【感想・ネタバレ】なぜ働いていると本が読めなくなるのかのレビュー

あらすじ

【人類の永遠の悩みに挑む!】
「大人になってから、読書を楽しめなくなった」「仕事に追われて、趣味が楽しめない」「疲れていると、スマホを見て時間をつぶしてしまう」……そのような悩みを抱えている人は少なくないのではないか。
「仕事と趣味が両立できない」という苦しみは、いかにして生まれたのか。
自らも兼業での執筆活動をおこなってきた著者が、労働と読書の歴史をひもとき、日本人の「仕事と読書」のあり方の変遷を辿る。
そこから明らかになる、日本の労働の問題点とは?
すべての本好き・趣味人に向けた渾身の作。

【目次】
まえがき 本が読めなかったから、会社をやめました
序章 労働と読書は両立しない?
第一章 労働を煽る自己啓発書の誕生――明治時代
第二章 「教養」が隔てたサラリーマン階級と労働者階級――大正時代
第三章 戦前サラリーマンはなぜ「円本」を買ったのか?――昭和戦前・戦中
第四章 「ビジネスマン」に読まれたベストセラー――1950~60年代
第五章 司馬遼太郎の文庫本を読むサラリーマン――1970年代
第六章 女たちのカルチャーセンターとミリオンセラー――1980年代
第七章 行動と経済の時代への転換点――1990年代
第八章 仕事がアイデンティティになる社会――2000年代
第九章 読書は人生の「ノイズ」なのか?――2010年代
最終章 「全身全霊」をやめませんか
あとがき 働きながら本を読むコツをお伝えします

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QM

購入済み

平成あたりからすっごく話がイメージしやすくなって、めちゃくちゃ面白かった、、、!!
もちろん昔の日本の読書習慣や仕事への見方、階級などなど勉強になったけどやっぱり時代が遠すぎて「へぇそうなのかあ」と表面でしか理解できなかったような部分がたくさんあったけど、読み進めていくとどんどん話が自分の中で繋がってきて、分かりやすかった。

昔の日本は読書はエリート向けのものであったり、教養を身に着けるためのものであったが、今では読書=ノイズ(自分にとってシャットアウトしたい、必要ないと感じているもの、体力精力を精力を無駄に消費するもの、頭をつかうもの、、、)と考えられている節があり、人々のなかでの「読書」の立ち位置が今と昔で全く違うのがとても興味深かった。

読書するというのは他人の文脈を受け入れ、触れ、関わりあっていくこと。
仕事へ自分の100%を注ぐのではなく、半分余力を残しておいて別のこと(趣味、家事など)に充てること。
無理して働くことを美化しないということ、などなど。

どれもすごく大事なことだと思いました。
また時間をおいてから読み返したいと思った1冊でした。

何を買うか決めてない状態で本屋に行って目についたものを買うのが大好きだからまた早く行きたいな~という気持ち!
積読ばんざい!!!

1
2024年11月28日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ただの読書術本と侮るなかれ
三宅氏による社会と時代背景から見る読書史、あるいは労働史である。
単にインターネットやそれら媒体の台頭のみでは現代の人々の読書観は語れない。社会が個人の労働観や人生観といったものを時代ごとに変化させてきた。新自由主義という言葉がよく使われるが、特に今日においてはその言葉の意味合いとは裏腹に不自由感が漂う。
現代の、労働が中心的な社会観において、未知はノイズであり、既知が受け入れられるため読書は排除される側にある。

自由が責任を強め、責任が労働の奴隷化を強め、それが趣味を遠ざける。やりたいことで生きていく事へのアンチテーゼや疎外感はそういう社会構造が生み出した鬱屈だと言うのは凄く腑に落ちた。

データ的だけれど分かりやすい本著は、現代を生きる全ての人に読んで欲しいと思った。それは単に読書がしたいっていう気持ちでもいいし、ただ鬱屈とした今に不安や疑問を持っているのなら特に進めたい。どんなに時間をかけたっていい。
半身で読んでみて。

