【感想・ネタバレ】聖女聖戦 ―大罪勇者と思い出の魔女―のレビュー

あらすじ

――選ばれし、聖女は十三人 ――生き残れるのは一人だけ 凄惨な自死の後、倉敷斗真は勇者として異世界転生させられる。だが、召喚主の誘いを蹴り、魔女として追われる聖女、アデル・ユーストフォリアの手を取った。彼女から彼は聞かされる。この世界では、十三人の聖女が一人になるまで殺し合う『聖女聖戦』が行われているのだと。現状の一強は、真の聖女を名乗る、純白の乙女――斗真の召喚主でもある、ミーシア。しかし、斗真は神より授けられた【十三人殺し】の異能で、戦況を大きく揺るがすことに――!? 大罪人として死んだ少年と、魔女と呼ばれ生きる少女。二人の、神へも背く、壮大な戦いが始まる。

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Posted by ブクログ

あらすじを軽く見た段階では本作ってバトルロワイヤル系かな?って思っていたのだけど、何もかもが壊れているような悪辣な作品だった……
話の大筋である「必要な聖女は1人だけ」とのフレーズだって本来は13人の聖女に分ける必要なんて無いだろう特異な立場や能力を敢えて分け与えた上で殺し合いを求める構図になっているのは本当に悪意しか感じられない。しかし、それが神様によって行われているなら、それは悪意ではなく世界の在り方そのもので
どうしたって聖女同士が殺し合う宿命は壊れているように感じてしまう

そんな世界に迷い込む斗真も一見壊れているように見える少年だね
彼が陥った地獄は断片的にしか語られないけれど、人間性を失い壊れてしまうには充分過ぎるものだと伝わってくる。だからこそ、最後に『彼女』の幸福を願った上で自死を選んだ彼は壊れていなかったのだと思える

だとしたら、壊れそうで居て壊れていない斗真に助けを求めたアデルも実は壊れそうで居ながら壊れる事を拒んだ人物なのかな
一族の者達を滅ぼされ大切なメイドや親族を身代わりに生き残った彼女の境遇は精神を壊すに足りるもの。特にその後に訪れる苦境を打破する手段を持ち合わせていない点も尚更に
けど、彼女は諦めていないね。無力ながらに聖女聖戦を止めようとしているし、その為に斗真を見捨てず斗真に見捨てられないようにしている

アデルが我欲の為に聖女聖戦を止めたい訳では無いという点は斗真に響くものとなるね
壊れた世界で彼女は理性に拠って、聖女聖戦に没入する聖女や人々の在り方を否定し調和を取り戻そうとしている。その為なら自分が壊れたって構わないと考えている。それはどうしようもない優しさ、利他的な思考
アデルのそのような思考は斗真に『彼女』を思い起こさせるものとなったようだけど、実のところアデルの発想は斗真に程近いものではないかと思える
だから二人はパートナーとして聖女聖戦へと立ち向かえたのかもしれない


構図としてはアデルが転生者である斗真を利用する形なのだけど、その一方で斗真にこの異世界を好きになって貰おうとする努力を重ねる点は印象的だね
斗真の能力は盤面を引っ繰り返す可能性があるもの。つまり最終局面で斗真がキャスティングボードを握っているかもしれない。そんな時に絶望だけを抱いた状態で選択を行えばそれこそ世界にとって斗真は善い存在ではなくなる
これは打算のようでいて、けれど不幸な身の上である斗真に良い思い出を作って欲しいという願いを籠めたものだね

というか、このアデルという人物は何処までが計略的で何処までが天然か判然とさせてくれない人物だね。命を奪い合う闘争の中でも他の聖女を殺したくないとのたまう姿勢は能天気な正義感かと思わせるが、その反面で斗真の罪を問うたりはしない
それは底知れない魅力として彼女を成立させるものとなり、余計に斗真はアデルを『彼女』に似ているというだけでは済まない理由で支えたくなったのだろうね


作中で聖女達の絶対的な敵対者として描かれるミーシアも負けず劣らず壊れた人物。聖女として取り立てられ、その上で人為的により聖女らしい存在へと書き換えられた
その在り方は哀れとしか言い様が無いが、対して斗真が言及するようにこの世の敵となるのであれば、事情はどうあれ許しておけない。もしかしたら足掻いて足掻いた先にミーシアに救われる余地が有ったとしても彼女は無機質で機械的に殺さなくてはならない

そう考えると打倒ミーシアの為に集まった聖女達も積極的にミーシアという個人を殺したがっていたかというと必ずしもそうではないのと似ているかも
彼女らは自分や庇護者達を守る為に聖王国と戦おうとしている。その聖王国の枢要がミーシアだから彼女を殺すという話になってくるだけで

似た話はミーシアの聖騎士であるドミニクにすら言えてしまうのかな
愛を求めた彼はミーシアという完璧な聖女に愛という存在を見出し彼女の絶対的な守護者になる事を誓った。けれど、ミーシアは人造的な聖女。仮面が剥がれ落ちてしまえばドミニクが守り奉りたい相手ではなくなる。結局は彼も彼女という個人を愛したのではなく、整えられた在り方に魅せられていただけ

このように捉えるとミーシアを死へと導き、ドミニクを殺害した斗真は聖王国を滅ぼした勝者足り得るのかという点もそうではないと気付けるね
彼は結局のところアデルを守りたかっただけ。その過程で聖王国やミーシアが障害となったから排除しただけ。「―――別に」という台詞には彼の虚無が詰まっている
また、彼はアデルという個人を積極的に守りたい動機を持つわけでもない。アデルを『彼女』と重ねたから代替行為としてアデルを救う気になっただけ


ラストに明かされるのは斗真が抱く虚無の正体
あれを見ると彼は壊れているようで実際は壊れていないのではないかと思える。彼は『彼女』より先に動けなかった事を悔やむけれど、それはつまり『彼女』程には壊れそうではなかったなんて考える事も出来て
むしろ壊れてしまった『彼女』の代わりに地獄へ堕ちる為に自死を選んだのならば優しい少年とすら捉えられるかもしれなくて

儚く優しい斗真に助けられたアデルの感謝にて締められたラストは先々への不安を消してくれるものではなかったけど、他方で満たされる事がなかった斗真の心が少しだけ癒やされたかのように思えたよ…

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2025年10月19日

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