【感想・ネタバレ】死の泉のレビュー

舞台は第二次世界大戦下のドイツ。ナチや人体実験、ゲーテの「ファウスト」、北欧神話をはじめ、芸術に狂う医者の倒錯的な愛、精神不安定となった母親の幻想的な悪夢、去勢された男性ソプラノ歌手(カストラート)の美声etc…、ありとあらゆる耽美要素でお腹いっぱいの一冊だ。
さらに本書がギュンター・フォン・フュルステンベルクなる劇中作家によって著され、野上晶という人物に翻訳されたというメタ構成になっている点も見所。これにより、最終的に物語中の人物関係は二転三転し、真実も嘘も曖昧となって、読者をさらなる悪夢へと突き落す。これぞ幻想小説の醍醐味!私は読後しばらく脳内麻薬の分泌が止まらなかった。
また、本書は1997年の「週刊文春ミステリー・ベスト10」の第1位、第32回吉川英治文学賞受賞などミステリーとしても極上。皆川博子の目くるめく幻想の世界をぜひご堪能あれ!

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Posted by ブクログ 2023年02月27日

読み手に委ねられる部分があるので好みが分かれそうだけど、個人的にはかなり好きだった。
虚構が入り混じっておぞましくも美しい。

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Posted by ブクログ 2023年02月06日

恍惚とした読書体験でした。
全編に漂う退廃的な雰囲気にうっとり。
この雰囲気が、合う合わないがありそうですし、
結末に解釈の余地が残るところも、好まない人はいるかと。
私は「いやー日本に皆川博子がいてよかった」と感じ入りました。
彼女の他の著作も、大切に読み進めたいです。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2021年11月28日

悲劇にしかならないことは最初からわかっていたので、重い話を読める時で良かった。
貫き通せる大人陣は本望だろう。巻き込まれた子どもたちがキツい。

そして、それらを全部崩壊させるラストだった。
これは、虚構の世界とラストのどちらにハマるかによって、読み方が変わる。前者ではフランツの愛憎、苦悩に揺さぶら...続きを読むれ、後者ではクラウスに振り回された。

どこからどこまで虚構なのか、事実か。
最終的にはクラウスがアメリカ(と大佐、これは偶然)を振り切り、城と2人のミヒャエルを手に入れるため、と解釈した。

この話はマルガレーテの手記(全て終わってから、錯乱してから書き直されているので、事実とは限らない)と夢想、フランツの復讐、クラウスの執念が複層になっている。

・マルガレーテが城に行ったのは雪が残る新緑の時期であり、これは戦後に行ったこととの混同。ギュンターと一緒にいたのは夏。
・マルガレーテと繋がることができるのは同系統である2人のミヒャエル。エーリヒは繋がれ、マルガレーテは時を止めた。
・エーリヒをクラウスが手に入れるにはフランツの復讐が必要。…このため、マルガレーテが呼んでてもギュンター=フランツ説は取れなかった。。。
・アリツェとレナはカメロットに安置されている(マルガレーテが錯乱した原因のひとつ)ので、リロ、アリツェ、顕微鏡を持って来るテオ(テオ自体はいたかも)は幻想。刑吏の酒場はあったかもしれない。フランツの死と共に彼らの世界も崩壊した。
・マルガレーテはギュンターをフランツと混同しているが、これはフランツが成長して自分を攫ってほしいという願望。同様に繋がることもすべて夢。
・城の中でマルガレーテはギュンターを認識している。これが正しい場合、ギュンターは城まで生存か。しかし、パンツァ以降のギュンターすべて創作の可能性もある。
・マルガレーテが夢の中で見つけたギュンターの墓、東部戦線で亡くなったのは兄あり、ギュンターは西部戦線に行っている。24歳戦死であれば終戦時。しかし、戦死してしまうと入れ替わりが成立しない。少なくとも戦死したのは兄だったことになっている。マルガレーテには戦死でも構わないか。
・クラウスはギュンターの城を手に入れ、ギュンターと入れ替わる(家族に、弟にする)手段をとった。クラウスの遺産もギュンターに引き継ぐ算段をこの時点でしていたか。
・フランツがクラウスの喉を裂いたのは、逆か。わざわざ喉。泣。
・あとがき手記。クラウスは子供に歌うように命じた。マルガレーテがミヒャエルを見知らぬ子供と認識していた訪問時、とも読めるが、城の中、と読んだ場合、クラウスギュンターが2人のミヒャエルに歌って、といい、クラウス(フランツ)が殺害されたシーンに繋がる。穿ち過ぎか。
・聖職者はクラウスとフランツ、繋がったレナとアリツェ、2人のミヒャエル、祖母が混在。
・ヘムルートたちの扱いが適当なのは作者がギュンターだからか…。

