【感想・ネタバレ】トヨタ対中国EV 熾烈な競争が最強メーカーを生むのレビュー

あらすじ

《クルマの知能化が競争の構図を変える》
▼世界の自動車産業を突き動かしてきた電動化と自動運転の大きなうねりは,環境規制の軌道修正と生成AIの登場によって,大きな節目を迎えた。米欧日の有力メーカーは,注力してきたEV投資の計画を大幅修正し,あるいは大規模なリストラを余儀なくされる一方で,競争の軸となるクルマの知能化へ対応を迫られている。
▼ゲームのルールが大きく変わるなか,中国市場の最強EVメーカー群と彼らを支える強力なエコシステムが台頭著しい。それは,中国のデジタル国家戦略と有機的に結合している。伝統的メーカーの盟主トヨタ自動車は異なるアプローチで挑み,ときに厳しく競い,ときに手を結ぶ。両者は未来の自動車市場をつかみとるべく,他を圧倒する。競争力を獲得した2強の挟撃を受け,多くの伝統的メーカーは急速に市場を侵食されつつある。
▼中国国内市場からグローバル市場へと競争のステージを移し始めた中国EVメーカー。東南アジアのみならず,日本への本格進出も始まった。はたしてトヨタと国内自動車産業に勝ち筋はあるのか──。
▼日本を代表する自動車アナリストが,分断の進む産業覇権を視野に,今後の自動車産業の構図を描く。

【目 次】
第1章 世界の自動車産業でいま何が起こっているのか
第2章 中国最強メーカーの実像
第3章 中国モビリティ戦略の本質
第4章 トヨタの内なる戦い
第5章 米国トランプ政権の自動車産業政策
第6章 中国世界侵攻の最前線
第7章 「油電同強」――トヨタの中国戦略
第8章 トヨタのSDVバリューチェーン戦略
第9章 国内自動車産業の命運

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Posted by ブクログ

ネタバレ

Pivotで取り上げられていたことをきっかけに興味を持ち、本書を手に取った。本書は、近年EV開発において急速な躍進を遂げる中国のSDV業界と、これまで自動車業界を牽引してきたトヨタの動向を分析・比較することで、今後の日本の自動車産業の方向性を考察する一冊であった。

本書では、そもそもEV開発は「車体プラットフォーム」「電子プラットフォーム」「アプリケーション」という三つの層を同時に議論しながら進める必要があると述べられている。その中で中国において大きな鍵となったのが生成AIの発達である。生成AIを活用することで、仮想空間上でデータを合成し、シミュレーションを反復することが可能となり、大規模なデータセットを効率的に構築できるようになった。これがSDV開発の高速化・効率化を支える要因となっていると指摘されていた。

SDV関連技術においては、中国が日本を先行している状況にあると言える。一方で、日本と中国の決定的な違いとして、本書では「標準化の考え方」が挙げられている。日本では市場競争の結果として事実上の業界標準が形成されるデファクト標準が重視されるのに対し、中国では国家や標準化機関が主導するデジュール標準が採用されている。そのため、日本が中国と同じ土俵で正面から競争するのではなく、中国のSDVエコシステムから有用な技術を選択的に取り入れつつ、中国の技術更新スピードに食らいつき、デファクト標準を強みとして日本独自のサプライチェーンを構築することが重要であると述べられていた。

本書で扱われているのは自動車産業であるが、生成AIの発達によって技術開発そのものが効率化するという戦略は、製薬業界など他の産業にも当てはまるのではないかと感じた。ただし、その際も各業界がデジュール標準を重視するのか、デファクト標準を重視するのかによって、アプローチや優先順位は大きく異なってくるのではないかとも考えさせられた。

本書を通じて私が学んだ点は、生成AIの発達は技術開発における一種の産業革命とも言えるものであり、今後さらなる効率化が進む可能性が高いという点、そしてグローバル競争の中で生き残るためには、国や地域ごとにデジュール標準とデファクト標準のいずれを採用しているのかを踏まえ、顧客重視なのか政策重視なのかといった優先順位を慎重に見極める必要があるという点である。今後、自身が仕事で携わる業界においても、今回得た視点を活かしながら成長していきたいと感じた。

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2025年12月18日

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