【感想・ネタバレ】旅から生まれた名画のレビュー

あらすじ

なぜ「旅」は、かくも多くの名画を生んだのか。
「怖い絵」シリーズで知られる中野京子が、画家の視点が変わった〈運命の瞬間〉を、「旅」という切り口から読み解く。

もし、その一歩がなかったら、あの名画はこの世に存在しなかったかもしれない。
本書は、宗教画から近代絵画、異文化交流の痕跡までをたどりながら、旅が画家にもたらした変化と、その結晶としての名画の背景をひもとく一冊である。
旅とは単なる距離の移動ではなく、世界の見え方が更新される体験であり、心の揺らぎそのものだ。
中野京子が、旅する画家たちの光と影、希望と不安を、「時間」と「記憶」という視点から丹念にすくい上げていく。

【内容】
星に導かれ、遥かな地を目指す〈東方の三博士〉。
肉体を離れ、感情や記憶が進んでいく〈心の旅〉。
空を渡る影に祈りを託す〈子供の旅〉。
恋に揺れ、人生を揺さぶられる〈恋の旅〉。
祈りと信仰が折り重なる〈巡礼の旅〉。
異国の絵画にひそむ和の気配――静寂の中で時を超える〈日本製品の旅〉。

このほか、森の中、強いられた旅、冬の旅、船旅、巡業、遍歴の騎士たちなど、時代と地域を越える〈旅〉をテーマにした全20編を収録。
恋や信仰、孤独、そして文明へ――旅はやがて、絵画の世界そのものを変えていった。

【本書に登場する主な画家】
ティソ、リヴィエール、リッピンギル、ゴヤ、ブリューゲル、ティツィアーノ、カーガー、ホイッスラー、サージェント、ドガ、ランドシーア、ターナー、ヴァスネツォフ、モロー、そしてホッパー。
時代と地域を越えて描かれる名画の数々から、移動の先で芽生えた視点の変化と、その静かな余韻をたどる。

【こんな方におすすめ】
旅が好きな人に。
名画の見方を変えたい人に。
一枚の絵の奥にある「時間」と「記憶」を知りたいすべての人へ

【著者プロフィール】
中野京子 なかのきょうこ
北海道生まれ。作家・ドイツ文学者。西洋の歴史・芸術に関する広範な知識をもとに、歴史や名画の解説書、エッセイを数多く執筆。2007年に上梓した『怖い絵』シリーズが好評を博し、17年に『怖い絵』展、22年には『星と怖い神話 怖い絵×プラネタリウム』を監修。著作は、人気シリーズ『名画で読み解く 12の物語』『名画の謎』『美貌のひと』のほか、『名画の中で働く人々――「仕事」で学ぶ西洋史』『西洋絵画のお約束』など多数。

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Posted by ブクログ

2200円

★再読

西洋美術はモチーフで生涯で頭蓋骨をモチーフにしたことがないアーティストが少ないのではないかと思うぐらい、頭蓋骨がめちゃくちゃ多いんだけど、日本美術ではまず見ない。それは火葬だからというのもあるけど、日本の土質が酸性だから、骨をそのまま放置しようとしても溶けちゃうかららしい。

中野 京子
(なかの きょうこ、生年不詳)は、日本の作家[1]、ドイツ文学者[2]、西洋文化史家、翻訳家[3]。北海道生まれ[4]。1979年、早稲田大学大学院修士課程修了[5][6]。オペラ、美術などについて多くのエッセイを執筆する。2007年に発表された『怖い絵』を端緒とする『怖い絵』シリーズが大ヒットとなる。新聞や雑誌に連載をもつほか、テレビの美術番組にも出演する[7][8]。早稲田大学講師[9][10]。『怖い絵』シリーズの刊行10周年を記念して2017年に開催された「怖い絵」展では、特別監修を務めた[11][12][13]。2021年9月に開催された「怖いクラシックコンサート」(東京文化会館)での解説[14]、2022年3月公演の舞台「怖い絵」の監修[15][16]、同年7月上映の「星と怖い神話 怖い絵×プラネタリウム」の監修・解説を担当した[17][18]。