…と、諸々考えたものの、本当に捩れた空間をさまよう。

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Posted by ブクログ 2021年08月12日

第一部はマルガレーテ視点で書かれているが、
第二部は色んな人の視点が入り組んでて
現実と妄想が入り乱れる文章に振り回される。
ぜひ最後の『あとがきにかえて』まで読んでほしい
絶対もう一度最初から読み返したくなるので

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Posted by ブクログ 2021年07月17日

最後の最後まで翻弄されてしまった、なんという体験だろう。解説で北村薫さんが「皆川作品は皆川博子のもの、そこにわれわれ読者の喜びがある」という旨のことを仰っていたが、正しくそのとおり。
こんなに分厚いのに無駄な描写が何一つないのはもう、驚きを超えて恍惚のため息。

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Posted by ブクログ 2020年12月15日

「歌う城壁」の童話を起点に、正統アーリア人の子を養育する施設・生命の泉、ナチスの地下壕、不死の人体実験、ボーイソプラノを生涯維持する去勢手術等々書き並べると不安になる題材を、元SSの科学者の家族を中心とした物語としてまとめ上げた一冊。
読んでいる間中、ずっと靄に包まれた感覚に陥っていた。何が謎で何が...続きを読む真実なのか、作中で一応明らかにされる。
がしかし、この作品自体が真実なのかをわからなくする仕掛けが冒頭からあとがきに至るまでを貫いている。
お伽噺のはずの歌う城壁の下で十数人の命が現実に消える。
読後残るのは恐怖……。
楽しい小説ではない。
面白いと言っていいのかもわからない。そう言えば不謹慎になってしまいそうな。
けれど、先を読まずにはいられなかった。
須賀しのぶ著『神の棘』の感想で、同時代のナチスを題材にしたものとしてこの本の名前を挙げているのが目に付いて手に取った。内容は全然違うものの、そちらを読んでいたおかげで時代背景がよくわかり、より深く作品に没入できた。
話の面白さでは『神の棘』の方が、一口に言えない「凄さ」ではこちらの方が断然上かと。
敢えて言えば、背徳の面白さがある。
うん、結局面白いのかも。しかも、とても。

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購入済み

凄かった

2020年02月15日

虚構と現実の境い目が危うくなる。最後の最後で味わう幻想的な読了感。

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Posted by ブクログ 2016年11月16日

第二次大戦下のドイツ

マルガレーテ、 医師クラウス
フランツ、エーリヒ、そしてミヒャエル

難語チョコチョコ調べながら、皆川ワールドへ
長かったけど厚みのある文章の読後感が心地いい。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2016年07月13日

 ◆若干ネタバレあり◆

文庫本にして650ページ近い大作。

ナチス台頭するドイツにおけるマルガレーテの手記の部分と、それを受けた十五年後のドイツ。
手記においては、マルガレーテの微妙な心理が描き出される。
自分の産んだ子を守るために、医師クラウスと虚構に近い(マルガレーテは完璧な拒絶を持...続きを読むち切れない)夫婦になる。
カストラートの美に魅入られたせいで、SSでありながら「ポラッケ(ポーランド人)」のフランツとエーリヒを養子に入れる、なかば狂気に近いクラウスの情熱。
去勢や人体改造(レナとアリツェの双子)への抵抗を感じる正義感をときどき発揮しながらも、クラウスの強大な力には逆らえないマルガレーテ。
やがて、子供のフランツに対し、5歳のときに好きになった8歳の(そしてのちにミヒャエルの父となる)ギュンターの面影を見る…。
何かがどこかでねじまがってしまった虚構の「家族」が、第一部で描かれる。

十五年後の二部からは視点の統一がない。
壮年ギュンターの視点、クラウスと看護婦ブリギッテの息子である少年ゲルトの視点、ゲルトに同性愛を抱くヘルムートの視点、さらには「大佐」の視点に、狂したマルガレーテの視点、とごちゃごちゃに入り交ざる。

