【感想・ネタバレ】人類すべて俺の敵のレビュー

あらすじ

「人類は、《魔王》によって滅ぼされるだろう」
突如、全人類の前に降臨した神はそう告げた。
1ヶ月ほど前から無差別に発生した不審死により、既に八億人もの命が失われていた。《魂魄剥離》と呼ばれるその現象が、あどけない少女にしか見えない《魔王》によるものと神は言う。
厄災を阻止すべく、人類を代表する十人の天使が選出され、《人類》対《魔王》――《聖戦》の火蓋が切られる。
震撼する世界で、ただ独り高坂憂人だけは少女を知っていた。彼女が世界の敵に仕立て上げられ、助けを求め手を伸ばすか弱き存在であると――。
ひとりの少女が為、世界に仇なせ。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

『人類すべて俺の敵』は、その過激なタイトルが示す通り、世界との断絶を選び取った一人の人間の内面を、徹底して描き抜いた作品である。しかし本作が描いているのは、単なる憎悪や反社会性ではない。むしろ、人と関わることの痛みや、理解されないことへの絶望が積み重なった末に生まれる「孤独の形」を、驚くほど誠実に掘り下げている。

主人公・憂人は、人類を敵と見なすほど極端な立場に立ちながらも、その思考や行動は決して空虚ではない。彼の言葉や選択の一つひとつには、傷ついてきた時間と、何度も裏切られてきた経験の重みが感じられる。読者は共感しきれない部分を抱えながらも、彼がそこに至るまでの過程を追うことで、「そうならざるを得なかった心」の存在を否応なく理解させられる。

本作の重厚さは、安易な救済や和解を提示しない点にも表れている。世界は優しくならず、憂人自身も劇的に変わることはない。それでも物語は、彼の孤独を否定せず、矮小化せず、ただ真正面から見つめ続ける。その姿勢が、結果としてこの物語に強い説得力と深い余韻を与えている。

読み終えた後に残るのは爽快感ではない。しかし、人間の弱さや歪み、そして社会との摩擦をここまで真摯に描いた作品は稀であり、読者に「人と生きるとは何か」「拒絶の先に何があるのか」を静かに問いかけてくる。本作は、心に重みを残すがゆえに価値があり、その重さこそが、この物語の誠実さと文学性を雄弁に物語っている。

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2025年12月19日

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