感情タグBEST3
Posted by ブクログ 2023年01月15日
爆裂に読みづらいけどきっとすげえ名作に違いない!
だって芥川賞だぜ!?
って思いながら読んだけど意味がほとんど頭の中に入ってこない!
もうすごいな!
ははは…本当に同じ日本語かよ…表題作もそうだけど、収録されている普通の文体の方もなかなか強者で、私ただ文章の美しさに見惚れていたのであった。
ただこ...続きを読むこまで文章が理解できなかった本について感想を書くこと自体がはばかられるため、私は個人的には「虹」が一番好きかなって感じである。
芥川賞作家がみんな多作かというとそんなことなくて、この本のようなきっとすごく特殊な事例もある。
この本が世に出てきて、正当に評価された…それ自体素晴らしいこと!
Posted by ブクログ 2022年01月19日
正直、読むのはかなり苦痛だった。読みにくいし、ストーリーも面白くないと思った。
それでも、他にない文体を持つ小説という一点で芥川賞受賞、そして後世に残すべき作品であると思う。こういう書き方があるのか、という驚きがある。
Posted by ブクログ 2018年07月08日
みるく色のそらと,みるく色のうみのあわいで,はい色をしたにほんごが,きまぐれにたゆたっていました.
このそらはきおくで,このうみはゆめなのかもしれませんでした.だから彼女が,彼女だけが,みるく色にゆびをひたし,まどろむにほんごをすくい出すことができました.すくい出したにほんごを,(彼女にとって)ふさ...続きを読むわしい頁へ,(彼女にとって)ふさわしいにほんごのとなりへそっとよこたえ,いみを,けしきを,もの語りを,めざめさせることができたのでした.
Posted by ブクログ 2018年01月06日
芥川賞受賞作である「abさんご」と著者が二十六歳の時のデビュー作、他に二編の合計四編の短編が「リヴァーシブル形式」で掲載されている。
「リヴァーシブル形式」がどういうものかは、本屋さんで手に取って確認してください。
まずデビュー作である「毬」。
そしてその「毬」と同じ少女が主人公である「...続きを読むタミエの花」と「虹」の三篇。
少女の名前は「タミエ」。
けっして良い子ではない……というよりも今だと「問題児」扱いされるのかな。
読んでいるうちに僕なんかはこの「タミエ」にどうしようもなくシンパシーを感じてしまった。
なんとなく「タミエ」のことが理解出来てしまうように感じられるし、特に「タミエの花」における、自分の世界を必死に守ろうとするタミエの姿には共感できた。
そんな心理状態で「虹」を読んだから、けっこう衝撃は大きかった。
タミエが思い出した幼少時の出来事。
果してこの出来事を知ってからも、タミエに対してシンパシーを抱き続けることが出来るかどうか。
三篇ともとても面白く読めた。
さて受賞作の「abさんご」。
ネットで検索してみると「難解」だの「読みづらい」だの「読者に不親切」だの「こんなのが芥川賞?」なんて書き込みが結構見受けられた。
結論から先に言ってしまえば、少なくとも僕にとっては難解でも読みづらくもなかった。
確かに「実験作」ではあると思う。
かぎかっこや固有名詞を使用せず、漢字もかなり開いてひらがなを多用する。
しかも縦書きではなく横書きで掲載する。
そんなあたりは「実験作」だな、と思える。
でも決して読みづらくはなかった。
ひらがなをいちいち頭の中で漢字に変換して云々している方もいるみたいだけど、僕なんかは前後の文章から意味が解れば、いちいち漢字になんか変換することなどしなかった。
横書きの文書にしたって、ネット上では殆どが横書きだし。
問題は「固有名詞」を使用していない、ってことにあるのかな、なんてことを感じた。
例えば単語で「蚊帳」と書けば一言で済むところを、文章で三行費やして表現していたり、「傘」と書けば一言で済むところを「天からふるものをしのぐどうぐ」と表現していたりする。