十五年の間に何が行われたのか、誰が加害者で誰が被害者なのか、マルガレーテの見る幻の正体は…、というのがミステリの部分。

どの人物も「核」を持っている。
正義感と自己愛に揺れるマルガレーテはもちろん、「卑小にして偉大な」クラウスさえも、深い闇をもった人物として、造型されている。
幼さゆえに虚構の家族に早くなじむエーリヒと、エーリヒを手なづけるための要素として養われているせいで、「父」に愛憎をもつフランツ。
兄弟はクラウスとマルガレーテへの復讐を糧に、生き延びる。
ゆがんだ教育を受けるミヒャエルを庇護したいギュンター。
全員が全員、物語を動かす原動力になっている。

そしてライトモチーフの巧妙さ、全体の構造の壮大さ、「あとがきにかえて」で覆される本自体。
どれをとっても一級。

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Posted by ブクログ 2015年11月03日

第二次大戦下のドイツ。
未婚で子供を生むためナチの施設に身をおくマルガレーテから話しは始まります。

戦争、ドイツ、ナチ、と聞けば悲惨な状況しか思いつきませんがこの話しではそこまで鮮明にナチに対して書かれている訳ではないです。戦争を経験したマルガレーテのお話しとして読んでいると、途中から急にミステリ...続きを読むー要素が出てきます。最後の最後までドキドキですが、やっぱり戦争の悲惨さも感じました。最後の『あとがきにかえて』もちゃんと読んで下さい!

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Posted by ブクログ 2014年09月27日

この耽美さは誰にも真似できない。40歳すぎてデビューして80超えても書いているって本当にすごい……。

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Posted by ブクログ 2014年09月19日

ふと立ち寄った古本屋で[そして夜は甦る]の初版本と共に購入した、苦手な皆川博子の作品。奥付が二つあるし落丁か?と思ったがそれが作品の重大な秘密とは!巨大な怪物フェンリルの北欧神話と白バラ抵抗運動の二つが、私生児を生むマルガレーテの手記と関係している。会議で議論の主題と直接関係のない自分の知識をひけら...続きを読むかす人がいるが、馴染みのない神話や史実が傑作を生んだのか巨大な流産か、全体の1/3が終った段階では判別出来ない。ヴェッセルマンは未だ普通の高飛車な医者だし。しかし相当に面白い。ドイツの風物描写が秀逸。

苦役列車の主人公よろしく14歳になった看護婦の息子ゲルトの独白から。親にも学にも職にも恵まれず自警団みたいな?ところで苛めにあってる。そしてギュンター、白バラの学生を裏切ったあの男。何食わぬ顔でヴェッセルマンと対面してるけど似非な家族と暮らすうちにマルガレーテは狂ってるし。ヴェッセルマンよりもゲルトを苛めるヘルムートや、ミヒャエルの本当の父親を知ってるエリーザベトの方が余程気持ち悪い。ちょいちょい挟まれるファウストに基づく歌と共にポーランド兄弟の復讐が始まるが、まだ僕は釈迦の掌で躍る孫悟空だ。

どこでメビウスの帯が交差したのか?奥付けが2つあるのはそういうことか。ドイツ語の枠構造またはアラビアンナイトの入れ子構造みたい。野上晶のあとがきがまず謎。あなた訳出したんでしょ?その人物が誰か分かる筈じゃない。最後に生き残ったのはあの2人でしょ?そしてあっちの2人はBLなの?もはや皆川博子のあとがきも作品の一部かと訝ってしまう。勝手に思い描いた人間関係は最終章で徹底的に崩され柔ちんだと思っていた人物が黒幕的な物語。北欧神話とゲーテ・ファウストとフェルメールの絵と白ばらと。

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Posted by ブクログ 2013年09月25日

皆川博子という作家は、私の中では長らく『トマト・ゲーム』『奪われた死の物語』『水底の祭り』『巫女の棲む家』の作者だった。
最初に手に入れた本は『トマト・ゲーム』で、この本はもうずっと書棚の一番いい位置にしまわれていた。
あの頃好きだった作家は他に、赤江瀑、森茉莉、澁澤龍彦。
私の本棚では「耽美(BL...続きを読むという意味じゃなく!)」派の、一種あやういゆらぎを見せてくれる作家さんという括りだった。

