【感想・ネタバレ】キメラ 満洲国の肖像 [増補版]のレビュー

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Posted by ブクログ

まず初めに、新書レベルとしてはかなり専門的な内容であり、大学受験程度の知識を持っている人間でも予備知識なしに読むのは難しい。巻末の増補解説がかなり分かりやすいのでまずはそちらを読むことをすすめる。本編は学術的でありながらも(良くも悪くも)感情の起伏に富む面もあるが、増補解説についてはかなり冷静な分析がなされているので、そういう意味でも増補解説から読んでもらいたい。

その上でこの本は満洲国がどのような実体を持つ国家体であったのかについて非常に示唆に富む内容である。一部に関して被害者側に重きを置いている感はあるが、それは仕方のないことであろう。
満洲国がなぜ傀儡政権と言われたのか、その実情がどのように変容していったのか、日本に与えた影響などを細かに分析し、「キメラ」と言う1単語に集約させている。学術論文にかなり近い内容でありながら小説のようなテーマ性を持たせた筆者の力には舌を巻く。
日本史、中国史では聞き慣れない人名が多く、読み進めるのに苦労するとは思うが、後半になればなるほど「キメラ」という言葉に向かって綺麗に収束されていくので是非読み進めてほしい。

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2023年11月07日

Posted by ブクログ

満州国は、おかしな国家である。日本は自国の権益を保持するため、満州を中国本土から切り離したかった。そのために満州を独立させた。これは外国が認めるかは別問題であるが、帝国主義的な戦略としては成り立つだろう。しかし、溥儀を担ぎ出すことは理解できない。

満州の住民の大部分は中国人であり、満州族の国ではない。溥儀も満州在住の満州族の指導者ではなく、中国全土の皇帝であった。溥儀を担ぎ出せば、中国から分離した満州国の論理が苦しくなる。むしろ、独立国の指導者として担ぐならば東北の軍閥の張作霖だろう。ところが、関東軍は張作霖を謀殺した。滅茶苦茶である。

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2022年06月13日

Posted by ブクログ

満洲国の肖像をギリシア神話の怪獣キメラになぞらえて描くことで、その建国の背景、国家理念、統治機構などの特色を明らかにし、そこに表れた近代日本の国家観察や民族観、アジア観を抉り出している。
新書だが重厚で説得力のある内容。満洲国の理念として語られてきた「民族協和」「順天安民」「王道楽土」といったスローガンが、(当初それらを本気で信じて取り組んでいた人々が一部いたとしても)総体として口先だけの欺瞞に過ぎなかったということがよく理解できた。「満洲国にも良い側面があった」などという言説で目を背けてはいけない近代日本の醜悪な側面が凝縮されていると感じた。著者が指摘するように、満洲国崩壊時の中国人学生が語った「善意がいかようにあれ、満洲国の実質」は「帝国主義日本のカイライ政権のほかのなにものでもなかった」という言葉に尽きていると思う。

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2022年06月12日

Posted by ブクログ

当時の文書を徹底的に掘り起こした本格的論文。よく新書で出版したなという感じ。
読んで改めて思うのは、列強の圧迫の中で生き残る、という日本なりの言い分はあったとしても、満州への日本の進出は当時の基準で見てさえ明白な国際法違反だったと言わざるを得ないこと。

日本軍内部でも「さすがにこれは持たないんじゃないの」という議論がさんざんなされている。当初直接占領を理想と掲げた石原莞爾は、妥協策として考え出した「五族協和の満州国」という建前にだんだん本気で惹かれていく。そして、民族の壁を越えた理想国家、という理念に貢献しようとして海を渡った善意の日本人が多くいたことも事実。

しかしその実態は、日本人が官僚、警察、軍を支配するまぎれもない傀儡国家。満州人に皇居のある東に向かっての遥拝を強制・・・。中国戦線不拡大論者だった昭和天皇も全く本意ではなかったろう・・。

「てふてふが一匹韃靼海峡を渡って行った」という詩は、当時の満州と日本を覆った漠然とした希望と不安を体感していないとなかなか本当の味がわからないのでは、という趣旨の著者の指摘は印象的だった。

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2019年01月01日

Posted by ブクログ

満蒙領有か独立国家建設か、共和制か帝政か。
満州国成立までの紆余曲折を丁寧に描き出している点がよい。

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2015年03月15日

Posted by ブクログ

フォトリーディング&スーパーリーディング

満州帝国の歴史の概要を知ろうと思って読んだ。理解したポイントは以下の点:

満州帝国建国は日本の防衛のため。(赤化防止の防波堤。)

