あらすじ
「ぼくのおじいちゃんは戦争で兵隊になって南方に行きました。」
家族に戦争体験を聞きまとめる宿題を夏休みに課された、1983年生まれ、小学6年生の千本慶輔は祖父の経験を提出した。慶輔が大学4年の時にその祖父も亡くなり、家族の間であの作文のことが話題に上がる。曰く、祖父は終生大事にしていて、祖父から直接聞いた記憶のない家族は「よくぞ書き残してくれた」と感極まっているのだが、書いた本人には落ち着かない背景があった。
一方、慶輔の同級生、夏目苑子は祖母の体験をまとめ、平和への祈念で締めた作文は先生やクラスから高く評価されたのだが、慶輔に「ウソなろうが」と糾弾される。
時は移り2024年。前年秋にイスラエルのガザ侵攻が起こり、苑子は元夫の妹のSNSと同僚の活動からパレスチナ問題に興味を持っていくのだが…。
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Posted by ブクログ
身の回りの戦争経験者に聞いた話を作文にまとめるという小学校の宿題から物語が始まる。最初は戦争の悲惨さを作文で感じ、話を聞いたとする祖父との、穏やかでほっこりするエピソードが語られる。庭をいじる主人公の祖父の姿が、亡くなってしまった大好きな祖父とピッタリ重なる部分が多く、思わず涙が溢れた。
このまま、戦争を経験した人たちが後世に遺してくれた平和への希望の話が続くのかと思っていたが、だんだんと様相を変えていく。
子供ならではの素直さや、悪気のない嘘、大人に褒められたい、注目されたいという歪んだ承認欲求、そこから生まれる罪悪感という、大人になった今では心が抉られるように感じるエピソードがありありとえがかれている。
今、世界中で起こっている戦争にも絡めて語られるこの物語で真に描きたいことというのは、戦争の悲惨さなどではなく、それを経験していない外から見た人間の浅はかさなのかなと感じた。
人間の嫌なところが怖さとして残る作品だが、これが人間というものな気もして、皆におすすめしたい作品だと思った。文章量も短いのでさっと読めるのに内容が濃くて重い。
Posted by ブクログ
祖父母の戦争体験を綴った作文が褒められた二人の小学生。実はその作文は…。戦争を知らない世代が戦争体験を語り継いでいくことの難しさ、危うさを問う。大人になった二人が本人達の気づかぬところでリンクするラストも見事。
Posted by ブクログ
時間や空間を隔てた惨事に世間は驚くほど無関心。けれどそこで起きたこと(あるいは起きていること)は、少しずつ形を変えつつも、世間の中で細々と伝わっていき消えることはない。伝え伝えられることに私たちは思わず知らず関わっているのかもしれない。作者の眼差しは、シニカルなようでいて、実は真っ直ぐに一縷の望みを求め、それを描いているように見える。
Posted by ブクログ
祖父母の戦争体験を聞き綴った2人の小学生の作文。教師から称賛されるも、子どもならではの脚色等があり、その後の現代パートへ波及します。
記憶とは? 継承とは? 物語のもつ意味や力、体験の聞き取りの再構築は真実か、複雑な世の中への向き合い方等々、本書を読みながらそんなことをつくづく考えてしまいました。
小山田浩子さん初読でしたが、思いの外軽やかな筆致で、重い問題提起をされながら最後に上手く爽やかにかわされた感じです。でも、この120ページ程度の中編小説は一読の価値ありと思いました。全ては読み手の受け止め方次第なんでしょうね。
むかしむかーし、若者の「無気力・無関心・無責任」気質を指して、「三無主義」と呼んだ時代がありました。特に政治や社会問題に対して冷めた態度をとり、「しらけ世代」と嘆かれることも…。
翻って現代は? 戦争は身近にあるものの、私たちは日々の生活に疲れ、「我関せず」「他所ごと」で、少なくとも戦争に関する「三無主義」は大人にも多く、二極化が顕著な印象です。
首相の「非核三原則」見直し検討報道だとか、その他諸々に「えーっ!」と思っても、諸外国のように行動を起こすエネルギーがないのが日本人? あ、SNSでの陰湿さ過激さは得意?
戦後80年の今年、私たちが戦争と平和へ関心をもつきっかけをくれる作品と思えました。
Posted by ブクログ
ハンドレッドミニッツノヴェラ
約100分夢中で読める中編小説。
よく行く書店の新刊コーナーで、
金原ひとみさんの「マザーアウトロウ」と言う作品の横に棚差しで陳列されていた本書。
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戦後80年
広島生まれの芥川賞作家が
いま“戦争”について描く
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書店を見回すと各コーナーには
戦争にまつわる本が複数展開されていて。
夏休みだもんな〜、そーゆー時期だよな〜、
でも重たいのは読めないなあ、
と見送っていたんですが、
本書ならばと思い、手に取りました。
子どもの頃の夏休みの宿題、
戦争体験者から話を聞いて作文を書く。
小学生、教師、家族、クラスメイト。
戦争について考える。
広島の原爆の話も出てきます。
少し遠い過去の戦争だけれど、経験者が近くにいて。
作文の内容は戦争のことを書いているけれど、
実体験のない小学生たちの日常の言動(悪ふざけ等のの罪とも呼べない小さな罪)が差し込まれる。
そして、ロシア、ウクライナ、パレスチナ、
あちこちで戦争や軍事衝突が起こっている。
自分の中の遠近感が狂うというか。
戦争を知らない世代として生まれたのに、
今この瞬間に地球上で戦争が行われている。
どこかで何かが違っていたら、
ということを考えさせられました。
本当に100分ぐらいで読めるので、
本がなかなか読み終わらない!という焦り(を感じたりします、私。苦笑)もなく、ちょっとした達成感もあるのでおすすめです。
Posted by ブクログ
小山田浩子さんといえば「母の友」で連載していたエッセイでも感じられた、それは有り得るとも、それはないでしょうとも思えそうな、奇妙なんだけれど現実に起こったとしても何だか肯けそうな、フィクションとノンフィクションの境界線に佇むような、その絶妙さ加減が味とも思えるエピソードが印象的だったことを思い出す。
そして本書では(久々のU-NEXT100min.)、広島県出身の小山田さんが戦争を題材にしたということなんだけれども、ものすごく深刻な感じというよりは、人間だからこうしてしまうというような、真面目で直向きな様も可笑しみを交えて描いていたり、令和の時代だからこそ感じなくなってきている何気ない違和感をユーモラスに皮肉っていたりする点に独特さを感じられて、読み終えた時には戦争というよりは家族を題材にしているのかと思えたような、飄々とした中にもある真摯さが魅力なのかもしれないし、よくよく考えてみれば戦争と家族というのは切っても切り離せない関係性だ。
また、小学校六年生の頃に書いた戦争を題材にした作文が、大人になった現代の人生に色濃く影響を及ぼしているといった、物語としての面白さも本書にはあって、そこには子どもだから、そうなってしまった的なものも垣間見えそうだけれども、結局そうしたものは人生に於いて、あまり重要ではなく、自らの意志を信じて生きていれば自然と何とかなるのかもしれないというような、あまり句点や段落分けの少ない文章の書き方に根拠のない不安感を抱きながらも、そんなゆるい前向きさに励まされたような気がしたのも、また彼女ならではの独特な作風なのかもしれない。