あらすじ
過酷な労働と理不尽な暴力が支配する流刑地ブル島に一〇年あまりつながれた作家は、参照すべき資料もなく、渾身の歴史小説を書き上げた。プラムディヤの世界的な評価を決定づけた『人間の大地』四部作である。それはどのように書かれ、どのように島から持ち出されたのか。独裁政権によるたび重なる発禁を受けながら、小説は、どのように読まれ、国境を越え、いかにして世界文学となったのか。政治権力とのあやうい緊張に身をさらしながら、ペンを武器として闘い抜いた作家の姿を描く。
プラムディヤが流刑先であの大河小説「ブル島四部作」を書いたという伝説がある。
その詳細をこの本で知ることができた。やはり偉大な人物であったと感動する。
それと同時に、本国にもまだない細密な伝記が日本人の手で書かれたことにも感動する。池澤夏樹(帯より)
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Posted by ブクログ
(上)を読んだ後、一呼吸入れて読んだのが良かった。内容や表現の問題ではなく、長編の大作で作者が紡ぐ濃密な記述のボリュームに一瞬も気を抜けず、緊張を保つためにも間の休憩が有効であった。
初めて知るインドネシアの近現代史も鮮烈だった。
プラムディア40〜54歳の代表作、ブル島流刑中の「4部作」を書き上げる過程がこの作品最大のヤマ場である。禁止されるなか仲間と一緒にあらゆる工夫をして創作する、その姿が克明に描写される。
その前、イスラム教徒ハムカの剽窃問題を共産党の文学団体レクラと一緒に激しく非難し、彼を最初に評価し世に出した親友H・B・ヤシンとの関係も最悪になる。
さらにレクラの「文学は政治に従う・政治は司令塔」路線に同調し「文化宣言」を発表したリベラルの反スカルノ派文化人たちを激しく執拗に非難し続けた。
そのことが後々彼の評価を大きく分けることになる。
植民地時代・日本軍占領時代、自由を求めて戦った彼が体制のお先棒を担ぐような行動に、非常な違和感を感じるところである。
プラムディア本人は後で「あれは自由な議論だった、彼らも反論すればよかったのだ」と言うが、その強弁には無理がある。
1960年「9月30日事件」を境に実権がスカルノからスハルトに替わる。プラムディアは弾圧される側になり、’65年40歳で軍部に拘束され、79年に釈放されるまで10年以上ブル島に幽閉される。
協力者の助けで当局に隠れて小説を書く。
釈放後、出版・評論活動に没頭。
’99年74歳で急進左派政党「民主人民党」に入党。
81歳没。
作者は終盤でプラムディアへの思いを堰を切ったように、一気に吐露する。
「プラムディアが生きた81年は、インドネシアの現在をかたちづくった歴史的経験のすべてが生起した時間である。オランダの植民地支配とその終焉、民族運動の高揚と衰退、太平洋戦争中の日本軍による占領統治、オランダとイギリスを相手に戦った熾烈な独立戦争、初代大統領スカルノによる新国家の建設と破綻、9月30日事件の苛酷な弾圧と大量殺戮、30年余にわたる第二代大統領スハルトの独裁的支配と崩壊、その後の「改革」の時代。彼はこれらの出来事のすべてを目撃し、また当事者としてみずから体験してきた。
それは言い換えれば、植民地時代から現代までをひとつのパースペクティブのもとに見ることができるということである。しかしこれと同じ時期と条件を生きたインドネシアの作家はいくらでもいるだろう。プラムディアを他の作家と分つ屹立した存在にしたのは、その透徹した歴史認識と構想力である。そしてそれを可能にしたのは膨大な歴史研究の蓄積にほかならない。
彼の歴史への意志は『大郵便道路またはダーンデルス道路』や『インドネシア革命編年史』、あるいは未完に終わった「インドネシア地理辞典」に見るように、最後まで衰えることがなかった。
歴史への意志が生んだ代表作が『人間の大地』をはじめとするブル四部作である。それはインドネシア民族の覚醒を描いた「大きな物語」であるが、しかしその歴史は、植民地支配の不条理を告発するニャイ・オントソロのように、正史の外で虐げられてきた者たちの声を通して語られる。彼は隠れたものに目を凝らし、かすかな声を聴き、そうやって歴史のこまかな襞の一枚一枚をめくっていく。プラムディアが描く歴史は、事件や出来事の連なりとしての歴史ではなく、時代を生きた人びとの歓びや哀しみ、笑い怒りや絶望、希望の肉声が聞こえるような歴史の物語として再構成されたものである。
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プラムディアは、文学が人びとを励まし、立ち上がらせ、現状を変革する力になり得ることを信じて書いてきた。その意味では、ホセ・リサールや魯迅など、鋭い社会批判と歴史への透徹した洞察力をそなえ、つねに現実社会からはなれることのなかったアジアのもっとも硬質な文学者の系譜につながる作家である。」
傑出した「評伝」は書く人も人生を賭けて描く。
プラムディアの生涯の凄まじさにそれを追う作者の気迫が重なり、圧倒的に存在感のある作品を作り上げた。読む側は双方の真剣な姿に触発されて、己の人生を振り返り、記憶を遡って自省を繰り返す。
読み手を引き込んで離さない。
4部作も読んでみようと思う。