あらすじ
1972年の夏、ミシガン大学に研究員として招かれる。セミナーの発表は成功を収めるが、冬をむかえた厚い雲の下で孤独感に苛まれる。翌年春、フロリダの浜辺で金髪の娘と親しくなりアメリカにとけこむ頃、難関を乗り越えてコロラド大学助教授に推薦される。知識は乏しいが大らかな学生たちに週6時間の講義をする。自分のすべてをアメリカにぶつけた青年数学者の躍動する体験記。
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Posted by ブクログ
100円でたまたま買えたので読んだ本。昔、同じ著者の国家の品格を読んだことがあったけど、その時は記憶に残らなかったが、この本はかなり面白かった。
著者がアメリカの博士課程やポスドクで留学していた時の話で、自分の感情を包み隠さず書いていて、入ってきやすい文章だった。本当に、今の時代なら公に出来なさそうな、個人的な日記というか。
例えば、友達と過ごしたらマリファナをいつのまに吸っていたとか、大学の後は地域の子供と遊んでいたとか、ラスベガスで留学費用全部ギャンブルですったとかね。なかなか恥ずかしくて書けないような事も正直に書いてて良かった。わくわくしながら読めた。いい本。
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数学者であり、随筆家でもあり、また国語教育や社会問題に関して優れた見識をもつ藤原正彦氏の名随筆。彼が70年代前半にアメリカのミシガンそしてコロラドに留学した際の体験が主に語られる紀行エッセイ。
個人的に特に印象的だったのは、次の4つ。①アメリカ本土に上陸する前に立ち寄ったハワイで、唯一の日本人として白人観光客群の中に交じって、真珠湾を訪れるエピソード②日本とアメリカの大学生の違いに関して(アメリカの学生は、分数すら怪しい者がいるが、勤勉なことに毎講義で必ず宿題を要求する)③北部ミシガンでの寒い学究生活の中で行き詰まった末、同僚からのススメで、気分転換に南部フロリダへ海水浴に行く話④自分の下宿先の近くにあるマンション群で知り合った外国人家族の話
②に関しては、様々な本や周りの人達から聞き知ってはいたが、何度聞いても、このアメリカという国の不思議かつ驚異的な底力を思い知らされる。アメリカのエリート学生の大半は、入学時には、理数系の知識が他国の優秀な学生の足元にも及ばないのだが、それが大学卒業時や大学院修了時になると、超一流の数学者や科学者に変身しているのだから、すごく不思議というか奇異に感じられる。しかし、よくよく考えてみれば、そのカラクリは簡単で、藤原氏が指摘しているように、彼らは大学の講義に対して、非常に熱心かつ真面目であり――というより、彼らにしてみれば、大学の授業はサービスであり、「自分たちは、そのサービスを最大限の効果でもって享受する権利があり、また実際、そうしなければならないのだ」という意識が強い――この勤勉な学習姿勢と、またそれに応えんとする学校側の超一流の施設・サービスが、一介の大学生を世界レベルのエリート学生へと変貌させ、ひいては、この超大国を支える大黒柱へと成長させているのだ(勿論、移民国家ゆえに、外国の並外れた才能が自発的に結集しやすいという事情もあるだろうが)。
③の挿話に関しては、フロリダ・マイアミの白浜で、ほんの短い間だが筆者と地元の白人少女が心通わせるシーン(風景描写)がすごく心に残ると同時に、同じ時季にも関わらず、一つの国の北部(ミシガン)と南部(フロリダ)で、こんなにも気候や風土が異なるのかと心底驚いた。やはり我が国とは、国土からして規模が全然違うなぁと思ってみたり。
藤原氏は、政治評論や社会批評なども精力的に書かれているが、個人的には、本書のような紀行エッセイのほうが好き(本書のイギリス編とも言える『遥かなるケンブリッジ』も素晴らしい)。彼の随筆の醍醐味は、「自虐的なユーモア」と「わざとらしい自慢話」と「感動を帯びるペーソス」の三者が絶妙に相混じる文体にこそある。前者の評論・批評には、時に3つ目の「感動味のあるペーソス」が欠けていることがあるので、やはり自分は紀行エッセイのほうが好きである(つまりは、本書もやはり星5つの高評価)。
