【感想・ネタバレ】abさんごのレビュー

あらすじ

「途方もないものを読ませていただいた」──蓮實重彦・東大元総長の絶賛を浴びて早稲田文学新人賞を受賞した本作は、75歳の著者デビュー作。昭和の知的な家庭に生まれたひとりの幼子が成長し、両親を見送るまでの美しくしなやかな物語である。半世紀以上ひたむきに文学と向き合い、全文横書き、「固有名詞」や「かぎかっこ」「カタカナ」を一切使わない、日本語の限界に挑む超実験小説を完成させた。第148回芥川賞受賞作。小説集『abさんご』より表題作のみ収録。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

最初読みづらくって、なかなか手をつけるのに時間がかかったけど、なんとなく読み進めるうちに夢中になってきて、もっともっと読み込みたかったけど返却日だった。時間をかけて練られた言葉が連ねられてるかんじで、印象に残っている大事な一冊になっていた。秘密めいていていい。

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2015年01月23日

Posted by ブクログ

ネタバレ

凄く良かった。

はじめ横書きページから読み進めて、
まるで呪文のような本だと思った。
文章が美しいのだけど、漢字と平仮名が
普段読んでいる文章と全然違う。
声に出さないと何を書いているか頭に全然入ってこない
音読しても、やっぱり入ってこない。
唯一頭に残ったのは、
親子の食卓に、新しい家政婦さんが
自分の食事を同じテーブルに並べて食べる事に
戸惑っているシーン。
そこは印象的だった。

難解なので、諦めようかと思ったら、
後ろから縦書きの小説が始まっていた。
相変わらず言い回しが独特だけど
漢字があって読みやすかった。
内容も前半が難解だった分、すっと入ってきた。

ちょっとした日常の中の女の子の心情が書かれていて
自分の幼いころと照らして面白かった。
最後はちょっとぞくっとしたけど
この子ならきっと有り得る、と思った。

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2014年02月10日

Posted by ブクログ

ネタバレ

横書き、ひらがな多用、点はコンマで丸はピリオドと、いままで見たことのない自由に書かれた作品。ひらがなが多くて読み辛いので何度か読み返した。最後は音読してみて大まかなことは頭に入ったけど、それでも難しい表現が多くて全部は理解できてないと思う。
aにもbにも行かずくるくるとこまのようにまわる。さんごは読む前「珊瑚」と思ってたけど、3✕5=15編の物語なの? いろいろ曖昧でほわほわとした世界。

4歳の子と片親が亡くなりもうひとりの片親との日々の暮らし。固有名詞はいっさい書かれずその都度主語が変わるので性別も曖昧。幼子、幼児、小児とか、片親、持ちぬしとか。多分娘と父なんだろう。登場人物が見えてきたら少しずつわかってきたけど、でもやっぱりわかってないことのほうが多いかも。日を追うごとに年齢表記までも主語になってきたりして、メモ書きながらも読んだ。少し歳の離れた親と子。
この間に割り込む人物「家事がかり」のために二人の仲はぎこちなくなっていくが、この人はあくまで脇役だと思いたい。最初から最後までふたりのほわほわした幻想的な物語なんだろうな。

反対側から始まる「鞠」他二編、計三編。のほうは普通に書かれてたしわかりやすいけどあまり好きじゃない。主人公が好きか嫌いか、感情移入できるかできないかの問題。

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2013年07月17日

Posted by ブクログ

ネタバレ

目次
・abさんご
・毬
・タミエの花
・虹

ページをめくって、戸惑います。
横書き、というのは知っていましたが、驚くほどひらがなの量が多いのです。
だから最初、何が書いてあるのかを読み取ることに、苦労しました。

”ふりだしの家の二そう目のぜんぶは書物とその持ち主とが領していて、三そう目からおりていく者は、寒くない季節にならあけとめてあることも多い片とびらから、(後略)”
「ふりだしの家の二そう目」とはこれ如何に?
私は最初脳内で、「二艘目」と変換していて、なぜ突然船の話なんだろう?と思っていたのだが、かなり読んでから突然「二層目」である事に気付き、つまり家の二階の話だったと腑に落ちたのだ。

章によって時系列は前後するが、要は、母を早くになくした主人公の少女と、父と、家政婦として家に入り込んでのちに父の後妻になる人との関係を、固有名詞を使わずに、時に一般名詞すら使わずに書いてある。

後妻になる人も、ちょっと変だ。
使用人としてこの家に来たくせに、最初から家族のように一緒に食卓に着く。
家事をするために雇われたのに、週の半分は今までの仕事を続ける、家事は嫌い、等。

しかし今まで父と娘の二人だけの世界で暮らしていたので、今更波風を立てるのも…という感じで妥協していくうちに、父はいつの間に彼女を後妻に迎えることになり、娘は家を出て苦しい生活をしていくことになる。
家で同然で家を出たので、父の死の間際まで実家に戻ることはなかった。

思春期の娘だから、家政婦の女性に嫌悪感をもったのか(父を取られるという危機感)、本当に女性が耐えられないくらい嫌な人間だったのか。
腹を割って話さない父娘は、最後まで本音を語ることはなく、ただアイコンタクトで何かを伝えられたのか。
私には娘の恨み節のような思いが残されたような気がするが。

本の後ろから縦書きで書かれているのが『毬』『タミエの花』『虹』の連作。
貧乏で、給食もろくに食べることができず、友だちとの遊びも不器用なタミエが、『虹』の最後の最後に語る衝撃の事実。
どうしてそうなった?

