あらすじ
私立朱門塚女学院。
芸能・芸術の道を志す学生が集うこの学校で花菱夜風は、一度も学校に姿を見せない謎に包まれた生徒・橘棗(たちばななつめ)と出会う。
破壊的な描写と独特の色彩感覚で日常生活を風刺し、数々のフォロワーを集める棗は、同時に大きな欠点を抱えていた。
「普通の生活ができない」。
彼女を助けたことがきっかけで、夜風は棗との同居生活を送ることになるが、夜風も姉の身代わりとして性別を偽っているという秘密を抱えていて――。
感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
駿馬京著『あんたで日常を彩りたい』を開いたとき、最初は“概念をつらつらと語るだけの難解な作品かもしれない”という警戒心があった。ところが読み進めるうちに、その印象は心地よく裏切られる。抽象的な語りの奥には、確かな感情と人間の息づかいが脈打っているのだ。
この物語は、芸術という名の混沌を抱えながら、それでも他者と関わろうとする若者たちの「生」の記録である。天才と呼ばれる少女・棗の破天荒な感性、そしてその嵐のような日々に巻き込まれていく主人公・夜風の視点。そのふたりの交わりが、単なる知的遊戯ではなく、互いの“欠け”を補い合うような温度を帯びていく。
言葉や表現が時に難解に見えても、そこには確かに青春の手触りがある。芸術や才能という高尚なテーマを扱いながら、作品は決して遠くに行かない。むしろ、誰もが心の奥に抱く「誰かと何かを作りたい」という衝動を、鮮やかに照らし出してくれる。
「理解しづらい」と敬遠するには惜しい。むしろ、この作品は、日常に潜む“難解な美しさ”を見抜くためのレンズのような一冊だ。読み終えたとき、世界の輪郭が少し柔らかく見える──そんな静かな余韻を残す、豊潤な青春芸術譚である。