【感想・ネタバレ】見晴らしのいい密室のレビュー

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Posted by ブクログ

 子どものころ、よく親に「屁理屈だ」とか「理屈っぽい」などといわれたが、ロジックでしか推論できないし、ロジックでしか物理的世界に働きかけることができない。ロジックこそ人間がこの世界を生き抜くすべである。
 とはいえロジックというのも使い方がある。ビンスワンガーが報告する、不治の病に冒された娘の誕生日に棺桶をプレゼントする統合失調症患者の話は、論理的に正しいことが、人間生活においては必ずしも正しくないことを示している。有用性のロジックと平行して、感情のロジックが働いているのだが、その片方しか見ないのは病的とみなされるわけである。
 他方、不完全性定理が示すように、ロジックはそのシステム内では無矛盾でも、システム内からそれが正しいかどうか検証できない。別の世界をぶつけてやれば、ロジックとロジックが衝突することも起こる。一方のロジックから見ると他方はイロジカルである。

 短編集『目を擦る女』の7編中3編を入れ替えた再編版。『目を擦る女』を読んでない私としては損はないのだが、こういう売り方には若干引っかかる。しかし、『NOVA1』で読んで感心した「忘却の侵略」が入っていたから、入手。再編の意図は同傾向の作品でまとめ直したということのようだ。酒井貞道氏によれば、それはロジックとアトモスフェアが解離した作品ということになる。すなわち、作品が論理的に整然としていることと、そこから導かれる作品世界の不条理の解離ということだろう。
 だが、それはどうだろう。論理的に整然としていること自体が不条理なのではないだろうか。

 「見晴らしのいい密室」は不可能犯罪を解き明かす超限探偵Σの推理。ロジックが世界と認識主体というところに拡張されて、推理小説としては馬鹿話になってしまうが極めて論理的。
 「目を擦る女」、隣家の女はこの現実が自分の見ている夢だという。現実はとても耐えがたいので楽しい夢を見続けるために目を覚ましたくないと目を擦る。この女が正気で、私はこの女の夢の登場人物だというロジックと、この女は妄想を持っているというロジックは2つの異なった世界認識で相互排除的、普通われわれは後者の認識を採用するわけだが、この作品では……
 「探偵助手」も2つの世界認識の相即と相容れなさが共存しているが、表面的にはいたってまっとうなミステリ。

 ロジックが綻びを露呈するのは世界と関わる点であるから、畢竟、仮想現実ネタが増えて、作者自身、仮想現実ネタばかりだと飽きられるぞ、と自虐的に登場人物に語らせているが、仮想現実ネタもヴァラエティは豊かである。
 「予め決定されている明日」では、算盤人ケムロは大勢の同僚と共に日夜、算盤とメモ用紙で膨大な計算をこなしているが、その計算により仮想現実を走らせていることに気づくというネタ。「ワンの絨毯」と同工のアイディアだが、話はイーガンとはまるで違った方向に進む。他世界のロジックはこっちの世界では狂気でしかないということ。
 「未公開実験」ではこの世界が仮想現実だと無理やり決めつけて、時間旅行を可能にしてしまうが、時間旅行ものこそはロジックの遊び場である。

 「忘却の侵略」。その攻撃を記憶に残すことができない敵と高校生が戦う話。これはミクロ世界で通用する量子論的ロジックをマクロ世界に適用するというトリックがあるのだが、そのロジックの中での敵攻略法が焦点。この主人公の思考の道筋は極めてロジカル、なので変。
 そういうロジカルゆえのおかしさって落語にも通ずるのではないだろうか。

 「囚人の両刀論法」は『天獄と地国』のスピンオフじゃないのかなあ。

 「屁理屈だ」とか「理屈っぽい」と怒る人にはお勧めしません。

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2016年02月09日

購入済み

妙な話だなあ

ミステリーだと思って読んだら、ほとんどミステリーとは程遠い話ばかりでがっかりしました。しかし変わった話と思って読むと面白かったです。夢野久作と蘭郁二郎を合わせたような短編集でした。妙な話が好きな方にはお勧めです。

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2014年10月08日

Posted by ブクログ

ネタバレ

QRコードだけやけに見覚えがあったけど前に読んだのか?記憶になかった、何度も楽しめてたらラッキー

タイトルに密室って入ってたからミステリ期待したけどどっちかといえばSFに軸があった。

・見晴らしのいい密室
表題作になるほど?読者視点では外の世界も二次元だからそんなに面白くなかった。夢オチは好き。
・目を擦る女
気味が悪くて好き。何周目の伝染なのか?
・探偵助手
あやこじゃなくてぶんこ!?ってなるの楽しくて可愛い。QRコードが印象的。
・忘却の侵略
切ない恋愛モノと異星人とのバトルが両方楽しめてお得。記憶喪失物うますぎる。
・未公開実験
ターイムマスィーーン
・囚人の両刀論法
他者を信じすぎても侮りすぎてもいけない……
・予め決定されている明日
意思によると思うこともこの本を読んだことも決まっていたのか??最後にふさわしくて読後感がよかった。