どちらにしろ、読者置いてきぼりで突っ走るタイプの作者なのだと思った。
いい意味で。

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2025年05月10日

Posted by ブクログ

ネタバレ

一番面白かったのは『abさんご』。この異色作を楽しむには「予備知識」があった方がいいかもしれない。

1.固有名詞を使わず、横書きの小説。文章は「ひらがな」が多くなる。日本語の句読点ではなくコンマやピリオドを使用。この視覚効果のため読みにくいし、内容が曖昧になる。

2.曖昧な内容のため、登場人物の性別まで曖昧になる。重要な登場人物は「語り手・片親・家事がかり」の三人で、「語り手は女性・片親は男性・家事がかりは女性」と思われるが、これが正しいとは限らない。

3.物語の内容はシンプル。「語り手は幼くして親を失い、残った片親と暮らしていた。そこに、ある家事がかりが同居して親子水入らずの生活が終わる。語り手と片親は『流されやすい性格』のため、家事がかりが『家の主』になり、成長した語り手は家出し、元家事がかりと暮らしていた片親も死去する」というストーリー。

4.『abさんご』の中で語り手は成長し、片親も老いてゆくが、この小説の「時間の経過」は曖昧にしてある。そこで「太陽系」をイメージすればいい。

まず、「片親の死」という「太陽」があり、その周囲を「さんご(3×5)=15の章」が地球や火星のように「太陽」の周囲を回っている。「片親の死(太陽)」を前に、語り手が「15の星(過去の記憶・片親と自分の流されてきた人生など)」を思い浮かべている。

『abさんご』を攻略するには、こんな風に「片親の死」だけを頭に入れ、「時間の経過」を無視して、「15の星」を一つ一つ読んでいけばいい。

5.「流されてきた人生」には、忌まわしい記憶や苦い思い出もある。が、「abのどちらでもなかった」という最初の章と、「abを選ぼうとして『こま』のように回転し、選べなくても笑いながらやり直す片親と自分」という最後の章が一本の線になった時、「生死を越えた親子の絆」も見えてくる。

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2013年05月20日

Posted by ブクログ

ネタバレ

表題の『abさんご』は、ひらがなの多い横書きの物語という点だけでは児童文学かのような印象であるけれど、実際には正反対に集中して読み進めないとすぐ迷子になるような難解な上級者向けのお話しでした。記憶が曖昧になりがちな昔の思い出話の感情の部分、印象的な情景を、滲ませたり、ぼかせたりしながら書いているような、絵にすれば水彩画のような世界観だなぁ、と思いました。縦書きの3部作『毬』『タミエの花』『虹』はタミエという少女が主人公。毬を上手くつけなくて不器用だったり学校をサボって草花と戯れることが好きだったり、大人受けはしない子供だけれど、読んでいると自分が子供だった時もこんな感覚だったかも、と思えるほどに親近感を感じました。大人には理解不能な子供の心理描写が細かいです。でも『虹』の最後の方で明らかになったタミエの過去が衝撃でした。セピア色の昔の写真を見ているような作品ばかりでした。

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2020年06月14日

Posted by ブクログ

ネタバレ

abさんご…書かれていることは特別のことではない情景です。
描かれている家族の話自体は、ありがちな物語でしょう。

例えばこれを映像化してそれを様々な人に逆に文章に起こさせたら、
それ程の表現をもってしなくても万人にあっさりと読みやすく表現されてしまうのではないでしょうか。
ということでこれは、物語を読む小説ではなく表現を読む小説なのだなと思いました。

ひらがな、漢字の「場所」をよく考え抜かれたのでしょうね。
これは若くしては書けない技法だと感じました。
難しく感じる言葉や表現に漢字が多く、感情や独特の言い回しを
多用する箇所にひらがなが多く用いられているように感じました。
それは私個人の感覚で実際は違うのかもしれませんが。

縦書きの方の「タミエちゃん3部作」(と勝手に呼びますが)は
不穏な空気に満ちています。子供ってでも実際にタミエちゃんのように
手を下さなくてもこんな不穏さは持ち合わせているものです。
見逃しがちなところをうまく掬い上げていると思います。

でも、この小説そのもの云々と言うよりも、この3部作と受賞作との間に
半世紀ほどの時が流れている、ということの方に感慨を感じます。
よくぞ続けられたなと文学に懸ける信念を感じます。

黒田さんの独特な感性から発せられた言葉をもって
違う文体で書かれた作品がいつでてくるのか、興味津々です。

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2013年08月28日

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