あらすじ
目が死んでいる以外特段目立つところのない女子高生・佐取燐香には家族にも隠している秘密があった。この世界には人並み外れた“力”を持つ者が存在すること。そして――自身もその一人であるということ。他人の精神に干渉する力をもつ燐香はその力を隠しひっそりと生きていくはずだったのだが……ある日巻き込まれたバスジャック事件で異能犯罪について独り捜査にあたる警察官・神楽坂と出会ったことをきっかけに、次第に異能犯罪の渦に飲み込まれていく――。ときどきポンコツな女子高生と正義にあつい警察官が挑む異能ミステリー、開幕!
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Posted by ブクログ
現実と非現実の境界を軽やかに飛び越えながら、「人の心の真実」を描き出す鮮烈な一冊だった。
『非科学的な犯罪事件を解決するために必要なものは何ですか?』は、異能と犯罪捜査という二つの要素を組み合わせながらも、単なる“能力バトル”に終わらない。そこにあるのは、人間の弱さと、それでも誰かを救おうとする意志だ。
主人公・燐香の不器用ながらも真っすぐな姿勢と、刑事・神楽坂の静かな信念。その二人が出会うことで生まれる化学反応が、この物語の大きな魅力だと感じた。非科学的な力を持ちながら、最も“人間らしい”感情で動く燐香の葛藤には、読んでいて胸を締めつけられるような温かさがあった。
物語のテンポは軽快で、事件の謎が解かれるたびに、見えてくるのは“能力”ではなく“心”の方。
結局のところ、非科学的な犯罪を解決するために必要なのは、論理でも奇跡でもなく――人を信じる力なのだと、静かに教えてくれる。
ラストに残る余韻もまた美しい。まだすべてが語られたわけではないけれど、それが逆に、彼女たちの「これから」を想像させてくれる。
この物語は、現実の中で諦めかけた希望をもう一度信じたくなるような、そんな“優しさのあるサスペンス”だった。