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藤原さんの感受性の豊かさと、感じたこと、考えたことの言語化力に感動した。
同じ体験をしても、ここまで深く考えて、感じて、言葉に表すことができる人はなかなかいないと思う。
セリーナとの会話がとても印象的だった。
他の作品も読んでみたい。
Posted by ブクログ
最後らへん、「私のアメリカ」にまつわる文章が良かった。
見知らぬ地で気を張ったり、疲れたり、でもそこで頑張って認められた時の全能感、それをビシって書き表していたところで「この本は面白い!」となった。
アメリカにいても日本での自分らしくいればそれの異質さがアメリカらしさになるって言葉、励まされる。
Posted by ブクログ
数学者のアメリカ滞在記。
滞在中のさまざまなことについて、深くこの方の視点、考えに触れられる。
いいことばかりでなく、アメリカに対する対抗心、モチベーションが上がらず体調が悪い冬の期間の話も。外国で教授もするくらい賢いのでお堅い方かと思いきや、人間味あふれ、人への興味、愛のある方なんだなぁと思った。
大学の研究vs教育の話、大学を辞めさせられた教授の話は、自分のいるコミュニティの洞察力の参考になりそう。
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すごく面白かった!に尽きます。
数学者にしてこの文才。当時のアメリカの様子や社会的問題、著者の心の移り変わり、アメリカ人に対する見方の変化などが各章ごとにまとまっていてとてもよくわかります。頭脳明晰としか言いようがありませんが、それだけではない著者の人柄が滲み出ており、最終的には『愛なしでは人間は人間であり得ない』と言うところに行き着いているところにも表れていると思います。
また、ユーモアもあって色々な場面で何度も笑ってしまいます。アメリカに対し、初めは対抗心を持っていた著者が、一時は疎外感からノイローゼに陥り、フロリダで心が解放されアメリカを好きになる事で克服してからの、その後のアメリカに対する理解が深まる様子はすごい。
アメリカ人の国民性についてのお考えは、ある一つの見方と言えるのかも知れませんが、アメリカと言う国を理解する上で十分納得性があり、その国民性や多様性の問題などについては、現在もなお当てはまるものであると思います。
日本人としての自覚も改めて高まりました。
Posted by ブクログ
2019年2月
著者が70年代アメリカに大学教授として赴任した2年間の物語。
今のバイト先が外国人研究者の宿泊施設なので、単身の若い教授を担当するたびにこの物語を思い出す。
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『国家の品格』の大ファンなので本書を手に取った。
筆者は当時38歳前後。にもかかわらず現在と同等レベルの高い文章力に驚いた。周辺の様子のリアルな描写のなかに詩的な表現もある。自身を卑下する得意のお笑いセンスもすでにある。
内容は若者らしい青さ、大胆さが満ち溢れている。ただの東大卒のがり勉ではないことがよく理解できた。彼のアメリカという国への洞察力にも感服。読後感は爽快。
ただし、最後の解説はかなり読みずらくおもしろくなかった。
Posted by ブクログ
数学者である著者の、1970年代前半の米国留学体験記。日本エッセイスト・クラブ賞受賞作(1978年)。
藤原氏は、『八甲田山死の彷徨』の故新田次郎と『流れる星は生きている』の藤原ていの二男。
本作品は数学者である藤原氏にとって、エッセイストとしての処女作であるが、氏の抜群の行動力、感性とユーモア、更に両親から受け継いだ著述力を余すことなく表現した、何とも楽しい優れた作品となっている。
