あらすじ
「ポーカー」のトランプVS「チェス」のイラン
トランプ大統領が「ポーカー」(予測不可能性と直感で勝負する短期決戦)をやっているのに対して、イラン側は「チェス」(一手一手、理詰めで考える持久戦)を指している。異なるルールで同じゲームをやっているから、互いに相手の「意図」を読み間違ってしまう。
トランプ大統領は、交渉(ディール)で有利なポジションに立つために、まず「高めのボール」を投げます。「ブラフ」(ポーカーで弱い手札なのに強い手札のフリをして相手の判断を誤らせる「はったり」や「虚勢」)をかけるわけです。ところが、イラン人にはそもそも「ブラフ」という発想がない。「高めのボール」をそのまま真に受ける結果、互いの「意図」を超えて事態がエスカレートしてしまう。
イラン側は、巧みな「非対称戦略」で米国を「持久戦」に引きずり込み、徐々に形勢を逆転させていきました。「ホルムズ海峡の封鎖」によって、「ガソリン価格」を高騰させ、11月に中間選挙を控えるトランプ大統領を追い詰めていった手腕は実に鮮やかでした。
イランは、「軍事面」での劣勢を、「政治戦」「経済戦」「心理戦」で補う構図を見事につくり出したのです。米国の航空戦力や海軍力と真正面から競えば、「戦術的」に勝ち目はない。しかし、相手の政治的脆弱性を突くことで主導権を奪う──
いま、世界最強の軍事力を誇る米国のトランプ大統領を最も苦しめているのが、ガソリンスタンドの「ガソリン価格」であるのは、究極の逆説ではないでしょうか。
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Posted by ブクログ
先日行きつけの本屋さんの店頭で見つけた本です、タイトルを見て驚いてしまい、中身も殆ど見ずに購入してしまいました。著者の経歴を見て、イランやイスラエルの外交官であることから、著者にしか得られない情報もあると思いました。
連日のニュースを見る限りでは、アメリカはイラン相手に苦戦をしているようには思いましたが「すでに負けている」との認識はありませんでした。本の帯にあるように「世界最強の米国を打倒した・非対称戦略」がイランの勝利(少なくとも米国に負けなかった)をもたらしました。戦争はスポーツと違って、明確なルールのもとに戦う者ではなく、兵器だけでなく、政治の力や地形の力、相手国及び自国の国民の支持によって決まることは理解できました。
第一次世界大戦では、新兵器の登場により戦争の仕方が変わったと本で読んだことがありましたが、今回の紛争においても確実に「戦争の仕方」が変わったようですね。今後のニュースだけでなく、このような本が提供してくれる情報に注意していく所存です。
以下は気になったポイントです。
・当面 日本にとって ペルシャ湾からの原油の安定供給の確保は、日本の経済的な 繁栄の鍵であり続けるのは間違いない。 しかも イランは大産油国であるのみならず、 ペルシャ湾からの出口である ホルムズ海峡を抑える位置にあり、 どう海峡を封鎖する能力を持っている。 言い換えると日本の経済的な 繁栄は日本とイランとの良好な関係にかかっている、1953年の日章丸事件=出光興産がイランから英国の海上封鎖の中、原油を輸入した(p5,188)
・米国のトランプ大統領が「 ポーカー」(= 予測不可能性と直感で勝負する 短期決戦)をやってるのに対して、イラン 側は「 チェス」(= 一手一手理詰めで考える 持久戦)を指している、 異なるルールで同じゲームをやっているから互いに相手の意図を読み間違ってしまう。 トランプ大統領は交渉で有利なポジションに立つために、まず「高めのボール」を投げる、 要するに相手の判断を謝らせる はったりや 去勢をかける、ところが イラン人はそもそもそのような発想がないので「高めのボール」をそのまま 真に受けてしまう、 イラン人が「目には目を歯には歯を 」 という 相互主義的発想をするからである、 相互主義は元来は、やられた以上の過度な復讐を禁じる 規定である(p6)
