【感想・ネタバレ】知識創造経営のプリンシプル―賢慮資本主義の実践論のレビュー

あらすじ

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21世紀の知識社会を生き抜くマネジメントの叡智――
1990年代に野中郁次郎氏が提唱した「知識経営理論」は、日本企業の強みを経営資源としての「知識」にあることを喝破し、その概念は、日本発の経営理論として世界の経営学のみならず、ビジネス界に導入されるなど、多大な影響を与えた。
それから20年、当時は世界のお手本とされた日本企業は傾き始め、欧米の市場原理主義的な資本主義はリーマンショックによって挫折を余儀なくされた。
本書では、このような課題に取り組む経営学としての「知識経営理論」を今日の文脈に置き直し、経営学というジャンルを超えて多面的に分析し、実際の企業経営・働き方でも活用できるプリンシプル(原理・原則)にまで昇華させたものである。

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Posted by ブクログ

知を担ったナレッジワーカーが自在にネットワーク化して融合していく事が価値の創出にとって不可欠になる。

企業優位でもない、国家優位でもない、多層的なモデルで経営を考える事。社会とのかかわりでの企業のあり方を考える事。

サステナビリティ活動を贖罪的にとらえ、利益より優先されると考えるようなCSRに替わって、サステナビリティ自体を軸とする美徳の経営への変化が訪れている。そこで求められるのは、知識プロデューサーとして機能する社会的リーダーシップの発揮。

「宗教や政治信条、価値観の多様化する多元的社会では、市民の義務や社会の共通善とは何か、すなわち、より良い生き方とは何かを世界的視野で問い、公共の場で議論し、わかりあう事によって相互尊重が成り立ち、公正な社会が実現する。」マイケル・サンデル

リバタニアリズムからコミュニタリアニズム経営への転換。
リバタニアリズム:
・人間は他人の権利を侵害しない限り、自由という基本的権利を持つ。
・正義が善に先行する。善の価値判断をせず、万人に共通する正義を論理的で不変の命題として前提におく。

コミュニタリアニズム:
・人間は社会の一員として生まれ、生きる。
・善が正義に先行する。個別具体の状況の社会的関係性の中で、生き方(善の価値観と目的)を問う。

1990年から2010年にかけての日本経済、例えばGDPについて、1990年には米国の半分だったのが2010年には1/3に。中国は1990年には日本の1/6未満だったのが2010年には日本を追い越す。

可処分所得に占める貯蓄率も1992年には15%ほどだったのが2009年には3%にまで落ちている。

高度成長期の名残のような経済政策や経営戦略には限界が見えている。社員の豊かさや利益よりも売り上げの優先順位が高い。この転換には独自性と創造性、存在意義に基づく新たなイノベーションシナリオが不可欠。そしてその根底には共通善が必要。

身体性や場は、かつて物理学や数学が経済や経営に果たしたような役割を21世紀の経営に果たす。

戦略は大理石彫刻のようにフォーマルに論理分析によって精錬に刻まれて完成されるのではなく、ロクロの上で回る粘土細工のように、混沌とした対話や状況に応じて、アート的なプロセスを通じて生まれてくる。

いかなる仕事であっても存在理由がある。企業はその存在理由を見出し、組織や仕事の意味を再発見し続けなければならない。そうしなければ、人は自分のやる事に意味や価値を見出せない。

創造的経済とは、コンテンツやアイデア、経験を通じて創造性が人と人を結びつけ、コミュニティを回復させたりサステイナブルな社会を生み出したりする事。

知識創造経営が生態系(社会)を構成する主軸となるのは、社会的な存在目的。社会にとって我々は何の為に存在するのかを言い表すものであり、どの会社にも通ずるような言葉にとどまらない。自社なりの存在を深く問うもの。底流にあるのは、社会にとっての思惟、真善美など絶対価値の希求。決して手段にならない企業にとっての究極の志(目的)。

全世界の企業100社の研究開発費と業績を調査した結果、研究開発投資の増加が業績向上にはほとんど繋がっていない。

知識創造経営の基本は、エコシステム(社会)における発見と創造の過程にある。
現場の認識に基づく対話を通じた概念化、その概念の共有、具現化という実践。

知識創造企業は、あらゆるステークホルダーからなる生態系に自社が存在していると考える。

賢慮とは実践知、共通善を実践する思慮分別、実践的行動力の事を言う。

知識創造経営とは、個人が企業という場を媒介にしながら社会的存在として生きるような経営。

知識創造経営に関連する7要素
1.共通善に基づく存在目的、、、社会から見た存在理由は何か?
2.価値命題、、、提供する本質的価値は何か?
3.知識資産、、、基本的な価値を具現化する、提供する為の知識資産は何か?
4.場における対話と発見的実践過程、、、いかなる場によって知識創造がどのように行われているか、特徴的なプロセスは何か?
5. 事業当事者の関係性、、、自社は知識創造、顧客価値の提供の為にどのようなパートナーシップを企業、大学、NPOなどと形成しているか?
6.顧客、ステークホルダーとの関係構造、収益構造、、、自社はどのように知の生態系に関わっているか、どのような位置・役割を占めているか?それは将来どのような意味を持つか?どのようなビジネスモデルか?
7.賢慮のリーダーシップ、、、エコシステムをいかに自社と共通善の為に戦略的に認識し、能動的にデザインしていこうとするか?

利益だけを追い求めて持続しようとする企業は、世界の内にただなんとなく将来に期待しながら存在している。

賢慮のサイクル
1.善い目的を作る
2.場をタイムリーに作る
3.ありのままの現実を直観する
4.直感の本質を概念に変換する
5.概念を実現する
6.実践知を組織化する

イエズス会の司祭とカルヴァン派の牧師は重要な事を行うときには、期待する成果を書き留めておく事になっていた。そして9ヶ月後、実際の成果と比べ、何がよくできるか、何が強み、弱みかを知った。

組織の賢慮度調査
1.SECIプロセス
2.知識ビジョン、駆動目標
3.トップの賢慮度
4.組織の賢慮度
5.個人の賢慮度
6.場
7.知識資産
8.組織パフォーマンス
9.従業員満足度

19世紀文明は、バランスオブパワー、金本位制、自己調整的市場、自由主義国家の4要素で出来てきた。20世紀文明は、冷戦体制の終焉、ドル基軸の不安定化、市場主義経済の限界、民族主義、原理主義の台頭である。

フォーチュン500の内、日本企業は60数社を占めるが、その多くは1930年代創業。つまり、日本企業は第二次世界大戦以前の時代精神(エートス)がマジョリティを占める。

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2015年06月27日

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