当時はPCなんて便利なものもなく、田舎の高校生には書籍目録というものからも縁遠く、好きな作家の本は文庫に書かれた既刊本を注文するか、いろんな書店を何度も回って偶然店頭に並んでいるのを見つけるぐらいしか方法がなかった。
そしてある日見つけた皆川本は時代物で、面白くはあったのだけど、一瞬で異世界に連れて行ってくれるという作品ではなかったように思えた。
その次も時代物。
だんだん皆川博子は書店をはしごしても見つけたい作家ではなくなって、『トマト・ゲーム』も『水底の祭り』も書棚の奥まった場所に移動されてしまった。

そして『死の泉』。
皆川作品から離れてもう何年もたって、手にした本。
何かひとつ欠けても失われてしまいそうな繊細な構築、根底を貫く美意識、そしてほの暗さ。
あの頃と同様に物語に没頭した。

もう何度も読み返しているけれど、美しさは褪せない。
死ぬまでにあとどのくらい、こんな美しい本に出合えるだろうな…

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2020年07月22日

第二次大戦下のドイツ。ギュンター・フォン・フュルステンベルクの子を身ごもったマルガレーテは、ナチの施設“生命の泉《レーベンスボルン》”に身を置く。不老不死の研究を行い芸術を偏愛する医師クラウスに求婚され承諾したマルガレーテは、彼の養子であるフランツとエーリヒそして産み落とした我が子・ミヒャエルと共に...続きを読む戦中の最中、豊かな生活を送りつづけていた。
だが、家政婦であり、昔の看護婦仲間であるモニカ・シュネーは、執拗にマルガレーテを脅迫する。戦火を逃れオーバーザルツベルグへ移り住んだ1945年春、事件は起った。しかし英ランカスター機の投下された爆弾はオーバーザルツベルグの全ての建物を壊滅、それは闇の彼方へ……。そして、15年の歳月が流れた――――――――。


最初、この本を手にして扉を開けた瞬間、確かに「おや?」と思った。その疑問を持ちつづけたまま、読み進めて行くこととなったが、それが後に、あんなトラップの布石だとは思いも寄らなかった……。
確かに、この本は“どんでん返し”があると聞いていた。従って、淡々と進む話をその最後の瞬間の数ページの為だけに読み進めていたと言っても過言ではない。
しかし、思いも寄らない趣向で「やられました」の一言に尽きる。今まで色々本を読んだが、こういう趣向ははじめての経験だ。以前読んだものの中で、宮部みゆき著の「火車」という作品があるが、これは読んでいて作者の意向が伝わったし、あえてこういう手段をとっているという事が読めた、だがこの作品に関しては全くそこまで読めなかった。完敗である。
物語は本当に淡々と進む。三部構成になっていて、“? 生命の泉”だけでは一体何を語ろうとするのかが読みきれない。“? ミュンヘン”で繋がりが明確になり、最終の“? 城”で一気に佳境へ突き進む。ただ悔やまれるのが狂気の医師であるクラウスの狂気さがあまり出ていない部分と、執拗に殺意を抱くフランツとエーリヒの動機面が弱く感じる。そしてミヒャエル。
特にミヒャエルに関しては意外とあっさりだったのが悔やまれる。あそこまで書ききってるのだから、読者としてはもう一捻りを求めてしまう。それは読み手側のエゴというものなのだろうか。
多分、これは読む人によって賛否両論あるだろう。そういう作品だ。だが、二重三重に絡めた謎、そして、650頁近くに及ぶこの大作が、最後のたった数行で読者を驚かす手腕は見事だ。と思わずにはいられない。

マルガレーテと一緒に並ぶあの足は一体誰のものなんでしょうねぇ……。うふv

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Posted by ブクログ 2024年04月22日


凄まじい作家的熱量を感じた。
本書は、作中に登場する人物が著した書物を、架空の翻訳者が訳したという体を取っている。まず意味が分からない。
舞台はWWⅡ下における独逸、狂疾的な医師を巡る危うい内容だが、情報が多く一口でまとめ切れない。
終盤にかけとっ散らかっている印象は拭えないが、約650Pの大ボリ...続きを読むュームで、作者の脳内の一片を感じれた気がする中々の読書体験が出来た。