第一次大戦以後の戦争は総力戦。その総力戦を意識して日本は資源や食糧の自給自足体制を目指した。満州国建国は欧米のブロック経済の日本版。

満州国の理想は高かったが、現実の指導原理は日本のための支配という概念で動いた。そのため理想と現実のギャップを誰もが意識した。

満州国は時代の必然から生まれたあだ花のような存在で、多くの人々に傷を与えた。

関東軍は日本のために満州を支配した国民無き兵団だった。

以上

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2014年07月07日

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満洲国の入門にと思い手に取ったが、
予想以上に熱のこもった記述と詳細な内容にひきつけられた。
入門書としては難しい内容もあるが、
読みづらい箇所は少なく素直に読み進められる。
増補に伴う補章の内容も著者自身の言葉で
満洲国の基礎的事項を説明しており、大変助かった。

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2012年06月20日

Posted by ブクログ

ネタバレ

[ 内容 ]
一九三二年三月、中国東北地方に忽然と出現し、わずか一三年五カ月後に姿を消した国家、満洲国。
今日なおその影を色濃く残す満洲国とは何だったのか。
本書は建国の背景、国家理念、統治機構の特色を明らかにし、そこに凝縮して現れた近代日本の国家観、民族観、そしてアジア観を問い直す試みである。
たに満洲・満洲国の前史と戦後に及ぼした影響など、その歴史的意義を想定問答形式によって概観する章を増補した。

[ 目次 ]
序章 満洲国へのまなざし
第1章 日本の活くる唯一の途―関東軍・満蒙領有論の射程
第2章 在満蒙各民族の楽土たらしむ―新国家建設工作と建国理念の模索
第3章 世界政治の模範となさんとす―道義立国の大旆と満州国政治の形成
第4章 経邦の長策は常に日本帝国と協力同心― 王道楽土の蹉跌と日満一体化の道程
終章 キメラ―その実相と幻像
補章 満洲そして満洲国の歴史的意味とは何であったか

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[ 関連図書 ]


[ 参考となる書評 ]

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2011年04月02日

Posted by ブクログ

あ〜しんどかった。途中ついつい読み飛ばしてしまったところもあり。しかししかし、大力作です。現在の政治と照らし合わせても、吉田、岸、福田、大平の流れがすべて満州国とつながりがあるという記述には、ふ〜むとうならされます。

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2011年09月09日

Posted by ブクログ

 ■満洲国の成立と消滅までを、膨大な資料と著者の思念を持って書かれた「生きた」満洲についての歴史が語られる。当時は「五族協和」の「理想国家」でもあり、多くの者たちが夢と希望を持ち、満洲を眺めていたこと。米国大統領ウイルソンの「民族自立論」言い換えれば西欧的「膨張主義」から自国主義の影響で、中国の抗日戦線の活況があった。関東軍の捻じ曲げられた満州論、石原莞爾の「世界最終戦争論」から見た満州論の排除の過程と石原と板垣征四郎の確執。中国を知悉しその上で中国と日本の関係の理想を満州国に描いた橘撲(しらき)の理想であるが故の<変節>の過程。満州国建国の民族協和と王道政治理念と現実の満洲の「指導者層の齟齬と格闘と「理想」の費えていく過程が、中国と日本の「人々」の想いを絡めて描かれる。相した多様な側面を持つ満洲国の姿がギリシャ神話の「キメラ」のような国家として形容された。多くの者たちが、この「国家」について想いをめぐらせ、交錯した思いを募らせ、移民の国策や、不況社会で起きた農村部では不作によって娘を売りにだすまでの困窮が見られた時代の打開策として新聞は、満洲国への移民まで読者を煽った。■その様は、歴史的な感受性があれば、重厚な感涙を持って向かい入れざえるを得ない叙述が、縷々と述べられて、ある。■マルクス主義的な単純な「帝国主義」的な歴史観ではなく、それ故中国から見た満洲国の見方そのものでもない、また、近頃ブームの「皇国」史観とも違った歴史観から書かれている。「歴史」を想定できてている重厚かつ情のある歴史書。■本書によって日本とって、近代の「歴史」はかくも重い題材であることを再度確認させられる。近代史に向かうとき精神的に、重いものを負わせられているの、だ。■尚、石原莞爾の「世界最終戦争論」は、対米国との対戦を想定した記述があり、満洲国建設時の参謀である石原の想定が、当たってしまったことになる。米国は、日本が日露戦争の勝利し、米国大統領セオドア・ルーズベルトの仲介で、ポーツマス条約を結ぶことになるのだが、その当の本人が、「オレンジ計画」すなわち米国の対日本との戦争を想定した軍事戦略の策定を軍部に指示、策定していた。日本の戦略は、石原のような個人に帰せられ、米国はシステムに帰せられるその違いを、本書によって思い知らされることにもなった。

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2009年10月04日

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