あらすじ
役所が決めたらそれで決定。こんな社会がなぜ「民主主義」なのか? 2013年5月、東京都初の住民直接請求による住民投票が、小平市で行われた。結果は投票率が50%に達しなかったため不成立。半世紀も前に作られた道路計画を見直してほしいという住民の声が、行政に届かない。そこには、近代政治哲学の単純にして重大な欠陥がひそんでいた。日本中から熱い関心が集まった小平市都道328号線問題。「この問題に応えられなければ、自分がやっている学問は嘘だ」と住民運動に飛び込んだ哲学者が、実践と深い思索をとおして描き出す、新しい社会の構想。
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Posted by ブクログ
小平市の都道建設計画を見直す住民投票運動に参加した社会哲学者が、自分の専門である政治哲学と実践とを見事に結びつけた良書。日本の政治や行政に関する「理解不能」な部分をなるほどと解き明かしてくれました。行政権が大きな比重を占める日本では、主権=立法権という政治哲学の前提が間違っているので、住民投票やパブコメをちゃんとやりましょう、という話は目から鱗でした。お薦め。
Posted by ブクログ
2013年に行われた東京都小平市での、
都道328号線建設をめぐって行われた住民投票と、
その住民投票が実現するまでに及ぶ住民の運動を起点に、
議会制民主主義の欠陥を分析し、
それをどのような方法で補っていけばよいかを論じた本です。
議会制民主主義においては、
民衆の代わりとなる代議士が政治を行いますが、
実際に政策などを実現するのは行政であり、
その行政には独断的な強い決定権がある。
つまり、この国を動かしているのは民衆が選んだ政治家ではなくて、
公務員たち行政の側だというところに、
日本の民主主義の欠陥があることを解説しています。
そこをどうしていけば民意が反映されるのかを考えたところが、
本書の一番の読みどころだと僕は思いました。
法という否定的・消極的なもの、
制度という肯定的・積極的なもの、
という分析にはうなりましたね。
だから「制度が多いほど、人は自由になる」と。
ドゥルーズの制度論に依るかたちで述べられている
この部分は特にエキサイティングでした。
そういった制度を増やす方向で、
たとえば住民投票制度をつくり、おこなうことで、
行政も民主的な方へもっていくことができる。
また、最後のほうで、
「民主的であるかどうか」と
「民主主義であるかどうか」とを考えることの違いについて、
前者が実感であり感覚的判断あるのに対して、
後者が概念的判断であることの説き明かしにも膝を打ちました。
そして、感覚的な「民主的であるかどうか」を考えるほうがよいのだ、
とする姿勢にも教えられるものがあり、共感を持ちました。
中盤などでは、なんてことないように書かれている考えが、
非常にするどく人間心理をとらえていたのもおもしろかったですよ。
それは、我慢をしすぎて生きていると我慢を他人にも強いるようになり、
せっかく「我慢しないように社会を変えよう」と声をあげる人がいるのに、
「我慢しなさい」とその人を引きずり降ろそうとするものだ、というところなどです。
著者はむずかしい概念を扱う学者なのでしょうが、
それを人間の実感を大事にしたかたちで語るところに、
読者を惹きつけるものがあるのかなあと思いました。
Posted by ブクログ
民主主義とは何か、民主的とはどういうことか。
本書では、小平市都道328号線をめぐる行政との経緯を追いながら、民主主義、特に議会制民主主義の構造と欠陥を紐解いている。
著者の「制度を増やすことで人はより自由になる」という指摘が目から鱗だった。決定方法を増やすことで、民主主義を補完していく方法だ。
タイトルにも使われたデリダの「民主主義は来るべきもの」という考えは、確かに現代にしっくり来るものだと感じた。
Posted by ブクログ
デリダの来るべき民主主義の結論は陳腐な気がしたけれども、哲学者である著者が住民運動に携わる中で、民主主義への疑問点を実感的につかんでゆく過程はとてもつたわってくる。確かに、行政は実際ほとんど決めていて立法府はあまり役に立たないように感じる。まああくまで、一つの見解である。
Posted by ブクログ
著者がニュース番組に出演したとき紹介のテロップで紹介されていた本。内容はまったく調べないまま買った。
小平市都道328号線の建設問題から民主主義を考える。328号線は住民側からすると建設に合理性がない。また住民の憩いの場である雑木林が切り倒されてしまう。住民投票を実施して建設を中止させようとしたが行政側に阻止されてしまう。
この国は民主主義の国のはずなのに、なぜ住民の意思が反映されないのか。著者はそれは議会制民主主義の限界にあるのだと考える。ルソーが提唱した民主主義は主権を立法権に規定している、現代の日本にもそれが受け継がれている。国民は立法権に関与出来る。
しかし立法が決めたことを実行するのは行政である。現代の民主主義は国民が行政に関与できる仕組みが弱い。小平の問題もここに原因がある。国民、市民が行政に関われる仕組みを現行の制度に付加していく必要がある。
議会が民意を反映していないという意見はよく聞くがたとえ議会が民意を反映できても行政という壁があることはなかなか指摘されていなかった。小平市の問題を見ると現行の制度がどれがけ民意を無視するものなのか分かる。住民投票にだけ有効投票数を設けるなどおかしいことばかり。有効投票数を設定した市長の選挙投票率が50%以下とかもう怒りを通り越して呆れる。
ただ行政を悪者にしているだけでは現状は変わらない。本書は行政が意見を柔軟に変えられるような制度を提案している。