このあたり、読む人によってはとてもうっとおしく感じるのかも知れない。
あるいは回りくどく感じ、それが結果として「読者に対して不親切」あるいは「著者の独りよがり」という印象となるのかも知れないな、と推測してみたりする。
僕なんかはこういう表現をされると、「はて、これは一体何を意味しているんだろ」と、ああだこうだと考えることが出来て非常に楽しい。
あるいは「こういう言い回しも出来るんだ」と新しい文体を獲得できて得した気になったりもする。
「読者に不親切」どころか「著者のサービス精神満載のプレゼント」みたいに思えてしまうのだ。
この受け取り方の違いがこの作品の評価を大きく分けているのかも知れない
もちろん、どちらの受け取り方が良い、悪いではない。
ましてはどちらが正解でどちらが不正解なんてことではない。
ただ、「ちょっとこの表現は強引に結びつけすぎなんじゃないかな」なんて思える箇所も正直あったりもした。
きちんとしたストーリーも存在している。
読み始めは少し曖昧模糊としているだろうが、読み進めるうちに明確なストーリーは浮き出てくる。
ただ、浮き出てくる前に「読みづらい」ということで放棄されてしまう可能性もあるのかなと思う。
それと時間軸が結構幅広くあっちいったりこっちいったりする。
しかも視点はこの物語を語る人物の一人称なのだけれど、この人物の幼年期を回想したりする場面では、あえて俯瞰した三人称的な視線を使用したりしている。
このあたりのブレ(いやいや、ブレじゃないんだけどね)も、読んでいて難解な印象を与えてしまうのかもしれない。
そういえば「abさんご」ってどういう意味なんだろう・
aとbがさんごのように分岐しているってことなのだろうか。
そしてどちらを選ぶか。
まるで人生の岐路を表しているのかもしれない。
当作品の冒頭ではaもbも選択されない。
当作品の最後ではaからもbからもさまざまな匂いがあふれよせてくる。
ちなみにこの最後の箇所、泣きそうになってしまった。
自分なりに色々と分析らしいこともしてみた(柄にもなく、ですね)。
それだけ、色々なことを考えさせてくれた。
いずれにしても、非常にクセのある作品だと思う。
だから評価もかなり大きく分かれると思う。
僕にとっては、これは非常に面白い作品だった。
前にも書いたけど、決して難解な作品でも読みづらい作品でもなかった。
少なくとも「実験作」ではあるが「前衛作品」だとは思えなかった。
Posted by ブクログ 2015年01月23日
最初読みづらくって、なかなか手をつけるのに時間がかかったけど、なんとなく読み進めるうちに夢中になってきて、もっともっと読み込みたかったけど返却日だった。時間をかけて練られた言葉が連ねられてるかんじで、印象に残っている大事な一冊になっていた。秘密めいていていい。
Posted by ブクログ 2014年03月17日
雑誌で出たときに読んでたけど、単行本買って再読。早稲田文学7での対談読んでからの再読だから、前よりも多くの言葉に良い意味でのひっかかりを感じることができた。あの時間の遠近感が、自分が子供だったころの懐かしい諸々(もちろん負の感情も)を思い出させてくれる要因かも。人が嫌いで興味が薄く、物ばかり書いてい...続きを読むるという黒田さん。言われてみればその通りだ。なんせ片親がどちらの親かすら書かれてはいないのだから。物や景色、見えたもの見えなかったもの、使われなかったもの、「言えなかった」という事実だけが残る言葉たち。過ごさなかったもうひとつの時間。自分の来し方をこんなふうに綴ることができたら素敵だ。
Posted by ブクログ 2014年02月10日
凄く良かった。
はじめ横書きページから読み進めて、
まるで呪文のような本だと思った。
文章が美しいのだけど、漢字と平仮名が
普段読んでいる文章と全然違う。