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Posted by ブクログ 2023年02月26日

うわぁぁぁあ、やばい…600ページ超、ずっとゾクゾクしてた…最後の最後までどうなるのどうなるの?という感じで…

物語の構成自体も、ドイツ語原作を訳した、という形で、その構成自体とあとがきにかえてで明かされる真相がもうこわすぎる…

科学者が彼らの興味の赴くままに人の体を使って実験できる世界って怖い...続きを読むな。なに、2人の人間をくっつけるって…早熟させた女の子に子供産ませるって…ああこわい。

皆川ワールドあっぱれ、すごく怖かったです。

p.253 私のしたが、フランツの唇を割った。すぼめてら吸った。そのとき、わたしの舌が、フランツの唇を割った。舌の先が軽く触れ合った。口の中に、甘やかな感覚が広がった。わたしの舌は、もういちど、ゆっくり、フランツの口の中をさまよった。フランツは目を閉じ、首に回した両腕に力をこめ、わたしを引き寄せた。わたしは舌の罠から少年を解放し、頬と瞼にキスしたが、口の中に残るこの上なく甘い柔らかい感覚が、わたしの全身を浸し、酔いに誘った。

p.409 言葉を探しているギュンターに、ミヒャエルはさらに言った。「楽しいこと、面白い事は、書物で追体験する方が、現実に勝ります。苦痛だって、想像の中から、楽しみにすり替えることができる。ほんとの苦痛は体験したくない。そうでしょう?何しても、僕は、外は要らないんです」ミヒャエルの言う外に生きてきたギュンターとしては、相手の言葉を認める事は、自分の声の否定に他ならない。

「それでは、全く、生きているとは言えない」「だから、死人だって、認めています。でも、生者が死者に勝るとは言い切れないでしょう」「君は生きているんだから」「僕だって、不安や恐怖が全くないわけではありません。でも、どうしても避けられないことなら、積極的に受け入れてしまった方が楽です。それが自分にとっていいことなんだと認めたほうが」

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Posted by ブクログ 2023年01月13日

この長大な作品、最初何がテーマなのか分からなかった。ともかく作品全体に亘って薄気味悪いのだ。ナチスの断種政策、民族浄化が背景にあるからだろう。主人公の一人マルガレーテの視点で描かれた前半はわかり良かったが、彼女の元恋人ギュンターの視点で語られる後半となり、混乱気味となる。ミステリー色が次第に強くなっ...続きを読むてゆき、オーラスの謎解き部分では???の連続。これが皆川博子の真骨頂なのであろう。

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Posted by ブクログ 2018年01月14日

『「ドイツは豊かになった」ヴェッセルマンはつづけた。「だが、その代償に、内に向かう目をドイツ人は失った。人は、重く、下へと成長し、根を地底に広げ、大地の水を吸い、そして思考は鳥のようにはばたき光につつまれる。しかし、不安という糸が、鳥の脚を地上の風につなぐ。そのようにして、我々ドイツ人は思索のなかに...続きを読む生きてきた。」

「思索の結果が、戦争でしたよ。」』

ナチスドイツの思想とそれを体現したクラウスの狂気。妻となったマルガレーテの発狂。その狂気に育てられた子供たち、フランツ、エーリヒ、ミヒャエルそれぞれの悲劇。
緊張感の途切れない気持ちの悪い恐ろしい作品。

発狂したマルガレーテの手記がうまく使われて、本当は誰が誰なのか、、、。ミステリー要素も入って面白い作品!

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Posted by ブクログ 2016年11月27日

この本自体、著者の内側があり、訳者の外側があり、
その大きな外側で作者の枠組みがあり、
全てが誰かの創作なのだから
どんな仕掛けがあろうとも作者の用意した世界なのだけど
最後の最後に、それもあのような場を使い、
これまで読み進めて、没頭していた世界が
一瞬にしてグニャリとゆがんでしまい、
あらゆる人...続きを読む、モノが違った一面、解釈を見せ始め
不確実で幻想的な世界に入ってしまう。
何が、誰が、どの部分が物語上の真実で虚構なのか。
確実なのは美へのあくなき追及。
美のために差し出されるいけにえ、犠牲になるもの、
純粋で醜くもある欲望。
今まで見ていたはずの世界の真実とともに
張り巡らされた技巧を解き明かすよう、
最初から読み直さなければ、と思わされる。
これだけ厚いのに、振り出しに戻らさせる力が容赦ない。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2016年05月23日

