酒場とは違って,うたごえ運動は労働組合なんかが合唱団をつくって,全国的な統制の下に行なわれた文化運動。基地闘争とかの左翼運動とも連帯。山崎豊子の小説で,混声合唱団をエサに左翼運動にオルグするみたいな場面があったって,こないだ妻が言ってた。うたごえ運動ってそんな感じだったのかなあ。戦後のそういうのって面白い。

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2011年10月28日

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あまり芸術研究ではメジャーではない音楽分野に関する詳細な調査と分析、そして自身の文化論の主張の明快さが特徴。

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2011年08月02日

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 音楽を巡る近代史、あるいは近代史における音楽に関する本、と言えば良いだろうか。
 まず第一章では、維新政府がスタートして早々の明治12年に、後の東京音楽学校の前身である「音楽取調掛」が設置されたことから始まる。それは西洋の"芸術"を導入しようとしたものだったのか?それは、近代国民国家を作るために、「国民」が共有できる「国民音楽」をつくり、皆で歌うことによって帰属意識や連帯意識を高めることを目的としていたとする。

 続く「唱歌」の章では、鉄道唱歌を例に、地理唱歌、歴史唱歌といった啓蒙のための唱歌について、現在の我々がイメージする"音楽"よりも広く、帰属意識や連帯意識を形成、維持するために歌われる「コミュニティ・ソング」というコンテクストで捉えることが適当だという。
  
 後の章では、卒業式の定番ソング《仰げば尊し》と《旅立ちの日に》の対照、校歌、県歌をめぐるドラマ、そして『うたごえ運動」について、事実の紹介とともに
その意味合い、位置付けが語られる。

 エピソードとして興味深い事実や内容がふんだんに紹介されていて、それだけでも面白いが、現在の常識や固定観念に囚われず、時代状況に即して見ていけば、全く違って見えてくるものがあることを学ぶことができた。

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2021年08月03日

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鉄道唱歌をはじめとする唱歌や、校歌や県歌などの成立を知ることができます。県歌の代表例として、信越本線が歌われている長野県歌のエピソードが載っています。

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2018年05月17日

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序盤面白かったが、後段になるにつれ少々期待外れ。近代装置としての唱歌がその受容によって変容していくのは興味深い。

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2011年01月20日

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古くは“音楽取調掛”による唱歌の作曲・選定から校歌・県歌・社歌の普及、そして戦後の「うたごえ運動」まで国民と共にあった「合唱=コミュニティソング」の姿を現代の音楽的解釈とは別の社会的立場から読み解く。「国語」の成立は「国民国家」の成立に不可欠だったように「唱歌」の存在も「国語」の敷衍になくてはならなかった。「会社の屋上でバレーボールをする傍ら合唱の練習」確かに消え去った“昭和の風景”。「国民国家」意識はとうに崩壊しているのかも知れない。

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2011年08月19日

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明治~高度経済成長期あたりを中心に、唱歌、校歌、社歌、それにうたごえ喫茶などの背景にある時代背景やイデオロギーを語る。

度々筆者が言及しているのが、現在の価値観だけで捉えてはいけない、ということ。全体主義的と思えたりヘンテコな歌詞だと思えるものも、当時の社会情勢からするとそれが当然だった可能性がある、と。また、例えば戦後のうたごえ喫茶は左翼的な政治活動と結びつけて考えられがちだが、「そういう人達もいた」というくらいに捉えた方が良いようだ。

しかし筆者がいくらフォローしても、昔の唱歌が政治的プロパガンダの色合いが濃い感は否めない。実際、明治政府は日本を近代国家にしていく過程において「日本国民としての統一感」「品性のある国民」づくりの一環として唱歌を制定してきたようだ。

他にも、昔は当たり前のように卒業式で歌われてきた「仰げば尊し」は色々思想的な物議をカモスコトガあって今ではあまり歌われなくなってきているという話などが興味深かった。

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2022年04月11日

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いま私たちがくちずさんだり、郷愁を覚えるなどと形容する唱歌や校歌といったものが盛んにつくられた近代においては、それらには国家のような大きな力による大衆の啓蒙や知識づけ、扇動……いってしまえばプロパガンダ的な要素があったということを論じている。論文の構成で、ですます調で書かれているような感じ。
唱歌に啓蒙的な要素があるとは以前にも聞いたことがあるし、たとえば年号の語呂合わせとか電話番号をメロディー化するとか、要は覚えるためにキャッチーなフレーズにしたり歌にしたりすることで、覚えるというより身にしみ込ませていくのが人間ってものなんだなと思った。そう考えると、詩でもなく曲でもなく「歌」っていうのは面白い媒体?媒介?だよね。
唱歌とか校歌、そのほかこの本で触れている社歌とか労働歌、うたごえ運動で親しまれた歌とかはみんなで歌うもの、つまりみんなが知っているものでもあるわけで、だからこそ、啓蒙とか意識の醸成とかの目的遂行に役立つ。最近はみんな、自分の好きな歌を独りで聞き、独りで聴く方向に向かっているから、こういう歌の特性って薄くなっていくのかも。

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2018年12月21日

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ネタバレ

 明治から現代まで音楽という切り口から社会を分析する。けっこう厚くて話題も多岐にわたる。一番言いたいことは、一見別物に見えるものでも実は繋がっている。そこでこれまでとは別の視点から歴史を捉えなおすということだろうか。
 戦前と戦後で180度方向が変わったように見える文化活動も実は共通の要素があったり、昔流行したものが現代で再び流行ったりするのは根底に大きな流れがあるから。それが国民音楽だったり「国民づくり」なのだ。

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2014年06月23日

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日本人はどうして歌うのか?
歌の力は大きい。だから、歌の力は利用できる。でも、やっぱり残る歌には残るだけのプラスアルファがあるのだ。

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2011年03月29日

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うたごえ運動についての章が、よくまとまっていて、背景など理解でした。今の時代に合わせ、変化している部分変わらない部分あるなあと…

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2011年03月05日

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