【感想・ネタバレ】生きとし生ける音【電子特典付き】のレビュー

あらすじ

漫才やコントで唯一無二の世界観を作り出してきた
人気お笑い芸人、男性ブランコ・平井まさあきが初の小説の執筆に挑戦!

「そよそよ」や「こぽこぽ」、「ほろっ」など『音』を表現する言葉「オノマトペ(擬態語・擬声語)」をテーマに書かれた短編小説集。
平井まさあきが贈る、優しさと驚きに満ちた13編の物語。

突如主人公の部屋に現れたバスケットボールサイズの黒い球体。空間に浮き上がった不思議なその物体は、よく観察してみるとそよそよと“吸引”をし続けていて――。(「そよそよ」より)
大きな空のキャンバスに夜空を描く仕事をする「夜塗師(やとし)」。彼は、誰にも知られず、同じ夜を20年以上描き続けていた。ある日、父を亡くしたばかりの気の強い少女と出会い、お互いの孤独を癒していく。その先に見えた景色とは。(「ツー」より)

※電子書籍特典として著者の直筆メッセージ画像を収録しています。

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Posted by ブクログ

2026年トップ5に入る読書体験でした。何らかの賞を獲って欲しいです。

"自分の人生の主人公は自分自身なのさ、と宣う人がいる。確かに誰だって、自分の人生を生きることしかできないわけなのだが、たとえそれが自分の人生だったとしても、主人公だと思えない人間だっていることを理解してもらいたい。"

"ねえ、こんな小さな物語を何度も何度も繰り返し繰り返し見てきたよね。何度も何度も繰り返し繰り返し見てきたけど、いつもどこか少し違ってて、違ってるからおもしろくて、おもしろいから、見つめ続けてきたんだよね。
大丈夫、何も心配いらないよ。"


平井さんはなんてお優しい方なのでしょう。
読み終わった時にそんな感想を抱く短編集でした。芸人さんの本を読んでうるうる涙がにじむことはありましたが、気がつけば目から涙をこぼしていたという経験は初めてでした。

もう第何弾になるんでしょう?芸人さんの本を読もうシリーズ、今回はM-1グランプリ2022の「音符運び」の漫才からファンになった男性ブランコのネタ執筆担当、平井まさあきさんの短編小説集を読みました。とてもとても良かったです。短編集を読みたいと思っている方は読んでほしいです。お笑いに詳しくなくとも大丈夫です。

この本を読む前に平井さんの2期先輩であるロングコートダディ堂前さんのエッセイを読んでいたので、比較ができて面白かったです。そもそも堂前さんと平井さんはとても仲良し。年下の先輩と年上の後輩として一緒にお仕事もなさりますしお散歩にも行きますし堂前さんの猫ちゃんたちを共に愛でることもあります。
何かと共通点の多い堂前さんと平井さん。そのうちのひとつが「小林賢太郎さんの影響を受けた芸人さんである」という点です。ですが、ロングコートダディと男性ブランコのネタを比較するたびに、かなり作品の作り方が違う二人なのでは?と予想しておりました。平井さんの小説を読んでその気持ちが確信に変わりました。
にっきにき日記の感想の中で私は「堂前さんは8割の発想を2割の計画力で緻密に計算してネタや文章を書く方」と書きましたが、平井さんはこの配分が逆なような気がしています。
2割の発想を8割の計画力で緻密に計算してネタや文章を書き、そしてそこにあふれるほどの優しさを詰めることができるのが平井さんだと思いました。
たぶん、より小林賢太郎さんの創作技法に近い技法を使っているのは平井さんの方です。計画力の鬼。堂前さんが天才ならば平井さんが奇才と言われている意味が分かりました。
堂前さんは「にっきにき日記」を日記と言い、平井さんは「生きとし生ける音」を小説と言う。この比較も面白かったです。

さて今作。最初の短編から「平井さんは死を思ったことのある方だ」という気持ちが湧いてきます。どうしようもなく死について考えてしまう時が人間にはあります。でもどこかに生きるヒントがあって、それは突然目の前に現れてくれます。どうしようもなく後悔して、どうしようもなく恥ずかしくなって、どうしようもなく消えたくなってしまう時があるけれども、それでもあなたはそこに存在して構わないというお話が詰まっていました。
自分ではない何かになりたいと思ったって良いし、自分ではない何かになったって良いよという特大の肯定感に満ちた本でした。

一番好きな短編は「しょきしょき」です。まさか涙を流すとは思いませんでした。あんまりにも平井さんの文章が優しさにあふれているので涙が出ました。「しょきしょき」に出て来る音楽隊の皆さんは全員浦井さんの演技で脳内再生されました。
芸人さんが書く小説なので、当然くすっと笑える要素がたくさんあります。そして標題の通り、平井さんにしか扱うことのできないオノマトペがちりばめられています。
オノマトペって使うことが本当に難しいもので、相当の意味を持たせるか、ゼロから生み出すかしないと文章の中でも詩歌の中でも活かすことができないと考えています。そんなハードルと悠々と飛び越えていく平井さんのオノマトペたち。男性ブランコのネタに活かされているオノマトペたちを思いました。

本書と関係ないんですけれど、私2026年になって初めて芸人さんの単独公演に行ってきまして。それが男性ブランコ「ねんぽぽ」でした。そこでも感じた平井さんの人間へのまなざしの優しさを沢山受け取れる短編集です。
「ねんぽぽ」やYouTubeに上がっている「だえーん」のネタを見ても思うのですが、平井さんは死生観に真摯に向き合っている方でして。生きていくこと、やがては亡くなること。その間にかけがえのない愛おしい瞬間がいくつもあること。その愛おしい瞬間を閉じ込めておける才能の持ち主だと思いました。
男性ブランコ公式YouTubeに上がっている「だえーん」という40分越えのコント、これは単独公演の表題作にもなっているのですが是非見てほしいです。大切な人を亡くしたことのある方は皆様見てほしいです。
そして、そこであふれるほどの優しさを感じ取ることができたら是非この本をお手に取ってください。

やっぱりこの平井まさあきさんという芸人さんのファンでも居続けるのだと思います。何度も読み返す短編集だと思いました。

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2026年08月13日

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