あらすじ
\\\楠木建氏(経営学者)推薦!///
「長期利益のために事業があり、事業のために人事がある。
『人事担当者』から『人事経営者』へ――その指針がここにある」
◎人事制度は「人を管理する仕組み」ではなく「経営を前に進める仕組み」である
◎プロの戦略人事だけが知っている「人が育ち、事業も伸びる」人事制度の作り方
◎制度設計・組織開発・人材育成……「成果直結の人事施策」の思想とノウハウを体系化
・戦略人事やHRBPが重要と言われているが、何をすればいいかわからない
・時代に合わせて新しい人事制度を作っても、現場で機能せず形骸化してしまう
・人事として、会社の経営や事業の成果にもっと貢献したい
本書は、そんな悩みを抱く人事担当者・経営者・マネージャーのために、
「真に事業に寄与する人事制度」の作り方を指南する1冊。
等級・評価・報酬制度などの人事制度設計の考え方はもちろんのこと、
最新の経営理論や企業事例、著者2名の組織改革・コンサルティングの実践知を融合。
500ページ超の圧倒的な情報量で「経営に資する人事制度」の思想と実務を網羅した、
AI時代に「事業成果を創り出す人事」へと変わるための必携書!
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Posted by ブクログ
『経営に資する人事制度』
全体要旨
本書が提示している中心命題は、人事制度とは、人を評価して報酬を決めるための仕組みではなく、企業のビジネスモデルを従業員の行動へ翻訳し、事業を成功させるための実行システムであるというものです。
したがって、人事制度は流行の制度や他社事例を起点に設計するのではなく、次の順序で考えなければなりません。
ビジネスモデルの理解
→ 事業の勝ち筋の特定
→ 必要な行動・組織能力の定義
→ 人事制度への翻訳
→ 導入後の効果検証
人事制度を単体で考えるのではなく、経営戦略・事業構造・組織設計と一体で捉えることが、本書の基本姿勢です。
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1.人事制度はビジネスモデルを起点に設計する
企業ごとに、利益の上げ方、顧客への価値提供方法、必要な組織能力は異なります。そのため、ビジネスモデルが異なれば、最適な人事制度も当然異なります。
ビジネスモデルと人事制度の対応例
ビジネスモデルの性質人事制度で重視すべきこと
労働集約型効率性、標準化、再現性、生産性
知識集約型創造性、裁量、試行錯誤、学習
ストック型長期的な顧客維持、継続率、関係構築
フロー型短期的な成果、突破力、案件獲得
不確実性の高い探索型仮説検証、試行回数、学習、発見
プロセスが見える事業KPI管理、計画遂行、効率、再現性
例えば、知識集約型の事業に、短期成果と効率だけを求める制度を導入すれば、必要な創造性や試行錯誤が失われます。逆に、標準化が重要な事業で、個人の自由や探索だけを強調すれば、再現性や生産性が低下します。
したがって、他社で成功した制度をそのまま導入しても、自社の事業構造と合っていなければ、従業員の時間と努力を非効率に消費するだけです。
制度が運用上は問題なく動いていても、事業成果につながらない「形だけの人事制度」になる危険性があるという指摘です。
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2.人事制度のパッケージ導入が危険な理由
世の中には、等級制度、評価制度、報酬制度、OKR、360度評価、コンピテンシー評価など、多数の人事制度パッケージがあります。
しかし、こうしたパッケージは一定の理論的整合性を持っているため、導入後も表面的には運用できてしまいます。ここに大きな落とし穴があります。
制度が動いていることと、事業を成長させていることは同じではありません。
パッケージ化された制度は、企業ごとの以下の違いを削ぎ落としがちです。
* どこで利益を生み出しているか
* 顧客が何を評価しているか
* 競争優位の源泉は何か
* 成果が出るまでにどの程度の時間がかかるか
* 個人成果とチーム成果のどちらが重要か
* 探索と効率化のどちらが求められているか
* どこまで制度運用に管理コストをかけられるか
本書の立場では、制度の完成度や網羅性よりも、自社の勝ち筋に適合しているかどうかが重要になります。
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3.人事のプロが最初に行うのは「制度設計」ではない
効果的な人事施策を設計するために、人事の専門家が最初に行うべきことは、人事制度の検討ではありません。
最初に行うべきなのは、次の二つです。
① 事業の解剖
事業の構造を分解し、何が成果を生むのかを明らかにします。
