あらすじ
第二次世界大戦下のアメリカ・ロスアラモス。オッペンハイマー、フェルミら科学者たちが集められ、原爆開発が進められていた。日系三世のアデラは、夫の仕事を知らされないまま犬の世話をし、出産を手伝う。日ごとに増す爆発音を聞きながら。芥川賞作家が描く、もうひとつの原爆の記憶。<解説:小林エリカ>
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Posted by ブクログ
【科学者の近視眼が生んだ原爆孤児と薄氷の平和】
原爆を落とされた側の『原爆孤児 「しあわせのうた」が聞える』を読んで、今度は作った側の心情と裏側が知りたいと思い、本書を手に取った。
読み進めると、翻訳本を読んでいるかのような乾いた文体が少し読みづらかった。
私としては原爆開発の裏側や科学者たちの葛藤を知りたかったのだが、描かれるのは妻たちの平易な日常と犬たちがメイン。
正直、物足りなさも感じてしまったのだが、おそらく本書はこの無垢な日常と、壁の裏で進む「悪魔の所業(原爆開発)」を際立たせるために、あえてこの翻訳調のトーンを選んでいるのだろう。
マンハッタン計画にナチスを追われたユダヤ系をはじめとする天才科学者たちが集まったのは時代の流れか、歴史の皮肉か。「なるべくしてなった」のかもしれないが、科学者たちのあまりに歪んだ「近視眼」がなければ、広島や長崎は……と、ifの世界を考えずにはいられない。
何と言っても、タイトル『新古事記』の意味が凄すぎる!
日本神話や聖書を踏まえながら、「新しい世界は神じゃなく、人の子がつくるのだ」というセリフに辿り着いたとき、「あぁ〜そういうことか!」と鳥肌が立つと同時に、何も知らぬ妻たちの平易な日常が急にうすら寒くなった。
ただ、この人間が創り出してしまった「新しい世界」はどこへ向かっているのだろう。
各国が実験を繰り返し、いまだ世界に12,000発超の核が溢れる現代。薄氷の上に乗っかったこの世界を、はたして「平和」と呼べるのだろうか。
『原爆孤児』を読んだ後だからこそ、あのロスアラモスの「悪意なき近視眼」が、人類の破滅への引き金となってしまった真実が、深く突き刺さったまま今も抜けないでいる。
☆3.5