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2024年03月15日

Posted by ブクログ

ネタバレ

他の本と併読しようという腹づもりで読んでいたのだが、どの篇も多彩な表現やロジックで魅了してくるためそれどころではなかった。

まず、すぐに世界観を把握させるのが上手いと思う。ああ、そういうことねとその篇の世界のルールを頭から諒解させられるので、物語がすっと頭に入ってくる。
実際に話す時もそうだが物語においても掴みは肝心なのだ。
しかもその時点で重要な伏線を張っていることがあるので以前読んだ『玩具修理者』同様油断ならない。

個人的に大好きなのは「未公開実験」、
それから「忘却の侵略」「囚人の両刀論法」、「目を擦る女」
おや大体好きだな。

「未公開実験」は当人たちが真面目なのにも関わらずやりとりがユーモラスなところが面白い。
"ターイムマスィーーン(ポーズ)"はもうやめろ!と思うくらいしつこく繰り返されるが真面目に呼称がポーズ込みなので何回でも繰り返されてその度に笑ってしまうし、
丸鋸がやってみた歴史改変も渋いところを攻めているのも面白い。魏志倭人伝って。
頭がいいのか間抜けなのかわからなくなるくらいのエンタテイメント性を感じて難しい考え抜きにおもしろかった。

「忘却の侵略」は観測すること、しないことを巧みに選択し利用することで侵略者との攻防戦を展開させる。
相手が記憶に残らない、つまり観測の痕跡を残さないことを逆手に取り量子力学を戦いに応用するアイデアが非常に独創的で面白いと感じた。
本篇では古典力学的な考え方と量子力学的な考え方が分けてわかりやすく説明されており、自分は文系で理系分野にはとんと疎いのだが、それらの考え方それぞれに興味をひかれた。自分のこれまでの考え方にない考え方だったからだ。
この作品にだけ言えることではないが、もっと勉強すればもっと楽しんで読むことができるかもしれない…知識を蓄えてまた挑みたい。

「囚人の両刀論法」は規模が大きく、それだけでドキドキするテーマだ。
幸福の追求は地球とそれ以外の文明にも共通するイデオロギーだった。
やがてそれぞれの文明はその追求の手段としてまずその文明の及ぶ範囲内、つまり対内的には協調戦略をとるようになる。
ここまでは主人公の理想とする世界だったが、それぞれの文明がぶつかり合う—対外的に協調戦略をとらぬ相手と接触したとき、文明の幸福は脅かされる。利己的な文明に相対した時には文明を守るため、幸福のため、それによって蓄えられた潤沢な資源を利用して迎撃する他なくなる。利己的にならざるを得なくなる。
「囚人の両刀論法」を克服したかに思われた文明のどちらも、そのような結果に帰結してしまう。
問題の克服がさらなる問題を生み出すことについて、よく考えさせられた。

「目を擦る女」は純粋にホラー作品として面白かった。
描写としては八美の笑顔が、八美の言動そのものが不気味で恐ろしいし、舞台設定も悪夢のようだ。
これは個人的に感じることだが、自分以外の不可思議な存在が世界存続の命運を握っていることはなんとも不愉快だ。クトゥルフ神話的にいうとこれはアザトースの夢だな。
ただ、人はそれぞれ主観的にできている。これが他人の夢の世界だろうが仮想現実だろうがそれがその人の現実だ。八美は八美の夢の中の操子の現実を脅かした。だから殺された。
結果的に操子はこの夢の世界を引き継ぐ。だが夢は個々人の主観的なものであるはずなので、それを引き継ぐということはありえない。
それがありえるなら、彼女たちは同じ夢と同じ現実を共有しているということになる。この物語上ではもしかすると、二つの世界が現実として存在しているのではないだろうか。引き継ぎが可能であるということから、胡蝶の夢という言葉を強力に突きつけられたように感じる。
最後の操子の行動原理が私にはどうしてもうまく解釈できない。
どちらも現実だから、操子は八美を殺してしまったことに報いる必要を感じたのだろうか。それは、夢として語られる現実を強制的に終わらせることでしかできないことだったのだろうか?これについてはまた読み直して再考してみたいと思う。

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2020年06月23日

Posted by ブクログ

「探偵助手」のQRコードは面白かった。
「忘却の侵略」は一番気に入りの、シュレディンガーの猫や波動関数収束や未知危険生命体のネタを組み込んだ淡い甘い恋物語。
「予め決定されている明日」算盤計算でヴァーチャルリアリティを構築という逆テクノロジー設定も中々素敵。

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2015年12月05日

Posted by ブクログ

SF、ホラー、ミステリとジャンルに富んだ短編集。テーマは論理性。世界観を覆すような論理、現実を侵食する奇妙な論理、狂人の論理。様々な論理を巧みに操る奇妙な味の短編集。
他で既読の短編がちらほらありましたが、粒ぞろいで満足。
緊迫した状況なのにユーモア溢れる『忘却の侵略』とホラー寄りの『目を擦る女』が好み。