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2025年12月05日

Posted by ブクログ

ネタバレ

自分自身働きながらも本は読めてる方だと思ってたからスマホに時間を使われて本を選好する人が少ないというのがメインで書かれているのかと思っていたが、年代ごとの勤労者と読書の関係が細かく書かれていて納得がいく内容だった。特に現代は情報を効率よく取ることが重視され、効率が悪いことは冷笑される雰囲気があるかつ、目に入りやすいのも読書が遠ざけられる原因になってるようにも思う。効率化するところはする一方で、非効率を楽しむという点も重視されるようになればいいなと思う。
半身で働くのは大賛成。定時がそもそも長いと思うから一旦1時間縮めて八分身で働くことから始めれるといいなぁ。

0
2025年12月04日

Posted by ブクログ

ネタバレ

働きながら生活するなかで、あなたは本を読んでいますか?
つい、スマホ、インターネットに目を奪われいく
現実だと思います。
自分に役立つ情報をいち早く入手するためには、インターネットなど情報網の方が最適なのだ。
労働と読書を両立させながら生活することが、何よりも大事だと実感しました。
両立させることは難しいと思いますが、全身全霊社会ではなく、半身社会で生きていくことが、仕事と読書、読書だけではなくて自分の趣味を両立させることへの大きな一歩となると本著で描かれていました。

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2025年12月01日

Posted by ブクログ

著者三宅さんの優しさが滲み出る文章にまさかの涙でした……!
それまでのページで根拠を用意して、言葉を尽くしたのは、終盤でこのメッセージを伝えるためだったんだと心打たれました。
働くことと読書の関係についてはもちろん、同時に働いていると見失いがちな、自分の暮らしと、誰かへの思いやりを忘れないための問題提起だと受け取りました。

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2025年12月01日

Posted by ブクログ

ネタバレ

話題になってたし〜タイトルも納得できるし〜くらいの軽い気持ちで読み始めたら、映画「花束みたいな恋をした」からキャッチーに始まったかと思えば日本人の読書の歴史と労働観の変遷の相関、そして最後は働くことについての提言、と構成も面白くてとっても読み応えのある本だった!!!!これは復職したら悩める後輩同僚に薦めてあげたい本。

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2025年12月01日

Posted by ブクログ

「半身で働く」。著者は本を読むためには、そういった働き方が良いのではないかと提言しています。ここでいう「本を読むため」というのは、「文化的に生活するため」とも、言い換えられるのかもしれません。この考えには、実体験から激しく同意します。

私が読書を始めたのはここ1年くらいの話なのですが、今の仕事は正直、めちゃくちゃ楽で、心にゆとりがあるので、読書が継続できていると思います。それも、実用書や自己啓発本を読んでいるわけではなく、著者の言葉を借りるのであれば、「ノイズのある読書」が出来ていると思います。全く仕事と関係ない本をあえて読んでいる節もあるので、ノイズだらけです。

4年前に転職するまで、私はいわゆる社畜と呼ばれる生き物で、家に帰るのは寝るため、休日も仕事の付き合いばかりのような生活を送っていました。読書に割くような時間は、もちろんありませんでしたし、それが当たり前だと思っていました。このころ、まさか自分が太宰治やドストエフスキーを読むなんて、思ってもいなかったです。

決して、本が読みたくて、転職したわけではないですが、仕事に半身で取り組むようになってから、本を読むようになりました。読書だけではないですが、いろいろ趣味のことを考える時間もあり、充実した生活がおくれているように思います(給料は大幅に減り、家族に迷惑をかけている部分はありますが、自分の中の幸福度は上昇しています)。

私はいわゆる「ゆとり第一世代」と呼ばれる世代の人間なのですが、著者のいうとおり、周囲の考え方は「自分のやりたいことを仕事にできるのが幸せ」という、仕事での自己実現を求める人が多かったように思います。その考えが知らず知らずのうちに、自分にも植え付けられ、「絶対にこの仕事で一旗あげてやるぞ」という気持ちで、前職では働いていたと思います。それでうまくいけば、幸せだとは思うのですが、うまくいくのは、一握りの人間だと思います。

「これだけ頑張っているんだから、絶対にうまく行くはずだ」と遮二無二なって、終電間際まで働いているのに、うまく成果があがらない。そんな人には、是非この本を読んで、肩の力を抜いてほしいと思います。いったい、「労働」とはなんなのか、自分の人生を賭してまでやることなのか、そういったことを考えさせてくれます。

