あらすじ
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長崎のキリシタンの里に下宿した医大生〈隆吉〉が一生をかけて築いてきたものは灰となった。
自らの生い立ちから原爆投下にいたるまでの浦上生活を、病床に伏しながら書き綴った永井隆博士の自伝的私小説。
作品は2部構成で、第2部の最後では救護活動が一段落した3日後の夕方、初めて家に帰り、妻〈春野〉の遺骨を拾う場面が描かれているが、そこでロザリオの鎖を見つける話は、別著『ロザリオの鎖』を読むと事実のままであることが理解される。
すべてが灰になった絶望に茫然とするうち、〈隆吉〉は昏睡に陥り、やがて翌朝目覚める。そして暁の明星を見ながら、静かにささやくイエズスの声を聞くのである。
著者はこの後、第3部の執筆を強く希望するが、体力の衰えが著しく、主人公のその後の生活については「消息の一班を別著において伝えたい」と後記にしるしている。
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Posted by ブクログ
戦中下、放射線治療の現場を牽引した医者でありつつ、敬虔なカトリシズムに帰依するという二極を体現した精神と日常性の劇的半生記。
主人公を仮名にして<自伝的小説>となっているが、医者でクリスチャンであった永井隆の自伝そのものといっていいでしょう。
2部14章400頁に余るが、行間もゆったりとっており、さほどの分量でなく、一気に読める。
日中事変の最初の動員で召集され、昭和12年8月から15年2月の下関帰還まで、衛生隊の医長として中国各地を転戦する模様を描いた第2部の「死線」から、「助教授」「救護班」「白血病」そして最後の長崎原爆投下の「灰」に至る後半部は、カトリシズムのあふれるような精神性に強く胸撃たれます。