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2014年12月29日

Posted by ブクログ

ロジックこねくりまわしにこねくりまわす、SF+ミステリーな短編集。

読むのに、理解するのに、カロリー消費します。短編地宇野が、敷居を下げてくれてます。

しんどいけれど、おもしろいんだよね。
「未公開実験」「囚人の両刀理論」がそういう点では、しんどくもありおもしろくもあります。
「目を擦る女」「予め決められた明日」は、サイコさんの印象が強くて怖いですね。ホラー。

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2013年08月25日

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おいおい、旧作の『目を擦る女』を3篇入れ替えて出版しました、ってひどくね?
ファンだから買っちゃうけどさ。

んでまた既読のものも再読したわけだが、新作が読めて嬉しい反面、前のほうが良かった気もするなー。

密室なんて言ってるけど、ほとんどSFだかんね。

「探偵助手」はQRコードを読み取って始めて真相がわかる作品。同じようなのを袋綴じ小説として泡坂妻夫がやってたね。

「忘却の侵略」はシュレディンガーネタですごいの作っておられます。矛盾を回避するために何やらうまいことやってて面白い。

「囚人の両刀論法」はまぁまぁでした。ダークな方向に進むのは面白いけど、いまいちキレがなかったかなぁ。

なんだかんだ言っても小林泰三はすげー!

85点(100点満点)。

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2013年06月04日

Posted by ブクログ

ネタバレ

”探偵助手”の行間にQRコードが仕込んであって、読まなくても支障ないんだけれど、貧乏性なのでスキャンせずにはいられなかった。速く読めなくて面倒くさーーいと思っていたら・・・。


QRコード部分は読まなくても支障ないんだけれど、オチがQRコードの中にあってひっくり返りました。
えええええっ!?なんじゃこりゃーっ!


QRコード部分読まないと、別の小説になっちゃうと思います。
支障ないけれど、二通りの読み方ができます。やられた!

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2013年04月29日

Posted by ブクログ

初読、小林泰三。
ホラーSFの名手!

最初の二篇はミステリ仕立てで、ちょっと微妙。
ミステリとして出さずにSFとして出した方がよい。

「忘却の侵略」「未公開実験」「囚人の両刀論法」、これがめちゃくちゃ面白かった。

相対性理論、タイムパラドクス、仮想現実、囚人のジレンマ。
科学と理論とSFとホラー。
道満晴明あたりにコミカライズしてもらいたい感じである。

ターイムマスィーーン。ポーズ。

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2013年04月11日

Posted by ブクログ

"「いったいどういうこと?」
「何かで切られたんだ。刃物のような鋭利なものではなく、何か鉤爪のような尖ったもので、無理矢理切り裂いた感じだ。君のと同じだよ」
「うぐわぁー」裕子は呻いた。
「どうした?」
「急に痛みが」
「怪我をしたことを忘れてたから、一瞬痛みも遠のいていたようだね。ーーうぐわぁー」
「あなたも?」
「うん。何とか動かせるから、筋肉や骨は無事らしい」"[p.117_忘却の侵略]

「見晴らしのいい密室」
「目を擦る女」
「探偵助手」
「忘却の侵略」
「未公開実験」
「囚人の両刀論法」
「予め決定されている明日」

QRコードを読み込ませるのは面白いな。

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2016年08月30日

Posted by ブクログ

「目を擦る女」からの再読が多かったですが、改めて読んでも十分楽しめました。理屈をこねるだけこねた結果、物語があさっての方向に駆け出していく感じがとっても好きです。

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2014年06月22日

Posted by ブクログ

この一冊だけで色んなジャンルのお話が読めました。

タイトル買いをしたのでコテコテのミステリーかと思いきやSFでどーんと世界観をひっくり返された感覚が新鮮でした。

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2013年12月02日

Posted by ブクログ

割と好きな作家さんの奇妙な物語集

 でも最初の「見晴らしのいい密室」は夢や仮想世界でがっかり。ディック流の「目を擦る女」の斬新さはいいが、グロさが前面に出るから、テーマが読み取りにくい。

 バカも『泰三泰三』言えってな感じの QR コード小説「探偵助手」は中身はさっぱり。

 既読の「忘却の侵略」はシュレディンガーの猫ネタだから、やはり楽しい。かなり楽しい。このあたりから、ジャンルというかカテゴリーは SF になる。

 オチがわかりにくいのが、難点の「未公開実験」はまぁまぁかなぁ。まさに王道テーマの「囚人の両刀論法」は楽しい SF だ。

 そして既読の「予め決定されている明日」。いいね。

 唖然呆然のって紹介だが、奇をてらっただけで、ミステリー部分はおもしろくないなぁ。でも、SF 部分はかなりおもしろい。既読が多いけど満足。

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2013年05月28日

Posted by ブクログ

『探偵助手』のQRコード面白かった。コードを読み取りながら読むべし、ですね。
どの短編もSFネタと論理の詰め合わせで、楽しめました。

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2013年04月30日

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