新書大賞に選ばれるのは納得の、良著でした。

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2025年12月04日

Posted by ブクログ

新作『考察する若者たち』とセットで読むと、半身でいようよ→私たち報われたいよね、と更に現代の思想が深堀されているのが良い。コラボ動画でくるまさんも言ってたけど、最後に読者に視線を合わせてよりそいがあるのが三宅さんの著書が受け入れられるところなんだろうな。

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2025年11月28日

Posted by ブクログ

〜感想〜
読書の歴史から現代の読書の位置付けまで細かく紹介してありとても勉強になった。
労働に対しての考え方が変わった。
半身労働社会についてすごく共感できた。
自分の働き方こそ半身労働に近いものにしていきたい。

〜特に心に残った部分〜
本を読むと、他者の文脈に触れることができる。
自分から遠く離れた文脈に触れること。それが読書なのである。

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2025年11月26日

Posted by ブクログ

良書。本を読み、社会や他者、過去の文脈を受け入れ、自分の人生をよく考えて生きていきたいと思う。

高度経済成長期から新自由主義の時代にうつった際に、労働者が学ぶ・求めるものが政治的なもの=社会のことから経済的なもの=コントローラブルな自分のことに変わっていったという考察が面白かった。一方で、これは、SNS等で容易に過去の文脈を踏まえない陰謀論や居心地の良い主張が広まってしまうということでもあり、非常に危険なことではないかと思った。

しかしこの新書が売れると言うこと自体に、新自由主義からの揺り戻しというか、それでもやはり本当は他者の文脈を求めて社会を知って生きていきたいという本能が私たちにあるということだと思って希望を持った。

全身全霊は複雑な外部や自分の人生について考えなくて良いから楽である反面、うつ病になりやすく持続可能でないという指摘は耳が痛い。
全身全霊より大変でも、半身の働き方で複雑な社会や他者の文脈を受け入れて、持続可能な社会を作っていこうという提案は非常に重要と思った。

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2025年11月24日

Posted by ブクログ

ネタバレ

著者は、現代人が本を読めなくなった主因は「時間のなさ」ではなく、仕事に精神のすべてを捧げる「全身全霊」の労働倫理にあると主張している。​​

本書は、読書とは本来「ノイズ(自分にとって未知・非効率な文脈)」を受け入れる行為であり、効率と成果を求める現代の労働環境とは構造的に相性が悪いと結論づける。​

著者は、労働と読書を両立させるための唯一の解決策として、仕事に対する過剰な自己同一化をやめ、「半身(はんみ)」の姿勢で働く生き方への転換を提言している。​

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2025年11月23日

Posted by ブクログ

自己啓発書の特徴は自己のコントローラブルな行動の変容を促すことにある。
つまり他人や社会といったアンコントローラブルなものは捨て置き、自分の行動の変革に注力することで自分の人生を変革する。それが自己啓発書のロジック。アンコントローラブルな外部の社会はノイズとして除去される。

読書は自分の知らないことを知識を取り入れられるいわばノイズ。ノイズがないほうが楽だから仕事に熱中しちゃう。

タイトルからは想像できないけど7割ほどは日本の労働と読書史、ラスト3割でじゃあどうしましょうという著者からの提案が描かれていた。
昨日友達と山登りしながら「転職とか考えてる?」「んー、今の仕事はめっちゃ給料良くないけど、そこそこ貰えてるし忙しすぎないから良いんだよね。奥さんも働けて健やかに暮らせることが第一だから」みたいなやりとりしたのを思い出した。無理をしない、大事。

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2025年11月24日

Posted by ブクログ

とても良い本だった。
中盤は「労働史から見る読書史」といった体でやや硬めの内容ではあるが、タイトルの「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」という身近でキャッチーな問いが頭にあるので関心を持って読み進められる。
自分の著者の年代が近いからか、全体を通して漂う「働きたくねぇ」という労働に対する姿勢に親近感を覚えた。
終盤に語られる労働も趣味も全身でコミットメントすることを求める社会への疑念は、自分も以前から感じていたことで関心が高く、読者と結びつけて語ってくれたので自分の心の靄が晴れたような気分になった。

