あらすじ
2025年の4月2日、アメリカのトランプ大統領が世界に向けて発表した関税政策は、世界中に衝撃を与え、世界同時株安を招いた。
NYダウやS&P、nasdaqなどの米国の株価の主要指数の暴落は一週間ほど続き、日経平均も一時は500兆円もの時価総額を失うほどの暴落となった。いわゆる「トランプショック」である。
今回の経済危機は、まさにこの本の校了中のできごとであり、日々、情報をアップデートしながら、この本は完成した。
ただ驚くことに著者は、すでにこの本において経済危機が来ることを予測し、4つの兆候について詳しく分析していたのだ。
それは2000年代のITバブル崩壊やリーマン・ショックの際にも表れた、いくつもの経済指標の変化を読み解いた結果だった。
また日々の経済データの分析のみならず、経済の歴史も深く研究している著者は、今回のトランプショックを単なる一時的なものとは捉えず、世界経済や国際政治が大きく変化するパラダイムシフトと考えており、その理由も本書では明らかに語られている。
中国のみならず、BRICS諸国も台頭する今、私たちは大きな歴史的転換期に生きているのだ。
米国と中国の新冷戦、それによる経済のデカップリングを早くから予見していた著者は、常に著書やSNSで最新の情報を発表してきた。
本書は、それらを集大成し、世界が変わる重大な局面において発想の転換を促す書でもある。
ますますひどくなる新冷戦によって経済がブロック化し、世界中がより高インフレに悩まされ、インフレ下の不況、すなわちスタグフレーションに陥りかねないことに著者は警鐘を鳴らしている。
こんな先行きが見えない時代に、自分の資産を守るにはどうしたら良いか、歴史を学び長期的な視点を持つことの大切さを説く。
さらにこの新冷戦の中、再び注目を浴びるのが日本であることにも言及し、危機をチャンスととらえるべきことを教えてくれる。
世界が日々、変化する現代に生きる私たちが、経済危機をいかに乗り越え、未来に希望をもつべきか? 多くのヒントを教えてくれる必読の書である。
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Posted by ブクログ
トランプに振り回される世界経済の潮流を分析した本。
読んでいて、これは大前研一氏が書いているのか、と勘違いした。
内容は実に適切。
一番しびれたのは、
トランプ以前から政治家が利益誘導、なんでもありにしているということ。
金持ちを減税し、一般庶民から搾り上げている、ということ。
日本はこの真似をしているのだ。
確かに、雇用を生む企業を経営するということは大変なことで、
ある程度は守られるべきだとは思う。
特にゼロから起業する、ということはすばらしいことで、
優遇すべきだと思う。
しかし、日産のようにその地域の雇用をなくす経営合理化を決定するような
会社のトップが3億だか6億だかの報酬を得る、というのはどう考えてもおかしい。
しかも税金はどんと下げられている。
公務員は給料は安い、というが、高級官僚は天下りのたびに相当な報酬、退職金を得る。
これもお手盛り。
アメリカのおかしいところだけ真似して、
それでいてアメリカのような経済のダイナミズムはなく、シュリンクする日本。
最悪だ。
まあ、アメリカもいまのトランプの無茶苦茶な、整合性のない政策を続ければ、
これまでの勢いを失い、日本のようになるかもしれないが、、
移民を拒否したら困るのは彼らが労働力として提供してくれたサービスを失う自国民なのだ。
さらに、製造業を取り戻そうとしても、日本の2倍以上の高給の工員で賄えるわけがない。
このあたりはユルマズさんの言ってることと私のコメントがごっちゃになっているけど。
読んですかっとするが、同時に絶望もする。
ゆり戻しが来ることを信じたい。
はじめに
第1章 トランプショックとインフレの行方
トランプ関税の発動で大暴落した金融市場
「トランプショック」で世界の株式市場は大荒れに
日経平均は4万円ステージに踏みとどまれるのか?
相場の嵐は去ったのか? それとも序章なのか?
中国の報復関税と、相場を救う最後の騎士
景気後退リスクが高まっても米国の超長期金利が下がらない不気味
米国債よりも日本国債のほうがマシだと市場は思っている?
