あらすじ
勇者によって魔王は討ち倒され、この世界から魔王の脅威はなくなった――だが世界は平穏を手にすることはできなかった。決戦時の強大な魔力の余波が、人類を侵し滅びをもたらしてしまったのである。
世界の平和と人々の命を守るために尽くした勇者一行の一人・魔法師エルメもその例に漏れず、大切な人を失い、自らの死期もそう遠くないことを悟った。
孤独となり自身の存在意義と未来を見失った彼女は、がむしゃらに王都から飛び出した先で、アンデッドの少年と出会う。
不思議な彼に勇気を貰い、余命わずかな少女と不死の少年は、終わりゆく世界を巡って、幸せな思い出と生きた証を後世に残すことを目指す旅に出る――【電子限定!書き下ろし特典つき】
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Posted by ブクログ
『巡る冬の果てで、君の名前を呼び続けた』は、世界の終わりを背にした旅路を、これほどまでに静かで、誠実な筆致で描き切った作品は稀だと感じさせる一冊だった。物語は決して派手ではない。しかしその分、一歩一歩の歩みが確かな重みをもって胸に刻まれていく。
余命を抱えた魔法師と、終わりを知らない存在。その対比は単なる設定に留まらず、「生きるとは何か」「名前を呼び続けるとはどういう祈りなのか」という根源的な問いを、読者に静かに投げかけてくる。言葉を交わし、同じ冬を越えていく中で育まれる関係性は、過剰な感情表現に頼ることなく、むしろ抑制された描写だからこそ深く心に染み入る。
滅びゆく世界の描写には冷たさと美しさが同居しており、その中で紡がれる会話や沈黙が、確かな温度を持っているのが印象的だ。旅の終着点に向かうにつれ、避けられない現実が迫ってくるが、そこに描かれるのは絶望ではなく、受け入れる強さと、残されたものの尊さである。
読み終えた後に残るのは、悲しみよりも静かな充足感だ。すべてが失われていく中でも、確かに名前を呼び、呼ばれた記憶は消えない――そんな確信をそっと胸に残してくれる。冬の果てに立ち尽くしながらも、どこか温もりを感じさせる、余韻の深い物語だった。
著者初読