【感想・ネタバレ】うたの人物記 短歌に詠まれた人びとのレビュー

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Posted by ブクログ

 夕暮れのプラハの街を足ばやに役所より帰るフランツ・カフカ  ──玉城徹
 ミケランジェロに暗く惹かれし少年期肉にひそまる修羅まだ知らず ──春日井健

 タイトルの通り、人名を詠みこんだ短歌を紹介するエッセイ集。目次を見ると、科学者、作曲家、政治家、スター、詩人e.t.c.とバラエティに富んでいる

 小池光さんは歌人で、そもそも私は彼の短歌が好きでこの本を手に取った。そして、あまりに簡潔にして要領を得た、それでいて想像力豊かな文章に驚く。たとえば、ニュートンを説明するこんな文章。

「ニュートンはその物理学の原理いわゆるニュートン力学を記述するのに、適当な数学がなかったためまず微分積分学という数学の体系を打ち立てた。茶碗を作るためまずロクロを発明したごとくであり、小説を書くためにまず口語文を発明したごとくである。」

 ニュートンの業績がいかにすごいか、根本的なレベルの違いがよくわかる。私はこういう文章が大好きだ。

 短歌を題材にしつつ詠まれた人物の略歴に淡々と触れ、その印象を語ることに重きが置かれているので、短歌になじみがない人でもとても楽しく読めると思う。そのうえで、短歌と言う短い詩形に固有名詞、その最たるものとして人名が詠まれることの面白さを味わえばよいのでは。

 国境(くにさかひ)追はれしカール・マルクスは妻におくれて死ににけるかな ──大塚金之助
 リヴアイスのジーンズ試着してゐたら三島由紀夫が腹切つたのだった ──島田修三 

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2019年01月19日

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