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2025年11月26日

Posted by ブクログ

労働の変遷とともに読書がどのような位置付けとして変化していったのかが書かれていて興味深かった。

ノイズの話は実感としてもよくわかる。

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2025年12月07日

Posted by ブクログ

労働と読書の歴史、楽しかったな〜
明治以降、時代や社会情勢に合わせて、これまで「読書」という行為は、姿や役割を柔軟に変化させてきた。
政府主導による読書啓発。立身出世の手段としての修養読書。エリートの教養としての読書。出世のための読書。娯楽としての読書。ノイズを除去した自己啓発読書。

これからもインターネットの波に飲まれ続け、読書はさらに姿や役割を変化させていくのだろう。これは止めようがない。

自分の読書観についても、ついついオリジナルでいるような気持ちになりがちだが、それだって世界の大きな枠組みの中の一つでしかない。
社会情勢に影響されない思考はないように思う。令和の時代の読書はこうだったと一括りになるのだろうな。

知ることが楽しい、他の人の価値観に触れたい、そんなところから私は読書している。だけど、疲れている時は読書はできない。この本のいうところのノイズを受け入れられないのだ。
とある本で(この本ではない)、スマホを見ている時の脳の様子は(勉強の動画であっても)、マッサージを受けている時の脳の様子と一緒!と書いてあった。情報を取り入れてるのではなく、マッサージでただ心地良くなっていたのか!ノイズ云々ですらないのでは。疲れてるからスマホは脳にとっては気持ち良いのね。

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2025年12月06日

Posted by ブクログ

意外と前半の「日本の社会人は、いつ、どんな本を読んでいたのか」のくだりが面白かった。そういえば、今まで読んだ中で、いろんな作家さんが「父の書斎にあった全集が…」と読書歴を書いてらしたなーと思い出して、なんだか心がほこほこした。

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2025年12月05日

Posted by ブクログ

タイトルがドンピシャで読み始めました。

ラストの「半身」という考えは、難しいかも知れないけどこれからの人生で少しでもいいから叶えていきたい生き方だなと感じました。

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2025年12月05日

Posted by ブクログ

三宅香帆さんのYouTubeにハマり、ベストセラーだった本書を手に取りました。
最終章はもう哲学。面白かったです!

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2025年12月03日

Posted by ブクログ

いわゆる団塊世代の方と話していると、あまりの価値観の違いに戸惑いを感じるときがある。それがずっと不思議だった。
でもこれを読みながら、もしかすると自分が新自由主義社会の中で育ったからなのかもしれないと思った。

だって我々は生まれてこの方好景気を知らないし、消費税だってずっと払ってきているし。
根本的に社会や政治への期待感が薄いというか、関心を持つのが難しいのも仕方がないだろって思ったりもする。
自分の人生の責任は自分で持たないといけないって育てられたもんで、各々自分のことでいっぱいいっぱいだから。
失敗したら自己責任って言われるから、それどころじゃない。

そんなことを考えるくらい、読書どうこうより労働史とか社会思想史的な性格が強いと感じた。
タイトルから読書術だなんだを期待して読む本ではない。

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2025年11月29日

Posted by ブクログ

明治時代から現代まで、時代背景から、読書の在り方やどのような内容の本が流行したかを考察しており、非常に興味深く、なるほどと思いながら読み進んだ。
現代においては、インターネットが普及し、人々は自分に関係ある情報だけ取って、『ノイズ』のある読書を受け入れない。
そこから筆者は、全身全霊をかけて働くのではなく、半身で働くことを推奨。他人の文脈、ノイズを受け入れる余裕を持った方がいいとの主張。
確かに現代では、ワークライフバランスが推し進められているが、その空いた時間を使って、自己啓発することが前提となっている。自己啓発本が流行っているが、何かやらなければいけない、休みも一生懸命に勉強することが周りから賞賛されるからやっているようなものだ。それで燃え尽き症候群や鬱病になったら意味がない。
生き方を考えさせられた。

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2025年11月26日

Posted by ブクログ

読書と労働についての考察がスルドイ。時代背景を追いながらも「読書とはノイズである」として、現代の情報社会に「本が読める」ことへの提言を行なっている

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2025年11月25日

Posted by ブクログ

絶対に『花束みたいな恋をした』を見たあとで読んだほうがいい


著者の三宅さんとは同じ高校の出身だということもあって、話題になったこの本を手に取りました。

就職してから大好きだった読書ができなくなった自身の経験をもとに、明治以降・近代化してからの日本人の働き方と、読書のあり方(読書に限らず、文化・教養の受け取り方)の変遷という2本の線を並行をさせて比較し、労働と文化を両立できるはたらき方とは?を追求する1冊です。想像よりもフランクでやさしい文体で、はつらつとした女性の軽やかさと情熱にグイグイと引き込まれます。