『開かせていただき』から皆川文学にはまって第5弾目(笑)
幻想的で美しい世界観に引きずり込まれ自分的には結構早いペースで読んでしまったかな。
クラウス医師の美への執着、マルガレーテの狂った世界、兄弟の復讐劇に感情を翻弄されつつ読み終え、最後のあとがきで物語を覆す言葉が…。
始めに本を開いたときに野...続きを読む上晶訳とあったので嫌な予感はしていたけどね。
著者の語る「実在してる人物」「複数の特性をかねあわせて一人の人物」という言葉から、あの時あの人物は死んでしまったのではないか、あの二人は同一人物なのではないかと思考が完全に迷走してしまった。
何度読んでも分からないままになるかもしれないけど時間を少しあけて再読したいな。
謎は解けないままでも充分魅力的ですが。

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Posted by ブクログ 2015年07月02日

ナチスドイツの時代を舞台に描かれる超大作。海外文学の体裁がとられているけど、実際、読み応えも海外文学のそれ。でも、海外文学より国内文学の方に魅力を感じてしまう自分としては、これも完全には入れ込めなかったってのが本音。自分なりに分析してみると、やっぱりカタカナの人名がネックなのではないか、と。あと、地...続きを読む名がピンと来ないのも大きい。もちろん、海外にはこんな人名があるんだとか、あの国にはそんな場所があるんだとか、そういう意味での興味はあるけど、それでもやっぱり、骨肉となっている和名には及ばず。といいながら、これからも海外文学とか、ずっと読んでいくんだけど、きっと。

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Posted by ブクログ 2015年06月11日

 ミステリだし、という油断を全く許さない正統派の物語。
 嘆美だし、幻想的なのに骨太。どうしたらこんな話が書けるんだってなる。

 そして最終行までたっぷりと楽しませて頂いた。
 ありがとうございます。
 最初から読み直したい……! うわぁぁぁぁってなる。

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Posted by ブクログ 2014年01月06日

ナチスドイツの時代。貧しさのためにナチス側のある博士の妻になった娘の物語。何不自由ない生活の中で娘はかすかな幸せを得たかに見えたが、彼女と博士の養子の少年たちは博士のおぞましい研究の犠牲になっていく。そしてヒトラーの死後、少年たちの復讐が始まる。

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Posted by ブクログ 2013年07月05日

皆川博子が1997年に発表した小説。初めての皆川さんの本でした。今までに読もうと思った時期が何度かあったんですが、タイミングが合わず。しかし、今まで読んでいなかったのを後悔しました。第二次大戦下のナチスドイツで繰り広げられるミステリー…になるんだろうか。ナチス、人体実験、レーベンスボルン、カストラー...続きを読むトなどなど、なんて濃密で耽美なお話なんでしょう。後半、駆け足になってしまっている印象もありましたが、前半の戦時下の話はとても細かく描写され映画を観ているようでした。また、ラストのあとがきには一瞬騙されました。

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Posted by ブクログ 2013年06月24日

久しぶりに大作を読みました!!
途中途中意味不明なところもあったけど面白かったなぁ~

最後のエーリヒとミヒャエルの正体にはびっくりしました!!
フランツは結局、罪を自分の中に閉じ込めて許しを探していたんだね
そ~いやゲルトはどうなったんだろう?
萩尾望都先生に漫画化してもらいたい作品です

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Posted by ブクログ 2021年11月19日

前半は割と好き。差別や戦争、貧困から子供を守る母親の苦悩とたくましさを感じた。
後半(2部以降)は、結末ありきでムリヤリ話を動かしてる感じで納得度か低いというか...。登場人物もやたらと多くなりごちゃごちゃしてる。
最後は、実は○○でした的な展開だけど、伏線もないので驚きはない。
あとがきを読むと見...続きを読む方が変わるのだけど、これ必要だったかな、、、