2006年には著書『国家の品格』が年間ベストセラー1位となるが、本書で語られているような、異文化の体験とそれへの理解、日本文化への思いが、そのベースになっていることがわかる。
元気が湧く、青年数学者の体験記である。
(2007年9月了)
Posted by ブクログ
若き数学者としてアメリカに渡り、もがきながらもアメリカという国と自己のアイデンティティとの間で奮闘した素晴らしい旅行記だった。
ハワイで日本人ひとりの真珠湾遊覧船に乗り込み日本人であることのコンプレックスを過剰なまでに意識していた旅の始まり。ラスヴェガスで全額擦ったカジノ。ミシガンでは太陽のない季節に精神を病み、ガールハントのフロリダで新生し、コロラドで研究者としての深みを得る。最後はサンフランシスコ、「私のアメリカ」は太平洋で生まれ、大西洋で蘇り、サンフランシスコの霧に沈んだ。
全編通して素晴らしいが、10章のアメリカに対する考察は特に素晴らしい。
Posted by ブクログ
文章のリズムがいい。
筆者の嫌な部分も含めた感情が素直に書いてあって共感もできておもしろい。
コロラド大学での最初の授業の様子は思わず笑ってしまった。
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高嶋ちさ子さんがインスタで紹介していて興味があって読んだ。著者がアメリカで生活していく中での心情の変化やそこで出会ったアメリカの人たちを通じての著者のアメリカに対する、アメリカ人に対する分析が興味深かった。
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著者がアメリカに研究、講師として招かれた頃の述懐がまとめられた内容でした
前半は、新天地、しかも海外ということで、どこかウキウキした気持ちが伝わってくる内容で、カジノで散財したお話とか、若さからくる勢い、怖いものなし、みたいな部分も味わえて楽しかったです
中盤、苦悩する時期、もがく時期の描写も、若さからくるもの、アメリカ生活における日本人としての意識、みたいな部分で苦しんだ経験、気分転換で行ったフロリダでの出来事、そのときの気持ちの変化、苦しみを乗り越えた先にあるもの、気持ちの描写がとても胸に響く表現で、ズシンときました
終盤、苦悩を乗り越えて、最後はアメリカ人の印象が綴られてます。アメリカは移民国家ゆえ、日本人が持ってるようなアイデンティティ、郷愁、みたいな感覚が無いのかな、無いからこそ、個性が強く見えるだけで、それこそがアメリカ人、だからこそ、日本人はアメリカでは自然に日本人でいてこそアメリカ人になれる、というお話が印象的でした
自分は著者とは比べものにならないくらいの期間しかアメリカで仕事した経験はありませんが、それでもその頃の気持ちも少しばかり思い出しながら読み進めることもでき、懐かしさも感じながら、若い頃にもっと思い切った経験を積んでおくべきだったなぁ、と思ったりしながら読みました
Posted by ブクログ
若さが伴う躍動感感じる紀行文。アメリカ人になめられないぞという気負いから、2年後のアメリカ人を見る目が変わるまで、結果自らが大きく成長した証が印象的。子供たちとの微笑ましい交流を叙述したのも効果的。2019.12.15
Posted by ブクログ
以前「名著講義」という著者の本を読み、その時に本書の存在を知って積読リストにいれていました。
著者が数学者としてはじめてアメリカの大学に赴任した1年を綴ったエッセイです。
1877年に発売された本ですから、時代を感じさせる箇所があるのは当たり前のはずなのに、古臭いと感じるところはほとんどありません。
日本から離れることによって芽生えた日本人としての気負いや孤独が赤裸々に綴られており、著者の感じたアメリカを私も肌で感じることが出来ました。
特に、その繊細な気持ちを風景で表現する様は真のロマンチストだと感じました。
(その表現力は生物学者の福岡伸一さんがよぎりました。お二人とも本業は物書きじゃないのに・・才能が溢れてる!)