原油相場が示している景気の後退リスク
圧勝ではなかった大統領選挙
トランプでなくインフレに負けた民主党
右派勢力の台頭の契機となったリーマン・ショック
中国のデフレの輸出を阻んだ第一次トランプ政権
今に始まったことではないMAGA思想
貧富の差が拡大する米国
第2章 トランプ1・0と2・0の相違点
前言を翻しまくるトランプ
米国の品位を著しく落としたトランプの振る舞い
貿易赤字と補助金を同一視する不思議
ベッセント財務長官の政策を考察する
あり得ない米国の製造業復活
追加関税は誰が払うものなのか
トランプコインの使われ方
ガザを国際リゾートにしたいとするトランプの発想
中間選挙でトランプは失速する可能性大
今の共和党の基本思想は弱肉強食
軍事費の増大を迫られる各国
米国の反移民運動と移民の同化について考察する
資本主義を悪用する米国のスーパーリッチ
ウォール街が理系人材を引き寄せる米国の不幸
貧富の格差を象徴する非婚率の高さ
存亡の“危機”の時代に入った米国
トランプが“エルドアン2号”と言われる理由
米国に対する信頼度低下と避けられぬトランプクラッシュ
第3章 米国に4つのリセッションの兆しあり
共和党政権時代に起こりがちなバブル崩壊
米国経済の運命を左右するマネーサプライ
なぜ長短金利は逆転するのか?
ワンダーランドの世界は、やはりなかった?
ダウ理論を無視した米株価の急騰
米国にとって最後の砦だったジャパンマネー
我がジェットコースター理論
ゴールド価格で世界のゆくえを占う
接近する米国の政策金利と中立金利が意味するもの
見極められないゴールド価格上昇の真因
市場の懸念を生むトランプ2・0の不確実性
第4章 誰も逃れられないAI株バブル崩壊から始まる暴落相場
いまはバブル崩壊の第二フェーズの天井か
リスクオフを察知した市場
米国の雇用統計は信用できるのか?
ふるわない米国の輸送関連株が示す現実
AIバブルに対する懸念と評価
警戒すべきエヌビディア株の動き
AIバブルの主役となったコールオプションという劇薬
誰も逃れられない本当の暴落相場
米地銀が抱えるリスクを考察する
本気でインフレを駆逐する気がないFRB
散々な将来が待ち受けている米中
第5章 新冷戦がもたらす日本の好ポジション
たやすく利上げができなくなった中央銀行のジレンマ
円安で最高に儲けている日本企業や年金機関
サプライチェーン移行のための円安
デカップリングの行き着く先は?
襲いかかってきた構造的インフレの怖さ
日本円に戻らなくなった海外への投資
パラダイムシフトが起きていることに気づかぬ財務省と日銀
トルコ・エルドアン政権が統一地方選挙で敗れた理由
ドル高により意外な国が国家破綻する
第6章 米国が招いたBRICSの台頭
死語と化した財政規律
第三次世界大戦に等しかったパンデミック
世界の中心はインド太平洋地域へ
ドルの覇権を揺るがす米国のやりすぎ
“オルタナティブな通貨”の登場を心待ちにする反米国側
第7章 ディープシーク・ショックと今後のAI業界を考える
世界に衝撃をもたらした中国の新参者ディープシーク
中国製AIディープシークは信用できるのか?
コモディティ化の道をたどる生成AI
盗人猛々しいビッグテックの手口
AIのコモディティ化が呼ぶバブル崩壊
実際には政府補助金で成り立っているイーロン・マスクの事業
米国の経営者がH-1Bビザを歓迎する真の理由
第8章 新たなる地政学的リスク
対米観をパラダイムシフトさせた欧州
対米ポジションの再検討に入ったアジアの同盟国
笑いが止まらぬ中国
台湾有事のリスクが最高に高まる理由
トランプ政権維持のカギを握るエヌビディアの盛衰
シリアはエネルギールートの要衝
ロシアの軍事支援を失ったシリア・アサド政権
新冷戦第二フェーズへの突入か
進む世界のブロック経済化への流れ
Posted by ブクログ
欧米と一括りにしてしまうが、欧州と米国は違うこと、またイーロンマスクは地雷を踏んだことなど興味地政学の学びとして興味深く読んだ。
が、ブロック化が高金利、高インフレ時代の到来と結びつくのか?は、経済オンチの私には残念ながら理解できなかった。
Posted by ブクログ
かれこれ8年くらいになるのでしょうか。東京マーケットワイドで初めてエミンさんを知った時から、コロナもウクライナも中国もトランプも、いちばん頼りになるのはエミンさんの分析です。
Posted by ブクログ
先日ネットを見ていて気になった本です、この本の著者はトルコ出身の方で、自国で何度も起きたハイパーインフレを実際に経験されています。多くの人は現在はすでにバブルの状態にあり、中には故・森永氏のように今までのバブルとは異なって元に戻らないとも言われています。
この本によれば、その中にあって日本株は有望とされていますが、果たしてどうなのでしょうか。アメリカの夏休みが終わる9月に何らかの動きがあるかもしれないので、この数ヶ月は特に注視していきたいと思います。
以下は気になったポイントです。