具体的には、次のような問いを掘り下げます。
* この事業が勝つためのキーサクセスファクターは何か
* どのような従業員の行動が、損益や顧客成果に影響するのか
* 売上・利益を生み出す主要なプロセスは何か
* 事業のボトルネックはどこにあるか
* 現在の組織規模や経営資源で、どこまでの管理コストを許容できるか
* 短期成果と長期成果のどちらを優先すべきか
* 個人、チーム、組織のどの単位で成果が生まれているか
② フィールドワーク
経営陣へのヒアリングだけでなく、実際の現場、顧客、業務プロセスを観察します。
現場に入り込むことで、次のようなものを発見していきます。
* 経営側からは見えていない課題
* 制度と実際の業務との矛盾
* 成果を阻害している構造的要因
* 現場で実際に成果を生んでいる行動
* 事業を動かしている非公式なルール
* 顧客が本当に評価している価値
* 本来強化すべき組織能力
この事業理解を踏まえて、数多くの人事施策の中から、自社に必要なものだけを選びます。
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4.既存の人事理論から逸脱することもある
事業を成功させるためには、必ずしも一般的な人事制度の常識に従う必要はありません。
本書では、状況によっては次のような設計もあり得るとしています。
* あえて評価を行わない
* 特定部署だけ異なる評価制度を適用する
* 一定期間だけ特別なインセンティブを設ける
* 全社共通制度ではなく、事業別に制度を変える
* 既存のフレームワークを組み合わせる
* 一般的な制度にはない独自の仕組みをつくる
重要なのは、「人事制度として一般的かどうか」ではありません。
期待する事業インパクトと導入・運用コストを比較し、事業を伸ばす最短ルートになっているかで判断します。
人事制度は完成された正解を導入するものではなく、事業仮説に基づいて設計・検証するものだと捉えられています。
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5.人事のプロフェッショナルに必要な能力
人事のプロフェッショナルを目指すのであれば、人事の教科書や制度論だけを学んでも不十分です。
必要なのは、次の一連の能力です。
1. 事業を理解する
2. 顧客を理解する
3. 事業の勝ち筋を見極める
4. 成果に必要な行動と組織能力を定義する
5. 組織設計・評価・報酬・配置・育成へ落とし込む
6. 現場で制度が活用されているかを確認する
7. 実際に事業成果へ影響しているかを検証する
8. 検証結果を基に制度を修正する
つまり、人事の専門性は、制度知識の量だけではなく、事業を理解して、事業成果につながる仕組みを実装できることにあります。
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6.「宝探し型事業」と「プロセス型事業」の違い
添付箇所では、事業を大きく二つに分けています。
観点宝探しのような事業プロセスが見えている事業
不確実性高い比較的低い
進め方探索的・非線形計画的・線形
成果の出し方多数の試行から発見する定められた工程を遂行する
リスクとリターンハイリスク・ハイリターン比較的予測可能
重視するもの学習、発見、試行、挑戦達成率、効率、再現性
適した管理OKR、仮説検証、探索支援KPI、工程管理、標準化
宝探し型事業
誰も答えを持っていない市場で、競合よりも早く正解へ到達することを目指す事業です。
この場合、最初から正解への道筋は見えません。探索的に仮説を投げ、失敗を繰り返しながら学習し、可能性の高い領域を深掘りする必要があります。
そのため、評価すべきものは、単純な目標達成率だけではありません。
* 挑戦の質
* 仮説の強さ
* 試行回数
* 学習の深さ
* 新しい発見
* 振り返りの質
* 次の仮説への接続
などが重要になります。
プロセス型事業
成果までの因果関係や工程が比較的明確な事業です。
この場合は、目標をKPIに分解し、各プロセスを効率的かつ確実に実行することが有効です。再現性や標準化を高める制度が事業成長につながります。
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7.GoogleとOKRの事例が示すこと
Googleのような企業では、不確実性の高い領域で、他社よりも早く新しい答えを発見し、市場を獲得することが重要です。
このような企業にとって、確実に達成できる目標を100%達成しても、競合が探索的な挑戦から大きな市場機会を発見していれば、相対的には機会損失になります。
そのため、Googleでは、従業員が一定の時間を自由な探索へ使う仕組みや、失敗を伴う挑戦を許容する考え方が採用されてきました。