「そのうえ森には狼がいる。当時のヨーロッパ人がどんなに狼を恐れていたかは、「ペスト、狼、オスマントルコ」(日本で言えば「地震、雷、火事、親父」に相当)という言葉が残されていることからも明らかだ。ヘンゼルたちもフクロウの鳴き声などに混じって、狼の遠吠えを聞いていたかもしれない。  森には人骨も無数にあった。その多くは、どうしても森を抜けなければならなかった旅人たちの、何世紀にもわたる死の積み重ねだ。それを免れたヘンゼルとグレーテルの奮闘は、口から口へ伝えられ、グリムの童話集に収められることとなった。  森は人類最初の神殿と言われる。古代人にとって森は恵みを与えてくれると同時に、畏怖の対象でもあったからだ。御神木信仰は日本にもあるので理解しやすい。  また深層心理学的には、森は女性的なるものの象徴とされる。特に若い男にとっての女は森のように不気味で不可解で魅力的で、探索すべき対象だという。残念ながら探索に遭難や事故はつきものだが。  世界中の神話に、森に棲む不思議な女性的なるものがよくでてくる。ギリシャ神話における英雄中の英雄ヘラクレスがなぜアルゴ探検隊から脱落したか、というエピソードもその一つだ。」

—『旅から生まれた名画 (集英社学芸単行本)』中野京子著

「 リュミネは新文明に懐疑的だったのではないか。  馬と蒸気機関車の関係ばかりではない。本作が生まれた十九世紀後半は、絵画にも革命が生まれていた。画面から物語も意味も排した印象派の登場だ。公共美術館の誕生で、絵画は知的エリートのものではなくなり、歴史画は老いた馬のように思われ始めていた。  リュミネが正統的アカデミック絵画を馬に、人気の印象派を蒸気機関車に重ねていたかどうかはわからない。しかし失われてゆくものへの哀惜は間違いなくあっただろう。いつの世にも、新しすぎるものへ警戒感を抱く者は一定数いる。」

—『旅から生まれた名画 (集英社学芸単行本)』中野京子著

「中原中也の『サーカス』という有名な詩がある。「幾時代かがありまして」で始まり、中盤は――サーカス小屋は高い梁そこに一つのブランコだ  見えるともないブランコだ  そしてブランコの揺れる様が、実に個性的な表現でくり返される、「ゆあーんゆよーんゆやゆよん」「ゆあーんゆよーんゆやゆよん」と。  この表現によって、サーカス小屋のはるか高みに揺れる空中ブランコが、公園のありふれた遊具のブランコとは似て非なるものだということがはっきり伝わる。人の命を弄ぶように揺れる空中ブランコ。それを見上げる観客は、乗り手の無事を祈ってハラハラする一方で、もしかすると落ちるかもしれないという自覚せぬ黒い期待をも込めて目を輝かせる。  空中ブランコがほぼ現在の形に定着したのは、十九世紀半ばからと言われる。かつてのパフォーマーは世襲が多かったようだが、人気を高めるためできるだけ若い美男美女が選ばれるようになっていた。モーリス・ユトリロの母シュザンヌ・ヴァラドンも、画家になる前にはモデル業、その前にはブランコ乗りをしていたという(拙著『画家とモデル』新潮文庫参照)。」

—『旅から生まれた名画 (集英社学芸単行本)』中野京子著

「まずは神話時代。  ブドウと酒と陶酔の神バッカス( =ディオニュソス)は旅が人生だった。  彼は主神ゼウスと人間の女セメレの間の子だが、母は子を妊んだまま死んでしまう。そこで父が彼女の腹から胎児を取り出し、月が満ちるまで自分の太腿に埋め込んで育てた。つまりバッカスは、ゼウスの太腿からオギャアと生まれ出たのだ(今や人工子宮は理論上可能な技術だ。神話というのは突拍子もないように見えて、現代医学を先取りしたかと思うような怖さを秘めている)。  ヴィーナスと同じで、バッカスも子供時代のエピソードはない。ヴィーナスが完璧な八頭身美女として世にあらわれたように、バッカスも嬰児のエピソードをのぞけば、初登場の段階ですでにほろ酔い状態の若者だった。何しろ彼は、ギリシャ、トルコ、エジプト、シリアなど広範囲を自分の信者たちといっしょに旅しながら、各地でブドウの栽培法とワインの醸造法を教えてまわり、教えながら飲みまくっていたのだ。  とはいえ、一瞬、酔いの醒めた瞬間もあったことを、ヴェネチア派最大の画家ティツィアーノ・ヴェチェッリオ( 1490頃 ~ 1576)が、『バッカスとアリアドネ』に描いている。」

