【感想・ネタバレ】ショパン・コンクールよ、どこへいくのレビュー

あらすじ

現地取材を重ねた著者による最後のルポルタージュ! 2027年に創立100年を迎える「ショパン国際ピアノ・コンクール」。ライブ配信によって第19回大会も注目を集めた一方で、前例のない採点方式などが物議を醸した。さまざまな思惑がせめぎあうなか、若手ピアニストの登竜門はどこへ向かうのだろうか――。本書は、1位のエリック・ルーと2位のケヴィン・チェンの一騎打ち、4位の桑原志織、大躍進の中国人ピアニストなど直近大会の演奏を振り返るとともに、ショパン・コンクールの今後を占う。さらに、出場者のマネージャーらを取材。キャリアという視点で大会の価値を再考する。

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Posted by ブクログ

◼️ 青柳いづみこ
「ショパン・コンクールよ、どこへいく」

5年に1度、知名度と特殊性では世界最高峰のピアノコンクール。2025も楽しかった。そして1年後毎度の楽しみ。これで反芻する。

まずは著者に敬意を表します。私は2015年大会についての本を読んで興味がそそられ、同大会や2010年大会の動画を渉猟した。コロナで延期となった2021年、日本人の上位入賞と話題性で大いに盛り上がった回のレポートも、自分が感じたものを振り返り、隠れた多くの側面があることを教えてくれました。

ピアニストであり著述家である青柳さんはいつも技術的に、音楽的に、そしてショパンコンクールやコンテスタントたちに大なり小なり影響を与えているものに斬り込んでいる。そして、採点方式や、審査員、指導者、若い奏者について、真ん中本道、知りたいことについてすばらしいジャーナルをものしてくれる。表現の幅も引き出しも広く多く、読むのが楽しい、好きなジャンルだけに読み終わりたくない、と思う本だ。

今回も10章+前後複数の項で充実の内容となっている。ピリオド楽器、1810年から39年の生涯を送ったショパンが当時使っていたピアノでの演奏コンクールから始まり、まずは予備予選から本大会ファイナルまで全体のあらましを描いている。もちろんところどころ印象的な奏者やトピックに触れながら。

優勝のエリック・ルー、2位のケビン・チェン、5位のヴィンセント・オンを取り上げ、セミファイナル進出の牛田智大、ファイナリストの進藤実優、4位の桑原志織の演奏とエピソードに触れる。また、前回大会の優勝者ブルース・リウ、今大会の覇者エリック・ルーと2大会連続で1位を輩出しているダン・タイ・ソン門下について掘り下げる。

ゆめかとゆりあ、演奏の色合いの豊かさで反響のあった中川優芽花と15歳の本大会出場者、中島結里愛。NHKの特集番組でもスポットが当たった2人にも直接取材し章にまとめている。中島の天才的思考は興味深いし、中川への傾倒っぷりにはつい微笑んでしまう。私もコンクール後、リサイタルに行ってとても感化されたピアニストだ。

そして、YES/NO方式、つまりこの奏者を次のラウンドに進ませたいか、が中心であったという審査から、低い点、高い点を補正するルールが入り、それぞれのラウンドの点数を加算する累積採点方式、また公平性を追求する審査員、ケヴィン・ケナーについてそれぞれ1章を割いている。さらに複数の審査員への取材から、ショパンコンクールの審査基準の現在地、を探り、全体にどこか虚しさを漂わせている。あまりに違う個人の思い。

さて、本書でも取り上げられていること、2005年のブレハッチ、2010年のアブデーエワ、2015年のチョ・ソンジンというチャンピオンは、いずれも正統派な、気品のある、逆に言えばあまり演奏にクセのない、オーソドックスな弾き方だった。それが、2021年大会のファイナリストはいずれも個性的な弾き手となった。これは聴き比べると私みたいなシロートでも明確にわかる。ブルース・リウは細かく短い、速い音まで粒立ちが際立っていて、う、うまいな、と唸らせるばかりでなく、ダイナミックさも併せ持ち、かつ演奏そのものに艶がある。2位の2人、ガジェヴは哲学的、反田恭平はゴージャスでミスが少ない、3位のガルシア・ガルシアに至ってはとんでもなく緊張感のあるコンチェルトを披露するなど個性の塊だった。

果たしてショパンコンクールは今後どちらへ振れるのか。年配の審査員が伝統路線へ戻すのか、くだんのダン・タイ・ソンは比較的奏者の自由を認める指導者だという。さらに研究が進み、ショパンの、弟子への指導法などが明らかになるにつれ、これまで信じられていたショパン像とはちょっと違う様相がみえているようだ。また今回の採点方式では、例えばファイナル1位だったケビン・チェンの最終順位が2位だったように、累積で左右される部分が多く、補正により審査員の意見がダイレクトに届きにくくなったという声もあるし、なんだかなあ、とも思う。

今大会、私はルービンシュタインコンクールを視聴して、リサイタルを聴きに行ったケビン・チェンを応援していたが、個人的な感想では、正統派でテクニカルであり、まっすぐな演奏がやや四角四面気味で、実質マッチレースとなった相手のエリック・ルーを凌ぐものが出せなかったか、という感想だ。印象に残ったのはヴィンセント・オン、そしてセミファイナルには進めなかったものの、特別賞ともいうべきブコフスカ賞を受賞した山懸美季だった。24のプレリュードでは進藤実優の演奏に心が動き、桑原志織のゆるぎない演奏を生で聴きたくなり、リサイタルに行った。今大会も楽しむことが出来た。

さて、長くなったついでにあと2点。日本のクラシック業界ではコンクールはファイナルまで予選、という呼称を使うようだ。ファイナルは本選。違和感がある。予選は、いわゆる予備予選。秋は本大会なので、そこに予選、を使うのはおかしい。1次審査、1次ラウンドではいけないんだろうか。

それからよく言われる、音楽はコンクールで競争すべきものではない、という考え方について。私は聴く専なので、研ぎ澄まされた個性にいっぺんに触れられるコンクールは好きである。続けて聴くとピアニストの特徴やタイプがわかりやすいし、作曲家、演奏曲にも理解が深まると思っている。コンテスタントは大変だけども、今後も見て聴いていきたいと思っている。

これくらいで。じゅうぶんに充実した反芻が出来た。没頭できる読書だった。

これを最後と・・言わないでまた次回もぜひよろしくお願いします。

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2026年10月20日

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