あらすじ
ダンジョン都市・ミルベルの特殊な仕事――随行記者。彼らは冒険者に同行し攻略情報を記事にする。弱小新聞社に勤める少女・ネルコは随行記者に憧れていたが……与えられる仕事は熱愛や不倫といったゴシップネタばかり。だがある日、ネルコはかつて惨劇を引き起こした“災厄の聖女”アイリスが処刑されるというネタを掴む。死刑直前のインタビューは爆売れ間違いなしと牢獄に突撃取材をするが、衝撃の事実が判明。なんとアイリスは濡れ衣だったのだ! 明らかな冤罪――記者として見過ごすわけにはいかない。ネルコはアイリスを脱獄させ、冤罪の証拠が眠るダンジョンを駆ける。記者魂を賭け、隠された真実をすっぱ抜け!【電子限定!書き下ろし特典つき】
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Posted by ブクログ
本作は、ダンジョンという非日常の極地を舞台にしながら、描かれている核心はきわめて現代的で、しかも現実的。剣や魔法よりも先に前面に出てくるのは「報道」「倫理」「責任」、そして「知ること/知らされること」の重みである。
この作品の面白さは、ダンジョンを単なる冒険装置として消費しない点にある。未知の脅威が現れたとき、人はどう伝え、どう歪め、どう利用するのか。報道の最前線に立つ者たちは、真実と安全、公共性とセンセーショナリズムの狭間で、常に選択を迫られる。その葛藤が非常に生々しく、読み進めるほどに「これはファンタジーではなく、現実の拡大鏡なのだ」と思わされる。
登場人物たちは決して英雄ではない。勇敢さと同時に弱さを抱え、正しさを掲げながらも迷い、時に誤る。その姿勢が、物語に重厚な現実感を与えている。
文章は冷静でありながら情感を失わず、淡々とした筆致の奥に、強い問題意識が脈打っている。派手な展開に頼らず、積み重ねられる取材、判断、言葉の選択が、物語を静かに、しかし確実に前へ進めていく。その結果、読み終えたあとに残るのは爽快感よりも、重たい余韻と問いである。
「知る権利とは何か」「伝える責任とは誰のものか」。
本作は答えを提示しない。ただ、その問いを読者の手に確かに渡してくる。その誠実さこそが評価されている理由だろうと思われる。
『ダンジョン報道の最前線』は、異世界という衣をまといながら、現代社会の最も繊細で危うい部分に踏み込んだ、静かで強靭な物語である。読み終えたとき、世界のニュースの見え方が、ほんの少し変わってしまう――そんな力を持った一冊。