但し、その豊かな感性はロマンチックで繊細なのに、それだけの人ではありません。
時に情熱に突き動かされ無茶で大胆な行動をとり、かと思うと自分を冷静に分析する能力にも優れ・・・本当に一言では表せない度量の大きさを感じました。
その上ユーモアのセンスも抜群で、本自体は読みやすく、とても楽しめました。
Posted by ブクログ
ずーっと前に読みたいと思いつつなかなか読めないでいた本をやっとw 数学者なのはわかっていたけど、どんな人?と思って調べたら、なんと!新田次郎、藤原てい夫妻の次男とな!知らんかった!!w あー、藤原かぁ~・・・って、有名な『流れる星は生きている』は読んでたけど、さすがにわからないって!ww
先日も「マナーの正体」を読んで面白かったので、流れで読めてよかったわー♪
ラストずいぶん哀愁ただよっちゃってますが、なかなかお上手で軽妙で、数学者という特殊な立場でのアメリカ滞在記として、面白く読めましたー。
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時は1970年代のアメリカ。
背景にある人種の寄せ集めの国家、宗教、ベトナム戦争。若さ溢れる数学家が異国の地で直感する当時のアメリカの様子が熱い文章からよく伝わってくる。滞在が長くなるにつれて凝り固まっていた日本人的戦後の劣等感が徐々に溶けてく様子も読んでいて面白い。
数学の先生がこんなに素敵な文章が書けてしまう事にオドロキ。
Posted by ブクログ
藤原教授が初めてアメリカの大学に招聘された時の生活を記したエッセイ。「日本人の」「数学者」から見たアメリカが鮮やかに描かれている。淡々として潔い文体は数学者だからこそなのかもしれない。40年以上前の話なので今では変わってしまっている状況もあるのかもしれないが、それでもああしたアメリカの大学事情やアメリカ人像を見ると何となく憧れを抱く。この人の文章は真面目な顔をしながらとても面白いことを言っている感じがして楽しいですね。
Posted by ブクログ
著者がアメリカの大学で研究員・助教授として体感した等身大のアメリカの大学が生き生きと書かれています。学問の最先端をいく超大国アメリカへ東洋の片田舎の日本から挑戦するという著者の気概が、微笑ましいです。また、数学の世界の厳しさもひしひしと感じられます。しかし、著者はユーモアを交えながら、丁寧に説明してくれています。読み終えた時には、議論の難しさから私達から遠いように感じてしまう数学という学問をちょっとかじってみたくなる本です。
Posted by ブクログ
「国家の品格」でも有名な筆者の初エッセイ(多分)。
アメリカが題材ということで読み始め。私はアメリカだろうが日本だろうが、「〇〇の国最高!」とかいう感覚はあまりもってないし、もちたくないから、この本の随所にチラチラ出てくる「アメリカじゃなくて日本が良い!」の感覚がちょっとダメで読み終えるのが遅くなった。でも最後に出てくる「アメリカ人という国民性がないのがアメリカ人の国民性」「アメリカに真の意味で溶け込むには日本人らしく振る舞うこと」などというところは面白く読んだ。
Posted by ブクログ
藤原正彦さんの作品は国家の品格に続き二作目。
基本的には著者のアメリカ滞在記なんだけど、数学者なのに内容が数学に偏ってなくてどちらかというと日常生活のアメリカ、アメリカ人に重点が置かれているところが面白い。
ちょっと古い本だけどすごく「あるある」的な感じで懐かしさに溢れながら読みました。
著者はおそらく天才の部類に入るんだろうけど色々苦労も絶えないんだなと感心したりも。
国家の品格と内容が少し重複してるのはご愛敬。
Posted by ブクログ
1970年代のアメリカ。豊かさを実感できた時代。アメリカが唯一の憧れであった時代。アメリカとイギリスが比較にされるが、アメリカでは目立つことが正義であり、のしあがって行く必要だってあるはず。それは当時も今も変わらない気がします。
今ほど格差のない時代。アメリカの高層ビル郡は、手を伸ばせば届く存在だったのかもしれないと思うと牧歌的なアメリカも悪くないです。
Posted by ブクログ
若かりし頃の藤原正彦の留学記。何を思い、何を感じたのかがつらつらと書かれている。今では大学の教授で何の悩みもないように思うが、彼の苦しみやホームシックも書かれており、我々と何も変わらない普通の人であると分かる。留学先のアメリカは、奔放で自由で豪快で、何の悩みもないように思う。しかし筆者は彼らと接しているうちに、彼等には帰るべき「故郷」がないと感じた。日本にいる間は分からなかったその土地の人柄を知れてよい本である。ちょっとした留学気分を味わいつつ。
Posted by ブクログ
著者が1970年代に過ごしたアメリカの大学講師時代を中心につづった随筆。
結構面白かったです。
話は古いし、読んでて気恥ずかしくなることもあるのだけれど、それでいて、今にも通じることがあったりとか。
中でも、アメリカ社会に馴染むというのは軽妙なジョークを飛ばし、滑らかな英語を話し、ということではなく、日本人としての特質をもったままに堂々と過ごす・・・みたいな話がなるほど・・・と思いました。