【感想・ネタバレ】人体 失敗の進化史のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

     -2006.09.02記

 著者の遠藤秀紀は、現役の動物遺体解剖の泰斗であろう。動物の遺体に隠された進化の謎を追い、遺体を文化の礎として保存するべく「遺体科学」を提唱する第一線の動物学者である。
この人の著書は初めて読むが、「人体 失敗の進化史」は決して奇を衒ったものではなく、専門の知を真正面から一般に判りやすく論じてくれた好著だ。
失敗ばかり、間違いだらけの進化史、その言やよし、ものごとはひっくり返してみるくらいの方がいいと常々私も思う。諸手を挙げて賛成だ。

「偶然の積み重ねが哺乳類を生み、強引な設計変更がサルのなかまを生み、また積み上げられる勘違いによって、それが二本足で歩き、500万年もして、いまわれわれヒトが地球に巣喰っているというのが真実だろう。」という著者は、本章の1・.2章で、耳小骨の話を軸に、爬虫類から哺乳類、さらにヒトへと、顎と耳の作り替えの歴史を、見事に具体的に語り、われわれヒトの手足が、3億7000万年の魚類の肉鰭へと遡ることをこと細かに解き明かしたうえで、「脊椎動物の多くは、設計変更と改造を繰り返した挙句、一皮剥がしてしまえば、滅茶苦茶といっていいほど左右非対称の身体をもつことになってしまったのである。その典型が哺乳類などの高等な脊椎動物の胸部臓器なのである。脊椎動物の5億年の歴史のなかで、我々ヒトの心臓や肺に見られるごとく、脊椎動物がどう酸素を取り入れて、血液を流すかという作戦は、身体の左右対称性を継ぎ接ぎだらけに壊しながら、改良に改良を重ねてきたものなのである。」という。もちろん、心臓や肺について、あるいは腰椎や骨盤について、いかに設計変更や改造をしてきたか、具体的な説明にはこと欠かない。

著者いうところの「前代未聞の改造(第3章)」が、ヒトのヒトたる所以の二足歩行であり、自由な手の獲得であり、直立したヒトの脳の巨大化であるのだが、一方でそれらは垂直な身体の誤算-かぎりない負の遺産を我々にもたらし、現代人の誰もが悩まされる数知れぬ慢性病として現前しているのだが、著者は「ヒトのトラブルの多くは、ヒト自身の設計変更の暗部であると同時に、ヒト自身が築いた近代社会が作り出す、予期せぬ弊害なのだ。」と説き、われわれホモ・サピエンスとは「行き詰まった失敗作(第4章)」であり、「ヒトの未来はどうなるかという問いに対して、遺体解剖で得られた知をもって答えるなら、やはり自分自身を行き詰まった失敗作と捉えなくてはならない。」と結論づけている。

年間200から500頭の動物の遺体を、毎年のように、解剖し標本にしてきたという著者は、終章において、自ら立ち上げた「遺体科学研究会」の名で、動物の献体を声高に一般市民に呼びかけている。
行政改革の大号令のもと、全国各地の動物園や博物館には指定管理者制度の導入や民営化の嵐が襲い、著者の遺体解剖の現場も研究も、現状を維持していくことがより困難になりつつあるのだから無理もない。

最後に、これは著者には関わり合いのないことであろうけれど、遺体・献体の話題といえば、この数年、日本の主要都市で連続的に開催され、多くの観客を集め注目されている「人体の不思議展」について、嘗て私は「学術に名を借りたいかがわしい見世物」と批判しているのだが、是非にもご意見を拝聴したいものである。

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2013年06月23日

Posted by ブクログ

ネタバレ

初めて読んだ遠藤先生の本。
書名から「文化人類系の本かな?」と思って手にしたら、全然違いました。
が、面白かったです。
生物としてのヒトがいかにいびつに出来ているかが分かる。

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2012年05月11日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ヒトが二本の足で立ち上がり、自由になった前肢で道具を作り、使い、大きくなった脳で物を考え、文明を作る。
二足歩行がどれだけ画期的で、歪で、奇跡的なものなのか、全然理解していなかった私には、とても新鮮な本でした。
そしてまた、その二足歩行が起こす弊害。タイトルの「失敗」はそういうことかあ。腰痛も肩こりも、そもそも生き物が二足歩行すること自体に無理があったことと、現代人の“ありさま”を「進化」が想定していなかったことから起こった悲劇がもたらしたもの、っていうのもおもしろかった。
そして、筆者のこの先の「進化」についての見解が切ない。

終章で、先日読んだ「沈没船が教える世界史」の筆者と同じく、この本の筆者である遠藤先生もその研究環境の貧弱さを訴えておられることに考えさせられます。

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2018年02月04日

Posted by ブクログ

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 「遺体科学」という耳慣れない学問を提唱されている方の科学啓蒙書……というかエッセイ。
 利益のためというか、遺体があるから、それを大切にし、そこから学べるものを得ようという姿勢が格好いい。

 個人的に、先生に食べられたサンマの主役っぷりが可愛らしい。

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2011年08月01日

Posted by ブクログ

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2008/05/05
いろいろな動物の遺体を通して過去の動物のどのような器官がどのように進化して今の動物のものになったのかを示す。肺、耳、胎盤等など、元は違う目的を持ってたものがどのような途中経過をたどって今の形になったのか、分かりやすく説明。

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2011年10月22日

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