あらすじ
東京大学在学中の1955年から57年にかけて執筆された、四つの小説「暗い部屋からの旅行」「火山」「黒いトラック」「旅への試み」。このうち、「暗い部屋からの旅行」「旅への試み」は昨年11月、大江が大学時代の下宿先で保管されていた、原稿用紙に書かれていた。一般的な文壇デビュー作とされる「奇妙な仕事」に先立つこれらの作品は、大江の生来の才能と、その後の作家的な発展への示唆に富むものだ。大江文学研究史としての価値はもちろん、若き魂が生み出した輝かしい原石のような小説を、ぜひとも味わってほしい。
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Posted by ブクログ
本作品は大江健三郎が東大生だった頃、北区西ヶ原の(私も同じ町内だった)下宿先の家主の加藤シノさんの遺族の下に長年保管された原稿2作品を含めて書籍化したもの。大江健三郎のデビュー作は短篇小説「奇妙な仕事」(1957/5/22)なので、それよりも前に執筆されたものとなる。習作的位置付けとなるが、学生時代に試行錯誤しながら小説を書くといった側面も感じられ、当時の学生活動も垣間見れる内容となっている。
時々出てくる「ユマニスト」という言葉は、政治団体・党の名前として用いられている。これはフランス語の発音であり、英語の「ヒューマニスト」と同義である。似た名前の「ヒューマニズム(人道主義・博愛主義)」とは意味合いが少々異なるとのこと。神や宗教に依存せず、あくまでも人の心が優先される、人が内面的にどの様に考えるかが論理の中心となる。日本現代のユマニスト渡辺一夫に憧れて東大に入り、もちろん渡辺教授の研究室に入り、自身がユマニストとなりフランス文学にどっぷりと浸かり、次々に名作を執筆し続けることになる。
4作品の主人公の心の動きは基本的に共通するものがある。特に人間の尊厳に対する拘りに固執する考え方が文章の端々に散りばめられているのが特筆すべき点である。それを表現するためには、少々非常識な発言をしても構わない節が見られる。
私が大好きな安倍公房、小澤征爾、武満徹とも親交があり、少しではあるが関連する書籍も出版されている。現在のババア政権とは全く反対で、反戦・広島に関して共感する面がかなりあるので、機会を見てマイペースで未読作品とこれからも向き合っていきたい。
Posted by ブクログ
初・大江健三郎作品
何度か読もうとしたが、とにかく読みにくい。
そこで映画「飼育」を見てから挑むことにした。
予め何らかの(映画の原作としての)世界観を掴むと良いと思ったから。
映画「飼育」をみたあとだからこそ、共通のモチーフがあるのに驚いた。
そして、この箇所は「飼育」の下敷きなっているのではないかと思った。
「火山」86ページより
あなた達は確に外国兵士団S火山支隊とは無関係ですか。もし、はっきりした証拠がなければ私達はあなた達をスパイであると考えます。すぐこの場所を離れていただくか一応あの小屋へ収容して取調べをやらしていただく。
「火山」については次の話からも元ネタではないと言われている。
1953年の浅間山米軍演習地化計画は、東大地震研究所の火山観測断絶への懸念を最大の武器に、思想や立場を超えた長野県民の猛烈な反対運動によってわずか3カ月半で撤回された。
大江作品は同モチーフが異なる作品に頻出する。しかし、それが同じ意味を持つのではなく、大江はその時々の時代背景や大江自身の変化により、モチーフの意味を変えてきているので注意が必要だ。
この本の年譜が好きだ。どうも作品よりこちらに惹かれる。それを見て作品を読むとさらに大江の世界が掴める。その時代に何があったか、要素を入れ込んで作品を読んでいく。改めて歴史を知っておくことの大切さはここにある。とにかく深く掘る思考ができる。自己満足的な知的好奇心が満たされる。