【感想・ネタバレ】竜が最後に帰る場所のレビュー

あらすじ

しんと静まった真夜中を旅する怪しい集団。降りしきる雪の中、その集団に加わったぼくは、過去と現在を取り換えることになった――(「夜行(やぎょう)の冬」)。古く湿った漁村から大都市の片隅、古代の南の島へと予想外の展開を繰り広げながら飛翔する五つの物語。日常と幻想の境界を往還し続ける鬼才による最重要短編集。 (講談社文庫)

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Posted by ブクログ

ネタバレ

明らかに現実とは異なるはずの世界にも関わらず、
ふと「自分がその世界の中にいたのではないか?」と錯覚させるような、
不思議な感覚をもたらす作品だった。

「鸚鵡幻想曲」は、「自分とは何か」という根源的な問いを突きつけるように、
自分もまた「ある集合体の一部」なのではないか、
今この形をしている自分がやがて何かによって「解かれる」日が来るのではないか、
そしてまた、別の集合体として「再構成される」ことを無意識に願っているのではないかと、そんな想像を誘った。

作中の鸚鵡たちは、人間には掴めるが鳥には掴めない何かを象徴していた。
日々当然のように受け入れている「身体」や「存在」は、案外脆く、
実は異質な何かでできているのかもしれない、
自分の内側にある“自分でない何か“に気づかされるような読後感があった。

「夜行の冬」は、寓話的に解釈してみると、
あの物語を通して見えたのは、
「今、この世界を生きる」ということの重さと、
それをおろそかにした者に降りかかる「帰れない」という罰のようなものなのかな。
異界へと続く道は、決して非現実ではなく、生き方を誤ったときに開かれる、
もう一つの現実なのかもしれないと感じた。
物語が終わっても、あの世界は確かにどこかで続いている、という余韻が強く残った。
時間も空間も流動的で、決して閉じた物語とは感じなかった。

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2025年07月06日

Posted by ブクログ

ネタバレ

恒川光太郎さんの最重要短編集。
シンプルにどの話も面白かった!
恒川光太郎さんはホラーという括りでジャンル分けされていることが多いが、ジャンルの幅を超えた幻想小説家であると思う。
恨んだ相手を殺す能力があると言っている”だけ”かもしれない相手との、少し不穏さを感じさせる現実味のある作品「風を放つ」
かつて家族を殺した犯人を、洗脳により正義のヒーロー”グラスゴースト”に仕上げて殺人をさせるという復讐劇「迷走のオルネラ」
最初の二作はSFとは言い切れない現実味のあるストーリーだ。
数日おきに”夜行”についていきあらゆる世界線を旅する「夜行」
擬装集合体の人間が拡散され二十匹の鸚鵡となり生きていく話「鸚鵡幻想曲」
竜が生まれてから、厳しく過酷な生物世界を生き抜いていく話「ゴロンド」
後の3作品は、どこか現実味のない幻想的な雰囲気の強いファンタジー作品だ。
一話目から五話目に進むにつれ、どんどんファンタジー色の強い作品となっていくためなのか、読んでいて心地よい酩酊感を感じられました。

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2025年05月06日

Posted by ブクログ

ネタバレ

恒川光太郎作品、初読です。
カバーにある通り、本屋でまず夜行を少し読んでみたところ、不思議と惹かれたので購入しました。

後書きにもありましたが、全体として
現実→ファンタジーへとどんどん染まっていく感じが読んでいてとても不思議で心地よかったです。

この方の作品について特に魅力だと感じた点が二つあります。
ひとつは、情景描写力です。
細かく述べられているわけでもないのですが、なぜか情景がはっきりと、俯瞰的に脳裏に浮かびます。
読んでいてとても快適といいますか、楽しめました。
『夜行』では冬の闇のしんとしたしずかな空気感、しかしどこか不穏で寂しいような感覚が。『鸚鵡幻想曲』では、気が違ってしまったかのようなおかしな人間と対峙した時の緊張感や生温い温度を感じ、その度に驚きました。
こう、臨場感があると言うよりかはやはり俯瞰して、落ち着いて第三者視点で、しかし没入できるような、どこか安心して読むことができる快適さがありました。