「本が読めないのは仕事に時間が取られるから、労働で気力が奪われるからじゃないの?それと時間の使い方の選択肢が増えたからじゃん?時間の潰し方を無限に用意してくれるスマホがあるからじゃん?」だれもが読む前に予想するところでしょう。もちろんそれはそうだけど、かなり深堀りされた解像度の高い答えが著者によって提示されます。

なにより2021年の映画「花束みたいな恋をした」の主人公カップルの社会的な位置づけの違いに注目し、労働と文化のあいだには常に「社会的な格差」が影響しているという文脈を見立てた著者の着眼点がおもしろい。一見関係のなさそうなものがつながってしまう作用、これこそが教養のなせる技であって、この本のメッセージのひとつだと思います。哲学者ブルデューの『ディスタンクシオン』にも通じるものを感じました。これ映画見てたらもっと味わい深く読めたなあ。今後この映画を見る機会に、この本で提示された文脈でしか見られなそうなのがちょっと残念かも(自分のせい)。見てから読めばよかった!

明治時代、海外から自己啓発の概念が輸入され、立身出世を焚き付けられる労働者男性と、それを他人事のように眺めるエリート階級の構図が生まれたと見て取れ、明治すでに『花束みたいな恋をした』のカップルのような構図はすでにあったということが面白かったです。

その他、紙の価格高騰から円本(=全集)や文庫が誕生したエピソードなど、本そのものの変遷も興味深かったです。昭和のころ、中流以上の家庭の戸建てなら玄関からすぐの部屋には洋式の応接間があって、そこの本棚にはかならず日本文学全集、世界文学全集の背表紙がズラリ、教養も誇示できるインテリアとして鎮座していたものです。いまではそんな応接間なんて余裕も必要もなくなったうえに、オンラインで世界中の文学作品が読める。世は遺品整理や終活ブームで、無用の長物は処分したい。”全集インテリア”はもう見られなくなった光景ですよね。

「読書はノイズをはらむ」と著者は言います。2020年代に現れた効率的に手っ取り早く教養を得る『ファスト教養』という言葉。お金と時間をかけて1冊のビジネス書に向き合うより、同じ内容を10数分に要約した有益な情報のみをYouTubeを無料で見るほうがコスパ・タイパが良いという風潮を表したものです。ファスト教養によってバッサリ切り落とされた贅肉こそが『ノイズ』、言ってみればムダな部分ということ。著者のお気持ち、付随するエピソードといった余談や、なんなら本屋に行く手間、買う手間、自分でページをめくる手間、、、コスパ・タイパという俎上のうえで切り落とされるそれらを『ノイズ』という概念に集約させているのが分かりやすいです。詩的で抽象的な部分を含んだメッセージを能動的に受け取りにいくより、具体的な情報をのみを流し込まれるほうがハードルが格段に低い。だから本は読めなくてもスマホは見られるという現象が起こるのだと思います。『読書』は他者の文脈を汲み取りつつ読み進めなければいけないけど、『情報』は答えに一本道でたどり着けるルートが用意されているから。

タイトル「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」、この問いへの著者の答えは「仕事以外の文脈を取り入れる余裕がなくなるから」。そして大切なのは他者の文脈を遮断せず、一見ムダな知識『ノイズ』をあえて受け入れること、それが働きながら本を読む一歩だと著者は言います。これには本当に同意するところで、わたしも、”風が吹けば桶屋がもうかる”ように、一見役に立たない本(や映画、音楽、美術、etc)がじんわり漢方薬のように自分の人生に効いていたとあとになって気づくことがありました。

いまの働き方の元凶とも言える「新自由主義」について触れた章も面白く読むことができました。新自由主義への懸念、前田裕二著『人生の勝算』への批評的な目線など、著者の論調のギアがグッと上がってドライブしてくるあたりがアツい!「ルールを疑うことと、他人ではなく自分の決めた人生を生きることは、決して両立できないものではないはず」という著者の熱いメッセージは胸に響きました。正直、ところどころ強引なこじつけに感じる部分もあるけれど、ある程度クセがある方が味がしてメッセージとして面白いと私は思います。ファスト教養的観点からすれば、クセや味なんてそれこそノイズなんでしょうけどね。

