あらすじ
「“血の繋がりはなくても、心から心配し手を差し伸べてくれる人間やペットも家族と呼んでいい時代なのではないか”そんな思いで書いた物語」という『どれか一つは嘘』は、キム・エランにとって13年ぶりの長編小説だ。本作は、自己紹介ゲーム“どれか一つは嘘”を軸に、友情・嘘・罪・絵をテーマに展開される。
最近母親を亡くし、ペットのトカゲだけが自分に残された家族だと思っているジウ、ある理由から人が近づいてこないように絵を描き続けているソリ、「夫を刺した容疑」で母親が収監中のチェウン。三人の高校二年生が、それぞれがついた一つの嘘により互いを意識し、次第に関係を深めていく中で、家族との間に生じた悲劇を克服していく成長物語である。
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Posted by ブクログ
全24章からなる本作はクラスメイトのジウ、ソリ、チェウンで各章、視点人物が切替わりながらストーリーが進む。
三人の主要登場人物の中でも主人公のアカメカブトトカゲのヨンシクを飼うジウは漫画投稿サイトに「ヨンシク日記」を描き投稿している。ジウはひとり親の母が亡くなったため、その恋人だったソノおじさんと暮らしており、ソノおじさんはジウを気にかけてくれているが、冬休みに住込み型の工事現場で働きお金を貯めてヨンシクと一緒に家を出ようとする。
足を怪我してサッカーを辞めた転校生のチェウンは家族の中で起きた事件で心を悩ませている。そんなチェウンが飼っているムンチという名のゴールデンレトリバーもジウにとってのヨンシク同様に大事な家族として描かれている。
本作は登場人物に血の繋がりのない人間や動物が心の支えになったり、血の繋がりがある父親、母親が負担になっていたり、嫌悪している姿が描かれていることが特徴で、家庭環境に縛られ自由な生き方を選べない未成年に対し、筆者の優しく励ますようなまなざしを感じる。
タイトルにもなっている“嘘”は本作の大事な要素でストーリーを動かす時に随所で効果的に用いられている。個人的には最後のソノおじさんがジウの母の死についてジウに話したこともジウを思っての優しい嘘なんじゃないかと思う。そして筆者も辛く悲しいことに向き合う読者に対して小説という優しい嘘でそっと勇気づけようとしているように思える。ジウが物語は終わりがあるから好きと言うけど、本作にはつらく悲しいことも終わりがあり、その終わりが別の物語の始まりになり、希望と言うには頼りないけど未来があるというメッセージがあるように思った。
ジウの名前の由来の「消す」という意味は空間を作ることであり、その出来た空間をチェウンの名前の由来の「空間を埋める」という言葉に繋がっているように思う。それをソリの名前の由来である「手」でその喪失を埋めることが出来る、それが絵であり、言葉であり、物語なのだろう。