あらすじ
漢軍に一族を滅ぼされた翠玉(すいぎょく)は、敵討ちのため後宮に忍び込む。しかし皇帝に近づく機会は訪れず、絶望していた。
いっぽう、女史の雪花(せつか)は妃嬪(ひひん)の葬儀を記録中、遺体の首が切断されて別人の頭部が縫い合わされていることを指摘するが、本人だと断言する周囲の逆鱗に触れてしまう。「事実を記す」と曲げない雪花は、このままでは命を落とすことになると若き高官である利夏(りか)に警告されるが、後宮で頻発している妃嬪の急死・失踪事件の情報を集めることができれば放免されると助け舟を出される。期限は三日。雪花は調査を始めるが――。
【著者について】
白川 尚史(しらかわ・なおふみ)
1989年、神奈川県横浜市生まれ。東京都在住。弁理士。東京大学工学部卒業。在学中は松尾研究室に所属し、機械学習を学ぶ。2012年に株式会社AppReSearch(現株式会社PKSHA Technology)を設立し、代表取締役に就任。2020年に退任し、現マネックスグループ取締役兼執行役。第22回『このミステリーがすごい!』大賞・大賞を受賞し、『ファラオの密室』で2024年にデビュー。
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Posted by ブクログ
雪花と翠玉のW主人公がそれぞれの覚悟を胸に陰謀へ立ち向かう推理×中華ファンタジー!
前半は雪花が妃嬪の葬儀で「首より上だけが縫い合わされたような死体」を目撃してしまい、真相を追うことになる推理ファンタジー。
処罰までに残された期限わずか三日のうち一日目は女官たちに広がる噂に探りを入れるも、出てくるのは幽霊の話ばかり。無駄足かと思いきや、二日目の早朝(日の出前なので深夜?)に雪花本人も奇妙な体験をする。
ここからファンタジー色が強くなっていき、雪花自身が何物かに呪詛をかけられた事実、二百年前に起きた「巫蠱の禍」という呪術災害の件、「呪禁医」の存在により、今回の事件においても呪術との関係が強く示唆されていき――。
※※※以下、ネタバレありの感想※※※
雪花と翠玉、それぞれに大切な人を見つけたものの真逆の結末を迎えるラストが悲しくて胸に刺さった。
・雪花SIDE
立場的にも命を軽んじられがちな女史でありながら、誇りを胸に父の死の真相を追ううちに陰謀へと巻き込まれる悲劇のヒロイン。
明達の裏切りにより命を落とすが、ラストは自分の信念に従い殭屍としての仮初めの命を燃やしてまで最後の勤めを果たす意志の強さは歴史に名が残らなくとも読者の胸に深い感動をもたらしてくれる。
特に最後の勤めとして女史の誇りに傷をつけるようなことをしてまで正しいと信じる行いに殉ずるのは、父の死に方と重なるものがあり物悲しい。……と思っていたら終章で僅かながらも救いがあって号泣した。気になる人はぜひ読んでほしい。
・翠玉SIDE
翠玉は亡国の王族の生き残りである「悲劇のヒロイン」であり仇討ちのため漢国の天子の首をとろうと復讐に燃える人物として描かれているが、刃を突き立ててなお仁曜が「国は一人の人間が背負うには重すぎる」(意訳)と言い翠玉の身を案じてくれたことで仁曜に惹かれるようになる。翠玉と同じように国を預かる者としての重責を感じている仁曜に対して親近感が湧き、仇討ちどころではなくなるという展開はよくあるラブストーリーのようだが、ここから悲劇が加速していくのがこの物語の良さでもある。
この恋がかえって仁曜の立場を危うくし、策略に陥った翠玉も捕らえられてしまう。加えて、自国の襲撃の真実を知った翠玉は生きる目的を見失い自らの行いへの罪悪感に苛まれる。翠玉は父が殺される瞬間を目撃している(すすんで目に焼き付けている)うえ、逃亡中に護衛が飢えや病気といった悲惨な死に方をし、弔いも満足にできなかった過去がある。
漢への復讐心が翠玉の生きる原動力となっていたにも関わらず、本当の仇は既に死んでおり諸悪の根源である「己に潜む敵意」に苦しめられ生きる目的を自問するシーンは翠玉の人生の転換点であり見どころの一つだと思う。翠玉がどんな決断をしてどう行動するのか、ぜひ物語を読んで確かめてほしい。
Posted by ブクログ
歴史×ミステリー×ファンタジー×恋愛(友愛)と、様々な側面を持つ作品。
漢軍に一族を滅ぼされた翠玉と、後宮の妃失踪事件を追う女史である雪花の2人を軸に物語が進む。、
翠玉は一族の敵であった漢の皇帝に復讐のため近づくが、皇帝と恋に落ちてしまう。後には、一族を滅ぼしたのが漢では無いと発覚し、皇帝への反逆を企てる輩から逃げ出し、2人で生きていくことを選ぶ。
対して雪花は、反皇帝派の明達に殺され、キョンシーとなってしまう。冤罪をかけられ、殺された父親が守り持っていた呪術書(死体をキョンシーとしてこの世に縛り付ける書)が無いと動くことができなくなる身体となった彼女は、他のキョンシーの暴走とこれ以上の呪術の被害を避けるために、自ら呪術書を燃やす。
自身を守り続けてくれたえきていれいと重なり合うように彼女が息絶えるラストは、好きな相手と結ばれる翠玉と対照的で切なかった。