【感想・ネタバレ】猟奇博物館へようこそ : 西洋近代知の暗部をめぐる旅のレビュー

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Posted by ブクログ

 本屋さんで見かけてなんとなく表紙買い。

 たくさんのテーマが短い章に分けられてつづられているので、どこからでも読み始められて、また、読みやすい。できれば写真はカラーか、さもなくば口絵が欲しいところだったけれど……。

 この手の「博物誌」は、澁澤龍彦の随筆や、荒俣宏氏の著作でわりとなじんでいるつもりだったのだけど、本業フランス哲学の筆者の視点から見た「博物誌」は、やはり一味違った面白さがあった。
 面白いんだけど、生真面目な文体で、淡々とつづられているだけの文章なのに、途中何度か吐き気を催してページを閉じてしまったのはなぜだorz もっとグロテスクな写真集(カラー)や、画集を見ながらでも、平気でご飯を食べられる自分なのに……。

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2012年02月21日

Posted by ブクログ

猟奇的という文脈のもとに、古今東西の異貌のオブジェを博物館さながらに紹介している一冊。キュレーションのお手本のような構成だ。

本書には解剖学ヴィーナス、デカルトの頭蓋骨、腐敗屍体像にカタコンベ、奇形標本などのグロテスクな写真がふんだんに登場する。それでいて上品さが損なわれていないのは、対象人物や、その思想へのリスペクトを欠いていない著者の語り口によるものであろう。

例えば哲学者デカルトは、紆余曲折を経て頭蓋骨と身体が別々の場所に葬られている。この事実を紹介した後の、著者のコメントが憎い。

それにしても、心身二元論の標榜者にふさわしく、デカルトは今日もなお、形而上的な頭蓋と形而下的な四肢の骨とを別々の場所に眠らせているのだねぇ。

また、功利主義思想家のジェレミー・ベンサムも負けてはいない。一望監視装置「パノプティコン」の考案者にふさわしく、自身の姿をロンドン大学にて衆人環視の中にさらし続けているのだ。一方で、我らが日本の代表選手は小野小町。肉体が腐敗してゆく過程を九段階に分けて描写した「九相図」というものが紹介されている。美は移ろいやすいがゆえに、美しいのであるという。

本書の序文には、「ひとたび足を踏み入れれば、もはや後に引き返すことはできません。いいですかな。よろしいかな、覚悟してお入りあれ」と書かれている。さて、どうします?

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2012年01月13日

Posted by ブクログ

ネタバレ

タイトルからスプラッター的なものを想像していたら、
西洋で実際にあった見世物小屋や、貴族の趣味全開のブンダーカマー、そしてそれらに纏わる『視線』のお話などなど、割と(失礼)真面目に色んなことが書かれています。
抽象的なお話、映画や文学作品からの引用などこちらの知識を試される部分もありますが、載ってる写真と筆者の語り口が軽いので(スマホ片手に色々調べながらですが)楽しく読めます。
個人的に一番印象に残っているのはパリのカタコンベのお話。フランス革命前夜のハイパー合理主義・最強のSDGs。ぜひ読んでほしい。

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2022年10月18日

Posted by ブクログ

ネタバレ

タイトルの「猟奇博物館」は、この名前の通りの博物館が世界のどこかにあるというわけではない。世界各地に点在する、「猟奇的なモノ」を展示する博物館や教会、史跡などを、著者が自分の足で訪れ、その内情を細やかに記したうえ、その展示物にまつわる蘊蓄まで述べていて、この本自体が「猟奇博物館」になっている。自宅の椅子に座りながらにして、世界各地の「猟奇的なモノ」を見聞できるという、なかなか贅沢な読書体験ができる。

1トピックあたり10ページ弱と短いので、目次を見て面白そうなものだけ拾って読むのも良いかと思うが、オススメは頭から通して読むこと。なぜかというと、大まかではあるが歴史的な時間の流れをふまえて「陳列物」が紹介されている箇所があるのと、前のトピックで出てきた陳列物や製作者、所在地を受けて、複数のトピックが緩やかな繋がりを持って紹介されていく箇所があるから。
むしろ、こうした「そういえば前の章での陳列物を見て思い出したが」的な書き方がされていることで、次へ次へとスルスルと読み進めることができる。異なる「陳列物」を、キーワードを介して次に繋げていく、著者の作家としての筆力が素晴らしい。

惜しむらくは、各展示物の写真がカラーではないこと。このご時世、ネットで調べれば原色の写真も出てくるとは思うが、この本だけで「猟奇博物館」として完成させるならば、全てでなくてもいいので(どうせ骸骨は白黒でもカラーでも変わらないし)、いくつかはカラー写真で見てみたかった。

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2022年02月12日

Posted by ブクログ

"猟奇博物館へようこそ"という題名から受ける印象とはだいぶ違うというのが読後の印象。副題の西洋近代知の暗部をめぐる旅って言うのはぴったりだと思う。パリを中心に普通の観光客は絶対に近づかない博物館を作者が独特の語り口で案内する書籍というところか。前半は、カタコンベなどのキリスト教に関連する施設や遺物についての紹介。後半が医学にまつわるホルマリン標本や蝋細工の解剖標本などについての紹介。たぶん、猟奇ではなく、驚異や好奇といった見世物小屋的発想を前面に押し出しているので、本文冒頭での言葉の方がしっくりくる。

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2012年12月05日

Posted by ブクログ

文体が少し翻訳調で、カタカナ語を多用しており、独善的な部分もあったため、少し読みにくかったのは否めないが、興味深い内容と構成は面白かった。
きちんと理解するためには、美術とヨーロッパ言語(特にフランス語とイタリア語)の基礎知識は必要。(筆者は一体どういう人々を読者層として考えていたのだろう?)
猟奇への興味は、窃視趣味とつながっている。
そして、人間とはこんなにもおぞましい存在なのだよね、ということについて共感したい、という思いも私にはある。実際には共感してくれる人はなかなかいないのだけれど、美女も一皮むけばゾンビ、のくだりで、日常生活では見えてこない内臓を露出させれば、にわかに共感する人も出てくるのではないか、と。人間という生き物は、もっと言えば、生きとし生けるものは全て、なんとおぞましいものであることか。でも、内臓が見えないが故におぞましさを感じないというのであれば、日常的に内臓が見えていれば、それに慣れてくるということもあるかもしれない。「観る」ということが、おぞましき人間に対処する一つの方法、という考え方もできる。
こうして、私の中でも、猟奇的嗜好が窃視趣味へと還元されていくのだろう。

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2012年02月13日

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