【感想・ネタバレ】深海の地図をつくる 五大洋の底をめぐる命がけの競争のレビュー

あらすじ

海は、探検と収奪に満ちている――!

★『サイエンス・ニュース』2023年ベストブック

★『グローブ・アンド・メール』2023年ベストノンフィクション

★「必読の書。[…]すべてが非常に読みやすく、そして深く不吉な内容だ。」
――サイモン・ウィンチェスター、『世界を変えた地図』著者(『ニューヨーク・タイムズ・ブックレビュー』より)

★「魅惑的な海の物語。息をのむ冒険、ハイリスクの探検、政治的陰謀が詰まっている。トレザウェイは私たちを海の底へと導き、なぜそこがそれほど重要かを巧みに示している。」
――ヘレン・スケールズ、『深海学』著者

【概要】
地球の表面積の約70%を覆っている海。その海底に目を向けると、2020年代初頭までに4分の1程度しかマッピングされておらず、ほとんどが海岸線近くの浅い海に偏っている。海底の4分の3は、未調査のままなのだ。

“一般的な世界地図は、この地球がすべてマッピングされているという印象を与えがちだ。私は子どものとき地球儀を見ながら、北アメリカのロッキー山脈やアジアのヒマラヤ山脈を表す出っ張りを指でなぞっていたのを覚えている。一方の海はというと、すべすべで何もない青色で示されていた。あの頃は、陸の激しい凹凸が海との境界で終わっていることに何の違和感もなかった。あの滑らかな面は水を表していると、当時の私は思っていたのだろうか? おそらく、何も考えていなかったのだろう。だが、陸の地形の隆起や沈降の激しさが海面下でも続いているはずだということは、今の私にははっきりとわかる。”(第一章 深海を目指す探検)

そして現在、2030年までに「全世界を網羅する完全な海底地形図」を作成するという壮大なプロジェクトが進んでいる。

五大洋の最深部を目指す探検家、北極圏の空白を埋めるイヌイットの猟師、メキシコ湾で潜水する考古学者、大量の水上ドローン、地形の命名と領土問題、情報を秘匿する国家、企業の採掘に抗う活動家たち……

本書は、欲望渦巻く現場に、受賞歴のある環境・海洋ジャーナリストが迫った一冊だ。

“私がノーチラス号でレナート・ケインの横に座っていたときに、はっきりとわかった真実が一つある。それは、地球の海底地形図は、完成させようと思えば今すぐにでも可能だということだ。それどころか、私たちは完成させるためのツールや技術を、すでに何十年も前に手に入れていた。では、なぜ完成していないのか?”(序章)

今、私たちの足元で起きていることすべてがわかる、壮大な海洋ノンフィクション!

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Posted by ブクログ

ネタバレ

2023年上梓。2025年はその頃に吹いていた風は逆風になりつつある。エコは利権が主であり、目的はミコシであること。美辞麗句で先進諸国を弱体化させ、美辞麗句を無視する戦狼国家に利する策であったことが明らかになっている。
本書はその風潮とは無縁の立ち位置を取っているが、完全に無縁ではなく、爪先くらいは乗っけてる。それくらいなら無視して読める。
知ってるつもりでいたプレートテクトニクスへの解像度が一気に上がった。アルフレッド・ウェゲナーのそれとともに。

海洋地図の一種である深海の地図作成は、博物学、地学、海洋学の学際的探求である。
地図がもたらすものは様々で、学究に限っても、生物学、鉱物学、考古学など多岐にわたる展望が期待できる。ナビゲーターという役割に、言葉以上の意味を持つ。深海という、近いようで遠い場所の現実を紹介してくれる。

三章までは著者の我が剥き出しで功名功名また功名というカンジ。筆の冴えを見せつつも我が引っ込んで読みやすくなった。
かと思えば七章で、ジャーナリスト文筆家にわりと見受けられる傾向が出現し、劇的な語りで、サブエピソードを語りだす。唐突に始まるのでわかりにくいし、唐突に始まるので即座には強く興味を惹かれない。ただわかりにくい。筆の冴えの一種。

四章。女性の権利についての主張はしばしば「専用の席を用意しろ」となり首を傾げることになる。本章の主題であるマリー・サープの業績はそのようなものには感じられず、一人の社会人として共感できる不公平さを甘受させられた人物であると思えた。こういう不公平さをなくそうというのがフェミニズムではなかったのか。

宇宙に比べて深海は関心も投資額も低いと著者は嘆く。
地図作成に国家の思惑や利権が絡むのは歴史の証明するところで、機能不全が明らかになった国連はなにも主導することができないどころか、戦狼国家に飼われた犬となっている。ナウルのような小国ですら海洋資源開発に意欲的で、国際機関はその意思を止めることはできない。国際機関はなぜ海洋開発を制限しようとするのか。開発により荒らされた環境は復元に長い時間を要するであろうという主張があるからだ。資本が二の足を踏みやすい素地があるということになる。
宇宙にも深海にも同じくらいロマンがあるが、ロマンだけでは学問はできぬ、というところ。


以下、雑感。
p.84 深海の三層。ミッドナイトゾーン(漸深層)、アビサルゾーンまたはアビス(深海層)、ヘイダルゾーン(超深海層)。

p.101 日本財団と学術会議。どちらも筋が悪いとされる団体だ。後に逮捕された環境活動家が仏に引き渡され、仏は日本への引き渡しを拒絶した。このあたりの動きと連動してるのかもしれない。リベラル的な意味で。

p.106 「吠える四〇度」ロアリング・フォーティーズ。「狂う五〇度」フューリアス・フィフティーズ。「絶叫する六〇度」スクリーミング・シックスティーズ。「コマンダーゼロ」クレイジー・エイティズ。

p.119 アルフレッド・ウェゲナーの解像度が上がった。科学者と言うよりは夢想家、よくて哲学者という印象。本書の言葉を借りればゼネラリストであったという。

p.121 キリスト教と天文学は切り離せない、という。東方の三賢者由来か? ゆえにアメリカにおける科学分野への資金提供は天文学へ多く配分されたという。

p.124 "チャレンジャー号がインド洋で中央海嶺を見つけたとき、イギリスの新聞は、失われた都市アトランティスの発見と称えた。"
p.124 "また、その頃はちょうど、ある別の古代神話が現実のものだという説が世間に広まっていたときでもあった。当時は、ドイツの考古学者兼トレジャーハンターのハインリヒ・シュリーマンが、読み古されたホメーロスの『イーリアス』を片手にトルコの丘陵を歩き回って、失われた都市トロイアを発見したばかりだったのだ。"

p.139 "「未知の地(Terra Incognita)」や「無主の地(Terra Nullius)」"

p.276 最終氷期には陸地が現在よりもっと広かった。その頃の人類は海岸部と内陸部のいずれで繁栄を見ただろうか。内陸部よりも海岸部の資源が生存に有利であっただろう。とすれば、その頃の人類の生活の痕跡が残っているのは今は海中に没してしまったかつての海岸部ではないか。
現実に、ダイバーが海中に遺跡を発見するケースがある。

p.328 『闇の奥』が引用されている。地図上の空白には「なにもない」とする植民地主義を記述する文脈。

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2025年12月14日

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