もうひとつは、話の節々に「人生だな」と感じられる表現や構図が散りばめられていることです。
うまく言えないのですが、『夜行』の、はっきりとした目的を持っていないにも関わらず抱く「置いていかないでくれ」という漠然とした焦り、「もっとより良い環境がひとつ先にあるような気がしてしまう」という縮毛の娘や主人公の根拠のない期待。『ゴロンド』の、翼が生えどこにでも行けるほど知性も体躯も発達したゴロンドと何も変わっていないウーガーの比較、池の中から一生出ることもなく生を営む兄弟たちを「不幸だとは思わない、そっとしておこう」と嘲笑することもなく思うことができるゴロンド。ゴロンドは特に「人生」を感じる部分が多かった。
池の中で一生を終える彼らも、外に出てきたがそこから進化しないウーガーも、成長できたゴロンドも、環境によってその生き方が、あり方が決められているだけ。ふと池から出られることに気づかなければ。シンの鳴き声が聞こえなければ。案内してくれる仲間に出会っていなければ。さまざまな運が重なり、生物はそこで出会い手に入れた環境で生を営む。そこには優劣などないはずだが。

うまくいえませんが、ファンタジーなのに(特に後半)、ファンタジーであるが故なのか、非常に自分の人生や周囲の環境、今の世間に通ずるところを感じ、没入して読めつつもさまざまなことに思いを巡らせることができました。
私が最後に帰る場所はどんなところだろう。自分で選び、決めることができるのだろうか。何かのきっかけで狂気に呑まれ、誰かの手により導かれてしまうのだろうか。それともより良い場所を探して、現状では満足できず歩き続けるのだろうか。
最後には、めでたしめでたしとどこかの村の壁画で見つけられたいものです。
毛無し猿より。

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2022年05月18日

ネタバレ 購入済み

幻想の世界へ。

特に印象深かったのは、「迷走のオルネラ」と「ゴロンド」でした。
「迷走のオルネラ」で、つきあっていた頃は煩わしかったコジマアヤカの「君はどう思う?」が、後に手紙で見た時、もの凄く懐かしく嬉しく感じたのに自分でも驚きました。
「ゴロンド」は、何世代にもわたり最後に帰る場所へと飛び続ける竜という、とてつもないロマンが書かれています。竜になって、空を(もしかすると宇宙をも?)飛んでみたくなってしまいました。
上記の2話は、ふとした拍子に思い出してしまう程気に入ってしまいました。でも、どのお話も素晴らしいです。一度読み始めると止められない本でした(^^)

#感動する

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2022年09月29日

Posted by ブクログ

ネタバレ

恒川さんのお話おもろいなー!ファンタジーと現実の入り交じったお話を得意とされているんですかね?あんまりないタイプのお話が多くて、読んでいて先が分からず楽しいです。文章も好きです。
今回のお話は話の繋がっていない短編集でしたが、どれも面白かったです。むしろ表題になっている竜が最後に帰る場所がいちばん面白くなかったまである(言い方悪くてすみません)。そのため星を減らしましたが、最後のやつ以外どれも好きな作品でした!母親を殺した人間を洗脳して善良な殺人犯に仕立て上げるやつとかめちゃ好きですね。世にも奇妙な物語じゃないですか。
恒川さんの作品は2つ目なんですが、全部読んでみたいなぁとおもうくらいに好感度の高い作者さんが見つかって嬉しいです。今度は短編集じゃない、長編の話を読んでみたいなぁ、と。やはり夜市を読まねばですかね…。

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2025年10月29日

Posted by ブクログ

ネタバレ

現実を生きながら、ふと幻想に足を踏み入れるような短編集。

すぐそこに広がっているかもしれない知らない世界に想いを馳せ、胸をときめかせたり恐怖に怯えたりする。本の中でそういう体験ができるのは幸せなことだ。不思議な満足感の中読み終えた。
特に「夜行の冬」が好みだった。歩かなくてはならないから歩いているなんて、まるで人生のようだ。

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2019年12月27日

Posted by ブクログ

ネタバレ

短編ですが、時間も空間も広がりがあって、お話が終わった後もあの描かれた世界は続いていくんだろうなと感じさせられました。
特に中盤以降の3篇が好き。
「夜行の冬」は錫杖の音に導かれる旅、「鸚鵡幻想曲」は鸚鵡の鮮やかさにやられるけど結構シビア。
アサノは命取られなくても、この先まともに生活は出来なそう。怯えて暮らすんだろうな、それは長く続くから死よりも苦しそうです。
そして「ゴロンド」。恒川さんの描く人でないもののお話は壮大で好きです。ファンタジーかつ、自然の厳しさ美しさが感じられます。人間のことだろう〈毛無し猿〉の醜さ滑稽さも。

角川ホラー文庫の恒川光太郎作品ですが「上品な文章だね」と言われてた方がいて、確かに…と思いました。

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2025年03月08日

Posted by ブクログ

ネタバレ

短編集。
鸚鵡幻想曲がちょっとおとぼけた感じで、一番好きかなぁ。
次点は夜行。
私が旅をするとしたら、最初は好奇心。そして惰性になりそう。

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2025年05月28日

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