・トランプ関税政策が彼の思いつきではなく、合衆国のスタンスの変化を意味するのであれば、これは第二次世界大戦以降続いた世界秩序(=防衛や先端技術はアメリカに任せて、その代わりにドルを基軸通貨としてきた、p56)が大きく変わることを意味する(p4)トランプ政権の計算では、日本は米国に46%の関税を課しているとみなした(p16)日本は米国に1482億ドル、対米黒字は685億ドルなので、685/1482=46%となった、ただしすでに25%の関税を課せられた、自動車・銅製品・半導体・医薬品は対象外(p17)
・大統領選は、スイングステートでトランプが選挙人数で勝ったにも関わらず、上院選で負けたのは、民主党の人選(ハリス氏)が原因であったことを雄弁に物語っている(p34)
・トランプ一期目と二期目は全く異なることを意識しなければならない、一期目は共和党の伝統人事にトランプはある程度従わなければならなかった、今回は完全にトランプ・ロイヤリストが勢揃いしていて、トランプよりぶっ飛んでいる人が多い(p52)
・日本政府が円安を誘導したのか、つまり「円の隠れ切り下げ」と捉えるべきである。これには2つの意味があり、1)海外に投資している日本企業がかなり多く含み益を得ている、2)日本へ投資しやすくなった(p62)日本企業も資産運用期間も、為替差益(円安)でとんでもない利益になっている(p178)
・米国の関税や追加関税がドル需要を増やすことから、ドル高を促す、これは最終的にインフレを高めるのは必至である。エネルギーはカナダから、メキシコから農作物など(p64)追加関税を払うのは、売っている側(輸出メーカ)でなく、輸入業者が払う、当然ながら輸入業者は、その分を全て価格に転嫁させる(p66)
・日本ではあまり知られていないが、トランプの大統領返り咲きを実現に導いた重要な公約「米国内の卵の市場価格を下げる」である、これが叶わなかったとき、次の中間選挙でトランプはボロ負けをするに違いない(p75)
・米国の製造業を復活させるとしているがこれはできない、理由として、1)サプライチェーンができていない、そして人材が揃わない、理系出身者は必ずしもエンジニアを目指さずウォール街を目指す、2)インフレを抑えるためにドル高(=製造業に不利)となる(p91)
・米国は2025年に満期を迎える国債のうち、2025年前半、すなわち今後半年間で7兆ドルの国債が償還を迎える、そのうち4.9兆ドルが長期債で、短期債は2.1兆ドルのロールオーバーとなり、米国史上最大のリファイナンスとなる(p101)
・2025年2月末の米国株式市場の時価総額は61.4兆ドル、ところがこれだけ株高にも関わらず、利益は2兆ドル、これは米国で株式に投資したら、元を取るには27年間も待たなければならないことを意味する、米国株は途方もなく割高である(p108)
・現在の日本国債の10年金利はすでに2008年時点のレベルまで上昇している、アベノミクス(=異次元緩和スタート)レベルに戻っている、今回も2006年のように長期金利は2%にいくのではないか、その時点で円キャリートレードが完全に崩壊する。それが米国のバブル崩壊に拍車をかけ、米国リセッションが本格的に始まる、日本の金利が低かった(緩和)ので、米国株は上昇してきた(p128)
・ゴールドは1オンス3000ドルを超えていて、半端でない上げっぷりである。この強さの真の背景は何か、トランプ政権の不透明感によるものではないか、関税で最大の標的とされる中国はかねてよりドル依存を軽減させるために、ゴールドを買い増ししてきた(p139)ゴールド需給問題もあり、シルバーとプラチナが恩恵を受ける可能性がある(p142)
・雇用統計には、事業所調査と家計調査の2つがある、家計調査の雇用が減ったのに対して、事業所調査の雇用が増えていた。これは正規雇用が減って、パートタイムの掛け持ちが増えているからではないか。事業所調査は、同一人物が3箇所別のところで働いているなら、3名の雇用増とみなすが、家計調査は1名増である(p152)
・FRBが0.5%の利下げを行ってから3週間で、米国の借金が0.5兆ドル(75兆円)増えた、それだけドルを刷らなければならなかった。こうした現象を見ると、米国のみならず日本やEU諸国も同様に、国が抱える借金が巨大化しすぎて、容易く金利を上げられないジレンマに陥っている(p174)
・日本の「円」の隠れ切り下げに対して、米国からも欧州からも何の抗議もなかったのは、サプライチェーンを移行(台湾から日本へ)させるためには致し方ないとの合意が欧米側にあったと考えるべきであろう(p179)
・中国のスタートアップ企業のディープシークが新たな生成AIをリリースした、ChatGPT並みに性能が高い上に、開発費用がわずか10億円程度(ChatGPTの50分の1)さらに開発期間がたったの2ヶ月、しかも設計情報を公開するオープンソースモデル、つまり開発した言語モデルを誰もが無料で使えるタイプである、かねてからビックテックが主張してきた「AI開発にはスケールが必要」「巨大なデータセンター建設が必要」とする大前提が覆された(p212)
2025年7月1日読破
2025年7月5日作成