—『旅から生まれた名画 (集英社学芸単行本)』中野京子著

「魔女はどうか?  魔女には翼など不要で、箒があればよい。箒にまたがって夜の空を飛ぶ魔女のイメージは、箒など使ったことのない現代の若者の目にも、しっかり焼き付いているはずだ。それほどにも魔女と箒の定着度は高い。  箒には魔力があると、古くから信じられていた。一説によると古代ギリシャの数学者ピタゴラスも、少女が箒をまたぐことを禁じている。これは箒の魔力に加えてその形体から男根を重ね合わせ、少女が箒をまたげば妻になる前に母になってしまう、との諫めだという。  また箒の先は、かつて木の枝を束ねて作られていたが、その束ねた先から生命力があふれ出ると信じられていた。さらにその力は、不作と飢餓に直結する恐ろしい荒天を追い払うほど強いとされたのだが、魔女と箒がセットになると、逆に魔女が荒天を呼び起こすと言われるようになり、長期にわたる悪夢のような「魔女狩り」「魔女裁判」へと捻じ曲げられていったのは周知のとおりだ。」

—『旅から生まれた名画 (集英社学芸単行本)』中野京子著

「これは「イワン・ツァレーヴィチと火の鳥と灰色オオカミ」という民間伝承がもとになっている。イワンはイヴァンとも表記されるロシアの典型的男性名(日本なら太郎、ドイツならハンスのような)。またツァレーヴィチは姓ではなく、「ツァーリ(ロシア皇帝)の息子」という称号だ。  ロシア文学やロシアの政治家の演説と同じで、民間伝承のストーリーも長い。「イワン・ツァレーヴィチと火の鳥と灰色オオカミ」(タイトルも長い!)の粗筋をざっとまとめると――」

—『旅から生まれた名画 (集英社学芸単行本)』中野京子著

「ここではフランス象徴派ギュスターヴ・モロー( 1826 ~ 1898)の作品を見てみよう。縦長画面の中に、伝説の要素が全て含まれている、と言いたいところだが、カルパッチョ作品などに見られる、他の犠牲者たちの白骨の残骸は見当たらない。  とはいえ、それは些末なことで、モローのゲオルギウスと馬は凜々しく美しい。色彩も考え抜かれている。ゲオルギウスの頭部に輝く金色の光輪、黒い甲冑、対照的な白馬、そして翻る布はピンクがかった赤で、長槍は真っ赤だ。その穂先は、今しもドラゴンの胸を貫き、口から血を流させている。ドラゴンの醜悪さも申し分ない。  背景に高い岩山が連なり、右側の崖には生贄の王女が座って手を合わせている。伝承においてもそうであったように、ここでも彼女の存在感は壁紙のように薄い。  ゲオルギウスのイメージが定着すると、肖像画にこの英雄を重ね合わせることで、その人物に実際以上の魅力をまとわせることが可能になった。」

—『旅から生まれた名画 (集英社学芸単行本)』中野京子著

「クラナッハ作品は一見ヘタウマだが、聖人伝承を過不足なく伝えている。まずクリストフォロスがサルタヒコノオオカミと同様、桁外れの巨軀であったこと、にもかかわらず、今や肩に載せた小さな幼児が重くて辛くなり、太い杖で必死に身を支えていることがわかる。幼児の頭部には光輪が輝き、画面左には隠者が描かれている。  では前景で泳いでいる人魚は?  これは、人魚の棲むような危険な川だということを、知らしめているのだ。クリストフォロスだから水位は膝下までしかないが、並みの人間ならたちまち溺れるほど深く、しかも急流だということを。  また後景には木が一本だけ真っ直ぐに立っており、クリストフォロスの杖の未来の姿とわかる。前景左の木株には、クラナッハのサイン(翼の生えた蛇)も記されている。」

—『旅から生まれた名画 (集英社学芸単行本)』中野京子著

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2026年08月04日

Posted by ブクログ

鶴の飛翔を仲間から1人外れて眺める少年。いつかこの場所を抜け出せる日を願って。…公園を歩くカップル。幸せな日々の13年後に大戦が起きる。2人はどんな運命を辿ったであろうか。…零度を下回らないベツレヘムに雪を降らせ、イエス誕生時の風景を描く。他国に占領されたフランドルの過酷な現実に思いを寄せて。…子供の旅、恋の旅、冬の旅。騎士がいて、巡業して、日本製品を持ち帰る。翼をつけ、箒に跨り、絨毯に乗る、空の旅。馬車と船に蒸気機関車。旅を起点に絵画を巡る。始まって、途上があり、終わりが来る。時空を超える読書を楽しむ。

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2026年07月14日

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