あらすじ
馴染客を若い後輩に奪われそうになった割烹料理屋の女(表題作)。
報われぬまま夭折した画家である夫に脚光が浴びることを願う妻(「紙碑」)。
岐路や窮地に立った時、彼女たちがとった行動は……。
名手・清張の腕が冴えわたる!
初文庫化など清張の珍しい短篇をテーマ別に精選した、文庫オリジナル作品集。
〈解説〉横田創
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
松本清張『氷雨 清張短編レアセレクション 女性篇』中公文庫。
全4巻で刊行される松本清張の珍しい短篇をテーマ別にセレクトしたオリジナル短篇集。第1巻は女性篇で岐路や窮地に立っ女性たちを描いた短篇全7篇を収録。
今だに松本清張の小説の人気は高いようだ。かく言う自分も再読を含め、松本清張の小説を度々読んでいる。ミステリー小説もさることながら、市井の人びとの人生を描いた小説にも魅力を感じる。自分が松本清張の小説を初めて読んだのは高校生の時で、芥川賞受賞作の『或る「小倉日記」伝』が初めての小説だったと記憶している。それ以来、現在に至るまで思い付く度に松本清張の小説を読み続けている。
『氷雨』。女性同士の冷たい争いを短篇の中に凝縮している。ミステリーの要素は全く無い。割烹料理屋『ささ雪』の女中の加代は馴染客を若い後輩女中の初枝に奪われそうになり、思い切った行動に出る。
『旅さき』。出る杭は打たれるの例えか。特に女性同士の中での争いは厳しいものがある。この短篇にもミステリー色は無い。年に2、3度旅に出る物書きの伊村が知人から聞いた話が綴られる。伊村も泊まったことのある能登半島の旅館『能景荘』は元々は『福浦屋』という名前の旅館で、女中頭の政江が主人たち以上に盛り立てたことで建替えるに至った。やがて、政江には佐藤という馴染客が出来て、佐藤の出資で東京に小さな旅館を出すことになった。
『突風』。夫の浮気を探る妻の行動がミステリーと言えば、ミステリーかも知れない。夫の浮気相手を知った妻は相手の女に別れてくれるよう頼む。浮気は男の甲斐性なんて言われた時代もある。葉村明子の夫で41歳の商事会社の総務部長に昇進した寿男は昇進するや出張や付き合いが増えて、浮気しているのではないかと思われた。明子が出張から帰って来た寿男の荷物の中に女性物の洗面具を見付けたり、Yシャツの襟にルージュを付けていたり、見慣れないハンカチやネクタイを身に着けていたりと疑いは明らかであった。
『結婚式』。男というのは単純で地位や権力を手にすると、当然の如く女へと走るのは今も昔も変わらない。そして、女へと走った男は全く周りが見えなくなるのだから始末に負えない。新聞社の広告部次長の吉村はかつての同僚の新田徹吉が独立して広告取扱店を立ち上げたことを羨ましく思っていた。やがて内助の功もあり、新田の広告取扱店が軌道に乗ると新田の浮気が始まった。あろうことか新田の浮気相手は社員の佐伯光子だったのだ。新田の妻から相談を受けた吉村は新田に忠告を与える。
『黒い血の女』。稀代の悪女を主人公にした犯罪小説。ここまで残虐な悪女の姿が描かれるとは予想もしなかった。誰かモデルにした悪女が居たのだろうか。和歌山県の海辺の村の警察署に渕上リウとその妹のツマの殺人を訴える匿名の投書が舞い込む。リウは 財産目当てで藤三郎の元に嫁ぐが、藤三郎の商売が傾くや、実家の西野家の財産を我が物にしようと妹のツマに自分の情夫を婿にと押し付ける。
『紙碑』。報われぬまま夭折した画家である夫の名を残し、再び脚光が浴びることを願う妻の姿を描く。亡くなった画家の重田正人の妻の広子は人からの勧めで校長を務める北野孝平と再婚する。ある日、A社が『現代日本美術大辞典』を刊行することを耳にし、元夫の重田の名を載せてもらえるようA社の担当に依頼する。
『呪術の渦巻模様』。何とも意味深で不穏な物語である。評論家で作家の肩書を持つ田代は大学時代の友人でダブリンで銀行の支店長を務める小村憲吉に会うためにダブリン行きの飛行機に搭乗する。小村には画家を目指す杉子という妹が居り、爬虫類の鱗をモチーフにした奇妙な絵を描いていた。
本体価格980円
★★★★