あらすじ
たった一人で魔王討伐を果たした勇者だが、その表情は浮かない。一体何が? 光を失いし天使と一匹の蛙とともに勇者が送るスローライフの実態とは? 勇者が直面する突然の求婚。麗しき薔薇の王子の企て。果たして勇者は再び世界を救うことになってしまうのか――
登場:救世の勇者パルパネル/西の王/霊王アルダモート(蛙)/大巨人ディガノール/天使/神/アダツミ/神姫タラソナ/魔術師フォーネット/地底の王モザニ/シーディア/薔薇の王子ギャロ/デクスター/ウィアセント/魔女イルミナ
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Posted by ブクログ
『パルパネルは再び世界を救えるのか』は、「世界を救った後」という物語が往々にして語り落としてきた領域に、真正面から踏み込んだ一作である。英雄譚の終幕ではなく、その“余白”にこそ物語の核心があるのだと、静かに、しかし確固たる筆致で示してくる。
かつて世界を救った英雄パルパネルは、不老不死という祝福とも呪いともつかぬ運命を背負い、喧騒から距離を置いた日々を送っている。その姿は、華々しい戦果とは対照的にあまりにも穏やかで、どこか影を帯びている。しかしこの静けさこそが、本作の最大の魅力だ。世界を救った後も人生は続き、時間は等しく流れ、選択の重みは決して消えない。その当たり前で残酷な真実が、淡々とした日常描写の中から滲み出てくる。
重層的な世界観と、どこか寓話的な登場人物たちは、軽妙さの裏に確かな思想を宿している。ユーモラスな会話や風変わりな存在たちに笑みを浮かべながらも、読者は次第に「英雄とは何か」「救済とは誰のためのものか」という問いへと導かれていく。その問いは決して声高ではなく、静かに、しかし逃げ場なく胸に残る。
また本作は、再び世界を救うか否かという二元論に安易に答えを出さない。救うことの意味、関わり続けることの覚悟、そして何もしない選択の重さ――それらが丁寧に積み重ねられ、物語に確かな奥行きを与えている。派手な展開に頼らず、人物の在り方そのものを描くことで、ファンタジーでありながら極めて人間的な読後感をもたらす。
読み終えた後、胸に残るのは爽快感ではなく、静かな余韻だ。それは、世界を救った英雄の物語であると同時に、「生き続けること」を選ばされた一人の存在の物語だからだろう。本作は、ファンタジーの形を借りた、時間と責任と救済についての深い思索であり、読者に長く寄り添う一冊である。
著者初読。KU。