本も読めない(=趣味を心底楽しめない)社会を改善するには、美徳とされているストイックなオーバーワークを褒めるのをやめること。それからはじめようと著者は提示します。そして仕事も趣味も家事も、全身全霊でなく”半身”でこなすことだと。ストイックという幻想に縛られない生き方については最近自分も考えていました。私は若い頃、ストイックに求道的に生きて名を挙げて、「自分は何者である」という勲章を手に入れないとこの世にいてはいけない、とすら思っていたかもしれません。でも今は違います。自分が自分であるだけでいい、勲章は必要ない。”生きてることそれだけをもって、生きててOKという許可証だ”と思っています。SNSで散見される勲章の博覧会に心揺さぶられないように意識しています。

最後に思わず「そう!」と声が出た、私が大共感した文を引用します。
"好きなことを活かせる仕事── 麦(※映画『花束みたいな〜』の主人公)の言うとおり、それは夢物語で、モラトリアムの時期だけに描くことのできる夢なのかもしれない。しかし問題は、それが夢物語であること、ではない。むしろ好きなことを仕事にする必要はあるのか?趣味で好きなことをすれば、充分それも自己実現になるではないか?そのような考え方が、麦にとってすっぽり抜け落ちていることこそが問題なのだ"

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2025年11月16日

Posted by ブクログ

「読書は労働のノイズである。」
だから私たちは、働きながら本を読めなくなる。

なんという悲しい現実。
でも、この問題提起には、私は心から拍手を送りたいです。

「自立とは、依存先を増やすことである」
これは、医師であり当事者研究でも知られる熊谷晋一郎さんの言葉。

著者・三宅さんは、読書とは “他者の文脈に触れること” だと言います。
そう考えると、読書とは「依存先を増やす営み」とも言えるのではないでしょうか。

国家にも、組織にも、すべてを任せてはいけない。
自分の足で立つために——
だからこそ、私は “読む時間” を届け続けたい。

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2025年11月13日

Posted by ブクログ

労働について、社会現象の歴史とともに考察した論文として読むと面白いが、仕事しているとなぜ本が読めないかは、それぞれの事情があるのでは、というのが正直な感想だった。
これは労働の歴史における読書のあり方、論文です。興味深かったが、今はお勉強するより、溜まっている本が読みたい。

ここでいう仕事、というのは、決まった時間に通勤して、仕事して、また帰ってくる、主に都会の企業に勤めていることがほぼその意味を占めているようだ。
田舎に住んでいる自分のお仕事には当てはまらないが、そんな自分でも、仕事をしていると本を読む時間がとりにくくなるのは事実だ。
これは自分が「読書をしない」選択をしているだけで、読もうと思えば、読むことはできるのだ。
今、農閑期になり、ようやく読書三昧、かと思えばそうでもない。
安易にスマホでネットニュースを見たり、SNSを見たりする。とてもたくさんの情報が入ってくるのに、ほとんど記憶に残っておらず、翌日また同じようにネットニュースやSNSを見ている。
これか!いやこれはスマホ脳じゃないか。
今日は本を読むのだ、と決心しないと読書に取りかかれない状態になっているのだ(あくまで自分の場合)
本を読んでいて、調べたいことがあったらすぐに傍のスマホで調べることができる。その後、すぐに読書に戻らず、ネットサーフィンに移行してしまったり、読書中に、出てきた本を読みたくなって注文したりしていると、なかなか読書に立ち戻れないこともある。便利な世の中・・・いや読書が続けにくい。
なるほどと思ったのは、実用書は読書を「ノイズ」として認識するというところ。
確かに、必要な情報だけをストレートに提供する実用書よりも、いちいち想像力を使って読む小説などは、仕事をする上で不要であるし、ノイズになっているのかも知れない。
それをノイズとする労働環境というものは・・・なんか色々と論文を読み違えているような気がしてきたので、この辺りで。

