あらすじ
コロナ禍で移民たちが直面している困難は、日本人以上に深刻だ。雇用環境が元々脆弱な上、就職差別にも遭遇している。学びやつながりの困難を抱える人も多い。この状況下でなおも「社会の一員」の可能性を奪い、排除し続けることの意味を問う、画期的な試み。
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Posted by ブクログ
コロナ禍によってもっとも深刻な影響を受け、困窮に追いやられた社会集団のひとつが移民たちだ。しかしサブタイトルが示すように、本書が焦点を当てるのは移民たちではなく、日本社会の脆弱性である。
実際、活発な支えあい活動が示すように、実際には移民たちはコロナ下で大きな力を発揮していた。問題はむしろ、在留資格によって移民を細かく分断しながら市場に配置し、多くの国民に見えない「他者」として排除してきながら、危機時ともなれば民間の「善意に丸投げ」(183)している制度の側にある。
日系移民たちにとって、今回のコロナ禍はリーマンショックに次ぐ「2回目の危機」だという指摘にも、はっとさせられた。当時、移民たちの生活保障をすることなく帰国させた日本政府の対応は切り捨てとして批判されたが、その後、安倍政権時に政府は正面ドアからの労働者受け入れに舵を切った。にもかかわらず統合政策が欠けたままでここまで来たために、顔の見えない定住化という構造の拘束力は変わらないまま、コロナ禍において二度目の困窮化が起きているのだ。
このように本書では、日系、技能実習生、留学生、仮放免、子どもたちなど、移民たちの多様な状況をとりあげるだけでなく、他国におけるコロナと国境管理の実践にもも目を配りつつ、移民労働者の受け入れならびにセーフティネットの構築と社会統合について、三度目の危機を防ぐための長期的な政策改善策を提示している。
とりわけ重要な論考が、大川昭博氏の「セーフティネットの穴をいかに埋めるか」である。かつて移民の医療・福祉保障は「国籍」による排除を前提としていたが、1990年代および2001年の制度改正によって、在留資格にもとづくものへと移行。これにより非正規で住民票のない移民は、自治体における住民サービスから排除されることになった。これを大川氏は、最も保護を必要とする者ほどとりこぼされる「セーフティネットの逆転構造」と呼ぶが、大沢真理もジェンダーに関して同様の指摘を行っており、移民排除というだけにとどまらない、日本社会の根深い階層性を反映する問題というべきだろう。
是川夕氏は、パンデミックのために各国政府によって導入された入国制限にもかかわらず人の移動に大きな影響はない一方、世界的景気後退期においては移民の社会統合に悪影響が見られてきたこと、今後はより選別的な国境管理が志向されるであろうことを指摘している。まさに、景気が悪い時だけやりすごせばいいという考え方では、第三の危機は必ずやってくる。この社会に暮らす人すべての生存を保障するのでなく、国籍や人種による排除を前提に、役に立つ存在のみに選別的に社会保障を付与するシステムをこのまま改善しなければ、次の危機においてはいっそう多くの人々が排除を経験することになるのは間違いない。移民とは日本社会の脆弱性を映し明るみに出す鏡なのである。
Posted by ブクログ
色々な観点から、ポストコロナ時代における移民の現状を研究・分析し執筆されている。 日本国籍を持つ人も含め、コロナのパンデミックで苦しい思いをしているが、従来より苦しい思いをしていた移民はさらに追い討ちを掛けられている。 課題は山積であるが、何の権力も無い一市民の自分に何が出来るか地域の現状と動向を注視しながらやれる範囲で取り組んでいきたい。