・最高指導者の斬首作戦による革命 体制の崩壊を狙った米国とイスラエルは「イランの権力構造」を見誤っていた。イランは最高指導者 1人が実験を握る 独裁体制ではなかった、 従って 最高指導者 1人を暗殺しても大政崩壊にはつながらなかった、 ベネズエラのケースとは違っていた(p10)
・ イランは重厚長大な兵器で正面から対抗する「対称 戦略」ではなく 長年 準備してきた「 非対称戦略」を発動した、 非対称戦略とは、 軍事力に大きな差がある戦いにおいて、 弱者側が強者側の「正面戦略=最新鋭の兵器」に真っ向から挑む 対称 戦略を避け 相手の弱点や不意をつく 独自の手段や 戦術で、調理 や目的達成を狙う 戦略のことである。 イラン 側は米国とイスラエルの武器は最新鋭でも在庫不足が弱点となると見抜いていた、 実際 戦争開始から2週間程度で、 イラン 側の読み通りに米国とイスラエルの翌月 ミサイルが枯渇し始めた(p13)
・米国とイスラエルのハイテク兵器は 短期決戦向きなのに対し、 イランのローテク 武器は持久戦 向きで、時間は ハイテク兵器よりローテク兵器の見方をする、 イランとしては 持久戦に持ち込めば 軍事的にも優位に立てる、 イラン こそ ドローン 戦のパイオニア的存在で、長年にわたって ドローンの大量生産体制を築き上げてきた(p15)
・米国の航空戦力や 海軍力と真正面から戦えば「 戦術的」 に勝ち目はない、 しかし、 米国社会の弱点、 すなわち「 エネルギー価格と世論」 に圧力をかければ「戦略的」には勝負できる、 これが「非対称戦略」の核心である(p18)
・トランプ大統領が発電所などを攻撃すると宣言したのは、 AWACS(空中警戒管制機)の喪失により 航空優勢に戦略が生じ 近距離から移動目標を攻撃するのが困難になった可能性を示唆している(p22)
・ イランの革命防衛隊は、 イラン国軍の監視と治安維持のために、 1979年の イラン イスラム革命によって新たに創設された(p47)
・イランの知的 エリートの特徴は理系が多いことである、 文型が多い日本の大学生に対してイランの大学生は6割以上が 理系を先行している、従って 極めて合理的でイランのエリートはチェスを指すように物事を考える(p51)
・ 迎撃ミサイルの在庫不足によって基地の防衛が難しくなり何もしなくても米軍側に損害が出る可能性が高まり「 限定的 上陸作戦」の困難さも明らかになって、イランの石油戦略が 絶大な効果を発揮する中、 トランプ大統領は軍事的にも 政治的にも追い詰められ、 徐々に「 行動の自由」を失い、 取り入れる 選択肢が狭まってきた。 そして戦争開始から1ヶ月も経たない 3月中旬頃から、 イラン 側は交渉を拒否しているのに「 イランとの協議は順調に進んでいる」という奇妙なメッセージを出すようになった(p75)
・パキスタンの仲介 提案は トランプ大統領にとって天の恵みであっただろう、 イランの抱負を確実に招く 発電所 破壊 より「交渉」により ホルムズ海峡を解放する方が原油価格を下げる効果があるからである(p77)
・トランプ大統領の念頭に常にあるのは「 ガソリン 価格」である、 逆に言えば イランの「ホルムズ海峡の封鎖」「危険海域宣言」による石油価格高騰 戦略はそれだけ 効果を上げている。 その意味でトランプ大統領はイランではなく「ガソリン価格」と戦っている(p80)
・ イランにおいて最高指導者はイラン革命 体制の頂点に立つ「恐れ多い」存在である、 その最高指導者の名を安易に持ち出すことはそれ自体がイラン革命 体制に対する、不敬 極まりない行為である。トランプ大統領が最高指導者を世俗的な交渉相手として扱ったことに多くの イラン 国民が不快に感じた(p103)