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Posted by ブクログ 2020年08月06日

ツイッターでも、優れた日本人同士を結婚させることを国家事業とすべき、という意見を某氏が披露していて炎上していたときに、話題にした人がいましたが、ナチのレーベンスボルン(命の泉計画)がこの本の前半の背景。超人種アーリアというナチの妄想によるアーリア増産計画で、征服した各国から金髪碧眼の子供を略奪し施設...続きを読むに集められる。また、金髪碧眼の若い女性とSS兵士たちのあいだに子供をもうけさせ出産させるといった、ホロコーストの対称にある優生思想計画。ホロコーストに関しては周知だけれど、レーベンスボルンに関してわたしが知ったのはつい数年前、映画『誰でもない女』で、たぶんそれを知る日本人は少ないのでは。本国ドイツやヨーロッパではどうなんだろうか。ノルウェーではレーベンスボルン施設が10か所設置されてナチ党員とノルウェー女性とのあいだに生まれた子は12000人とwikiにはある。ホロコーストにくらべて大きな声で語られることが少ないとすれば、それは多く存在するであろう「当事者たち」つまり生存するその子どもたちに、配慮するためなのかなって思う。自分が、もしくは自分の親が、ほんとうの父親がナチだったということ以外誰だかわからないとか、母親がその計画に利用されナチ党員と性交渉をし自分が産まれたとか、そういう人がヨーロッパにたくさんいて、それを公表できずにいたり、自分でもそれを知らずにいたりするのかもしれないと、想像してみる。
で、レーベンスボルンのことをもう少し知りたくて、それを題材にした本書を読んでみた。レーベンスボルンは表向きは、子どもを安心して産み育てられる施設となっていて、そこで未婚のまま出産するマルガリーテが前半の主人公で、彼女の一人称で物語が進む。後半からは様相が変わり、語り手も変化していく。ジャンルとしてはミステリーになるんでしょうか。作者皆川博子さんは初読ですが、知識豊富でびっくり。まるでドイツ人が書いているみたい。っていうか、そういう手法が取られていてそれはそれであとがき含めて工夫が凝らしてあるのだけれど。ナチがおこなっていた人体実験などの科学の知識を戦後アメリカがソ連に奪われないように秘密裏にSSの科学者たちをアメリカに招聘していたとか、ドイツ、ポーランド、オーストリアに続く土地の地下に広大な岩塩屈が存在し、かつてそこで強制労働させられていた囚人たちが地上を懐かしんで地下都市を岩塩で彫刻した跡が今でも残っているとか、知らなかったことを知れてよかった。物語としては、ちょっと少女漫画チックというか、こういう題材をこういうエンタテイメントにしてしまっていいのか、という、読んでいて罪悪感が残るというか、微妙でした。お話しそのものも、あまり面白くなくて、さいごの方は「誰が誰でもあまり興味ない。早く終われ」となってしまった。

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Posted by ブクログ 2018年07月08日

不思議な話。不気味で不穏な不協和音を聞いているような感じもするし、壮大な音楽を聴いてるような感じもする。狂った時代の犠牲になった人たちを想う。

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Posted by ブクログ 2017年07月03日

ナチスドイツというのはともかく小説の題材になるネタが豊富なのか、やたらと色んな人が話を作っていて、なんか良く分からんけどえらい耳年増になってる気がする。でもなんでナチスがあれだけ熱狂的に受け入れられたのか、ってのが、これだけ小説が書かれる、ってのにも繋がるんかな。ムッソリーニとかカストロじゃダメなん...続きを読むだろうしな。
それはさておき悪い奴の話である。なんでこう悪い上に頭おかしいのにうまくやるんだろうね。こういう本を読めば皆さんきっと真面目に働くより頭おかしくなった方が良いや、ってきっと思うよね。いや、思わないかな。にしても去勢が男性の与える恐怖心はスゴイ。

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Posted by ブクログ 2017年08月15日

 次第に崩壊していくナチスドイツと、それに歩調を合わせるように次第に退廃的になっていく登場人物たちの人間模様が、ある種の陶酔感を残す魅力的な作品でした。
 
 ただラストに近づくにつれて、ストーリーが一気に進むが、スピード感が増すというより、文章が粗くなった。

 非常に惜しい気がする。

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Posted by ブクログ 2021年02月20日

コワイ話を書く作家だと思って読み始めたのに、なんだ〜、ナチスの時代を書いた時代小説だと思ったら、じわじわと怖さが増してきた。
ナチスに限らず、軍部は存在自体でホラーなのかもしれない。

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