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2025年12月03日

Posted by ブクログ

「半身で働く」
これは、今の日本人に大切なことだと思う。
所詮、仕事は仕事!
搾取されない!
そう割り切って働かないと、気がつかないうちにトータル・ワークになってしまう。

人生は有限である、ということを忘れてしまいがちだけれど、ふとしたときに思い出して、自分の生き方を見つめ直したいと思う。

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2025年12月02日

Posted by ブクログ

日本人の労働史、本や読書の立ち位置やその変遷はよくまとまっている。タイトルに対する筆者の解答は私の中の仮説とは違ってたけど、新しい着眼点!
ラストの提案は理想的ではあるけど「よし!明日から実践しよう!」とはできないのが残念…

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2025年12月01日

Posted by ブクログ

ネタバレ

完全にキャッチーなタイトルに惹かれてつい読んでしまった。読んでみると、明治、大正、昭和、平成と時代の変遷で人々がどのように読書に向き合ってきたか、どのような本が読まれたのか、など読書史や労働史がくりひろげられたのは予想外で、知らないことが多かったので面白かった。紹介されてた本をつい読んでみたくなった。残念だったのはまとめ。結局ワークライフバランスを考え直そうみたいな一般論に落ち着いてしまった感。

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2025年11月30日

Posted by ブクログ

ベストセラーゆえに手に取ってみた。時代に応じた読書の意味や異なる価値観を学術的にならずに平易にまとめてある点は読みやすく、多いに参考になった一方で、やや短絡的過ぎる印象。ノイズの有無に焦点を当て、情報と知識という2分割の整理や、ひろゆき氏のメッセージに対する肯定なども考え方の1つであるけれど、そこに行き着く充分な検証や論理の組立がない為、物足りなさを感じた。

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2025年11月30日

Posted by ブクログ

前に読んだ「人生を狂わす〜」でも思ったけれど、この著者は人に本を勧めるのがうまい
仕事なんだからというのは分かっているけれど、本が好きで書評を書いていることがビンビンに伝わってくる、まあ仕事なんだけど
本書はその仕事についての著者の向き合い方への提言が核になっている

「燃え尽きたくない、だからここでジッとしてる」と歌っていたのは高校のときの同級生だ

バーンアウトを称賛する全身全霊はやめて半身社会へ、魅力的な提言ではある

何にせよ本書で参照されている映画や本を次の機会に手にとってみることになると思う

参照されていた、インターネット的はすごい本だ
「リンク」「シェア」「フラット」

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2025年11月30日

Posted by ブクログ

こういうことを言ってくれる偉い人がいっぱい増えたらいいな。

働く時間が長いと、仕事に関係ない情報をノイズと捉えてしまう。読書はノイズが多いから、よりノイズが除去された情報を得たくなり、インターネットでファスト教養に走ってしまう。でも、ノイズを受け入れ、仕事以外の文脈を思い出すことが働きながら読書をすることに必要。
納得。

私はもっと働く時間を短くしたい、短くしても後ろ指さされないような環境にいきたい。

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2025年11月25日

Posted by ブクログ

ネタバレ

新卒一年目なんだけど社会人って本当に本読む時間ないです!!!!!!!全然本読めなくなって悲しい!!!!!
職種のせいかもしれないけど家帰ってご飯食べてお風呂入って寝る これだけで精一杯……
でもツイッターは開いてしまうし寝る前に本を読もうとしてもすぐに眠くなって寝てしまう。私生活が導入まんますぎるよ

はじめて新書読んだけど面白かった。本を読むことのあり方が時代によって変化していることがちょっと理解できた。2000年代以降人々が求める情報=インターネットで得る知識という図がめちゃくちゃ納得いきました。それを踏まえた上で『今の自分には関係のない、ノイズに、世界は溢れている。』という言葉がグッときた。わたしは読書をノイズだとは思ったことはないけれどそう思う人もいて、だから本ではなくSNSを開いてると思うからアプリを開くその手を止めてなんでもいいから本を開いてほしいと思う。
本を読むことでしか得られない体験や出会えない感情、自分の生活とは無縁だったことに出会えて感動すること衝撃を受けること人生が変わることってきっとあると思うので。読んでない人こそ本を読んでほしい!
働きながら本を読める社会をつくる、ほんとうにこうなってほしいし今すぐにむりなら本当に転職とか考えちゃうよ〜

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2025年11月23日

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