本書の重要な指摘は、GoogleがOKRを導入したから探索型企業になったのではないという点です。
順序は逆です。
不確実性の高い市場で、新しい答えを発見する必要がある
→ KPI分解だけでは望ましい行動を生み出せない
→ 探索と挑戦を促す目標管理としてOKRが必要になる
つまり、OKRはGoogleの事業構造と組織運営から生まれた制度です。
一般企業が「事業計画を確実に達成したい」という目的で、表面的にOKRを導入するのは、制度の成立背景と逆行している可能性があります。
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8.OKRの達成率を人事評価へ直結させてはいけない理由
探索型事業におけるOKRでは、達成率そのものを評価へ直接結びつけるべきではないとされています。
達成率を評価に直結させると、従業員は次の行動を取りやすくなるためです。
* 確実に達成できる目標を設定する
* 失敗の可能性が高い挑戦を避ける
* 目標を低く見積もる
* 未知の領域への試行を減らす
* 学習よりも数字の達成を優先する
これでは、探索を促すために導入したOKRが、逆に探索を阻害してしまいます。
探索型事業において見るべき進捗は、単なる達成率ではなく、挑戦によってどのような学習や発見が生まれたかです。
一方、工程や因果関係が明確な事業では、目標達成率やKPIを評価へ一定程度反映させる合理性があります。
ここでも、どの制度が正しいかではなく、事業の不確実性と成果創出プロセスに適合しているかが判断基準になります。
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本箇所から得られる重要な示唆
示唆1|人事制度設計は、実質的には事業設計である
人事制度を設計する前に、事業の勝ち筋、収益構造、顧客価値、必要な行動を明確にする必要があります。
事業理解が曖昧なままでは、どれほど精緻な人事制度を設計しても、正しい行動を促すことはできません。
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示唆2|制度導入の目的を「運用」ではなく「事業成果」に置く
制度導入後に確認すべきなのは、説明会を実施したか、評価を期限内に完了したかという運用実績だけではありません。
本来確認すべきなのは、次の点です。
* 必要な行動が増えたか
* 顧客価値が高まったか
* 売上・利益・継続率に影響したか
* 組織能力が蓄積されたか
* 意思決定や業務遂行が改善したか
* 制度の運用コストに見合う効果があったか
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示唆3|全社一律ではなく、事業特性別に制度を変える
複数の事業を持つ企業では、全社共通の一つの制度で、すべての事業を適切に動かすことは難しくなります。
探索型の新規事業、効率性を求める成熟事業、顧客維持が重要なストック事業では、評価すべき行動が異なるためです。
共通化すべき企業理念や最低限の原則と、事業別に変える評価・報酬・目標管理を分けて考える必要があります。
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示唆4|制度の流行ではなく「導入する必然性」を確認する
OKR、ジョブ型、ノーレイティング、360度評価などを導入する際には、先に次の問いへ答える必要があります。
なぜ、自社のビジネスモデルでは、この制度が必要なのか。
この問いに答えられない場合、制度導入そのものが目的化している可能性があります。
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示唆5|人事制度は一度設計して終わりではない
事業環境やビジネスモデルが変化すれば、求められる行動や組織能力も変わります。
したがって、人事制度も次の循環で更新する必要があります。
事業仮説
→ 制度設計
→ 現場実装
→ 行動変化の確認
→ 事業インパクトの検証
→ 制度の修正
人事制度は固定的な規程ではなく、経営戦略を実行するために継続的に改善されるべき仕組みです。
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一言でまとめると
本箇所のメッセージは、次のように集約できます。
良い人事制度とは、人事理論として整っている制度ではなく、自社の事業の勝ち筋を、従業員の行動と組織能力へ正しく翻訳できる制度である。
人事制度を考える出発点は「どの制度を導入するか」ではありません。
自社はどのように勝つのか、そのために誰にどのような行動をしてもらう必要があるのかを明らかにすることが、最初の仕事になります。