あらすじ
横領犯が秘匿した大金を奪うべく、互いを出し抜こうとする二人の貧乏青年(表題作)。
旧子爵邸を買い取った前歴不詳の男が語る、建物にまつわる過去の因縁(「静雲閣」覚書)。
嫉妬、疑惑、不信、復讐……いつの世も、男たちは騙し合い、競い合う。
初書籍化作品一篇を含む、テーマ別文庫オリジナル作品集。
〈解説〉阿津川辰海
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
突然始まったテーマ別短編集。こちらは男性篇。金庫、理由、途上、閉鎖、断崖、静雲閣覚書、尊厳、信号、過去の女報告書を収録。過去の女報告書初書籍化。
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松本清張『金庫 清張短編レアセレクション 男性篇』中公文庫。
全4巻で刊行される松本清張の珍しい短篇をテーマ別にセレクトしたオリジナル短篇集。第2巻は男性篇で嫉妬や疑惑、不信、復讐を胸に秘めながら騙し合い、競い合う男の世界を描いた短篇全9篇を収録。
先に読んだ『氷雨 清張短編レアセレクション 女性篇』に収容された7篇はミステリー色が薄かったのだが、こちらの『金庫 清張短編レアセレクション 男性篇』では殆んどがミステリー短篇であった。犯罪の陰に女性ありなどと言うが、実際のところ犯罪に手を染めるのは男性の方が圧倒的に多いのだろう。
『金庫』。物語の筋は江戸川乱歩の初期短篇『二銭銅貨』と酷似している。『二銭銅貨』は、2人の貧乏学生が大金を奪った犯人を羨み、犯人が残したとされる二銭銅貨の中に仕込まれた紙片の暗号から犯人が隠匿した大金を探し出すという筋書きである。阿津川辰海の解説でもこの2つの短篇を比較していたので、自分の見立ても満更では無いと思った。松本清張は江戸川乱歩の初期短篇を敬愛していたようだ。安い賃金で東京の郊外にある運送店で働く主人公の田村は同じ職場で働く柿田省一という友人を持つ。金が無いことを嘆く2人は昼休みに取り留めのない話をしているうちに最近、新聞を賑わせた啓道会事件に話題が及んだ。その事件とは新興宗教団体の啓道会の支部長の菊川さき子が出資を募り、貸付を行って使途不明金を作った事件で、さき子は逮捕され、服役していた。柿田はさき子が使途不明金を隠匿し、服役後にその金を使おうとしているのではないかと推理していた。
『理由』。これも江戸川乱歩の『赤い部屋』短篇のような筋書きである。所謂、プロバビリティの殺人というものだ。結婚して8年になる和島秀夫は出来過ぎた妻の多記子との微温湯に浸かったような刺激の無い暮らしに嫌気が差し、離婚したいと思うようになった。その多樹子が家出をして伊豆の西海岸で投身自殺を図る。遺書には夫以外の男性と過ちを犯したことを詫びるという文章が綴ってあった。しかし、その多樹子の死に疑問を持った人物が1人居た。
『途上』。1人の男の再生の物語。誰もが一度は人生で躓くが、もう一度前を向いて歩こうと立ち上がる人も居れば、躓いたまま二度と立ち上がれない人が居る。胸を病みながら歩き続け、喀血して行き倒れになった36歳の男は市営の更生施設『愛生寮』に担ぎ込まれる。その施設に収容された老人たちや病人たちと暮らすうちに男はもう少し生きてみようと思い、施設を脱走する。
『閉鎖』。確かに長男というのは貧乏籤を引くことが多い。九州のとある村で百姓を営む25歳の山崎平二が心理学者に宛てた手紙という形でストーリーは進行する。平二が手紙に綴った内容によると2年前に兄の久太郎が農協へ供出米代の二百円を受け取った後、姿を晦まし、家族や親戚で付近を捜索したところ、近くの崖付近で久太郎のコートや衣服のボタンと何者かと争った痕跡が見付かったと言う。また、近所では怪しい浮浪者の姿も見掛けられており、久太郎は浮浪者と争い、二百円を奪われ、崖から突き落とされたのではないかと思われた。
『断崖』。サスペンスフルな短篇。北海道の日本海に面したエンキ岬に佇む町営センターでは谷口彦太郎と向井万吉という2人の老人が管理人を務めていた。エンキ岬は自殺の名所としても知られており、谷口は度々、自殺志願者の命を救っていた。ある晩、町営センターの扉を弱々しく叩き、妙齢のワンピース姿の女性が谷口の前に現れた。寒さで震える女性に谷口は風呂と食事、寝床を提供する。
『「静雲閣」覚書』。戦争という悲劇は戦地に赴いた者だけでなく、残された家族たちをも不幸にした。元楢尾子爵邸の高級割烹旅館『静雲閣』を買取った男が語る建物にまつわる過去の因縁。
『尊敬』。現代よりも昔の方が皇室や皇族の方々は人びとに崇められていたと思う。現代では週刊誌やYoutuberなどが根も葉もないゴシップを垂れ流しており、失礼極まりないことだと思う。昔なら銃殺かその場で斬首だろう。この短篇では市井の人の元皇族に対する復讐劇を描いている。大正天皇の御病気の平癒祈願のために宮様が九州各地の神社へお成りになることになった。宮様の車を先導する大役を任された多田良作警部は緊張の余り、道順を間違えてしまい、県知事は進退伺いを提出し、多田は辞表を提出、署長が割腹自殺を図ると多田も縊死を選択する。それから20年後、自殺した多田の息子の貞一は29歳となり、働いていた印刷所が潰れ、日雇労働者となっていた。
『信号』。珍しい文壇を舞台に作家の人間模様を描いた短篇。広島のデパートの宣伝部で働く白石信一は、作家の穂波伍作の著書の量が身長に達した自祝の会に出席するため、穂波の家のある呉市に向かう。
『「過去の女」報告書』。男という生き物は不思議と過去の女のことを何時までも覚えているようだ。57歳で銀行重役になった畑川寿一郎が昔の知友を思い出す中、過去に付き合った女のことを思い出す。中でも13、4年前に九州の支店で手を出した当時は23、4の尾形妙子のことが気になっていた。畑川は興信所に彼女の現代の状況を調べてもらう。
本体価格980円
★★★★