・兵器の非対称性の例としては、一発 数千万円のイランの弾道ミサイルを 迎撃するために 米軍が用いるTHAADミサイルは一発 約24億円、 通常は1つの攻撃目標に2発を発射するので約150億円もかかる(p111)
・ ロシア海軍や中国海軍を主要仮想敵とみなす 米海軍は、 対弾道ミサイル戦や 大規模艦隊決戦 を想定して編成されているために、 ドローンやスピードボードを駆使する イランの「非対称戦略」にうまく対処できない。100の脅威を同時に探知し 優先度に従い10の脅威を順次 撃破することが可能だとされる主力のイージス艦 でも、仮にイランが同時に100発のドローンと客席のスピードボードで 飽和攻撃を仕掛けてくれば なすすべがない(p124)
・かつては 米海軍全体で16 隻あった 「掃海艇」は、は現在は 佐世保 母校とする 4隻しかないことが分かった、 そのうちの2隻が中東へ向かった(p127)
・イランは パイプラインで 近隣国に天然ガスを供給している以外は一掃していない、 その大きな理由は LNG を製造できないから。 LNG にしないと 船舶で運べないので 遠隔地に天然ガスを輸出することはできない。 LNG を製造 生成するためには濃く 低温に冷やす 高度なプラント技術が必要だが、 その技術の核心部分は米国のトップで守られているため イランは手が出せない(p166)
・2026年5月1日 UAE は イラン 戦争の真っ最中にオペックから脱退したが、 これはサウジアラビアとの確執が原因である(p168)
・アラブの湾岸産油国( サウジアラビア、 UAE、 バーレーン、 オマーン、 カタール、 クウェート=GCC諸国)は、米軍基地を受け入れ 潤沢のオイルマネーで米国債を購入し 米国企業に巨額の投資をする代わりに、米国の軍事力で自国を守ってもらう 政策を続けてきたが、 その 米国 が 用心棒として役立たないことが 今回の戦争で明らかになってしまった。 今 中東では米国が提供する「安全保障」と「米国基地」の意味が 改めて問われている(p172)
・ ウラン 原子爆弾の製造には 90%まで 濃縮した ウランが十数キロ 必要だが、 濃度を90%まで高める 作業時間の8割が4%の濃縮に達するまでに要するもので、 ウランの濃縮 スピードは20%を超えると 格段に早くなるので 濃度を 4.5%まで引き上げた(2019.7月に IAEA確認)ことは 核兵器製造の一歩手前であることを意味する(p201)
2026年7月27日読破
2026年7月27日作成
Posted by ブクログ
【なぜ米国はイランに負けたのか】 齊藤 貢 著
このところ、よくメディアに登場される元・駐イラン大使の最新著。外交官として、イランのみならず、エジプト、サウジアラビア、イスラエル、イラク、UAE、オマーン(大使)に勤務し、独特の分析をされています。漫画・アニメ好きで、「トムとジェリー」「呪術廻戦」などを例に挙げて解説されるのでとても分かりやすいです。
本書は普段話されていることをまとめた内容。①トランプは名前だけにブラフをかけて短期間でケリをつけようとする「ポーカー」に対しイランはじっと盤上を眺めて先手を読む「チェス」、②「ニューヨークの不動産屋」(即断即決型)対「ペルシャ絨毯の商人」(絨毯を買うのには半年かかる)、で両者の戦い方は全く違うとの指摘。「軍事」大国に真っ向から対抗するのではなく、「石油」という「非対称」の武器で戦っているとも分析しています。イラン人は長い歴史を通じて知的・合理的で、現時点ではイラン側に軍配が上がりそうながら、ときに傲慢・強欲となって失敗することもあると予見します。
察するに、出版社からホテルに缶詰めにされて短期間で書き上げたようで、繰り返しが多い点はありますが、普段、米国発の情報に接することが多い中、イランという国の考え方や中東情勢を知るには格好の一冊です。