声に出さないと何を書いているか頭に全然入ってこない
音読しても、やっぱり入ってこない。
唯一頭に残ったのは、
親子の食卓に、新しい家政婦さんが...続きを読む
自分の食事を同じテーブルに並べて食べる事に
戸惑っているシーン。
そこは印象的だった。
難解なので、諦めようかと思ったら、
後ろから縦書きの小説が始まっていた。
相変わらず言い回しが独特だけど
漢字があって読みやすかった。
内容も前半が難解だった分、すっと入ってきた。
ちょっとした日常の中の女の子の心情が書かれていて
自分の幼いころと照らして面白かった。
最後はちょっとぞくっとしたけど
この子ならきっと有り得る、と思った。
Posted by ブクログ 2013年07月17日
横書き、ひらがな多用、点はコンマで丸はピリオドと、いままで見たことのない自由に書かれた作品。ひらがなが多くて読み辛いので何度か読み返した。最後は音読してみて大まかなことは頭に入ったけど、それでも難しい表現が多くて全部は理解できてないと思う。
aにもbにも行かずくるくるとこまのようにまわる。さんごは読...続きを読むむ前「珊瑚」と思ってたけど、3✕5=15編の物語なの? いろいろ曖昧でほわほわとした世界。
4歳の子と片親が亡くなりもうひとりの片親との日々の暮らし。固有名詞はいっさい書かれずその都度主語が変わるので性別も曖昧。幼子、幼児、小児とか、片親、持ちぬしとか。多分娘と父なんだろう。登場人物が見えてきたら少しずつわかってきたけど、でもやっぱりわかってないことのほうが多いかも。日を追うごとに年齢表記までも主語になってきたりして、メモ書きながらも読んだ。少し歳の離れた親と子。
この間に割り込む人物「家事がかり」のために二人の仲はぎこちなくなっていくが、この人はあくまで脇役だと思いたい。最初から最後までふたりのほわほわした幻想的な物語なんだろうな。
反対側から始まる「鞠」他二編、計三編。のほうは普通に書かれてたしわかりやすいけどあまり好きじゃない。主人公が好きか嫌いか、感情移入できるかできないかの問題。
Posted by ブクログ 2013年05月31日
少しずつ読みすすめる物語。
この感覚が心地良い。
黒田夏子さんがテレビ番組で特集されていて、気品のある落ち着いた佇まいにほっとしたと、同時に、本屋へ走った。
著者も何十年もかけて書き綴ったのだから、私は何十年もかけて読みたい。
固有名詞や時間の流れに留められない文学がある。
難読には変わり...続きを読むはないが、難解ではない。
平仮名と漢字の波に呑まれるリズムが懐かしいようで、優しい。考えられるだけの思いやりと愛が書かれた本だと思う。
Posted by ブクログ 2021年01月09日
わかるひとにはわかるのだろう
そう書いている人じしんがよくわかっているのかは
じしんにもなに一つかくしょうはないまでも、もしくはほぼそれはないと思われてもなお
いつのまにかひきこまれ限りなくあたたかいきもちにさせられる作品
Posted by ブクログ 2014年01月24日
最初は読みづらく感じたが、三章ほど読めばだんだんになれてきてさほど苦もなく話の筋は理解できた。ストーリーはかなりあっさりとしていて、簡単にいうと、死んだ父親との関係とそれをこわした家政婦のことを軸に、自分の半生をふりかえり、もっといろいろできたけど何もしなかったなあ、という話。あらわしきれなかった家...続きを読む族への愛、そして家政婦への憎しみ...けっして美しい話ではなくむしろとてもどろどろとした話だ。美しいのはいつでも溢れている過去・空想・選択肢と、それをあたかも水に浮かべたかのような文体。最後まで読んだらかならず第一章に戻ってほしい。時系列では最初が一番後の話で、一見尻切れトンボなラストを補完してくれる。
Posted by ブクログ 2013年08月28日
abさんごは2012年早稲田大学文学新人賞受賞、「毬」「タミエの花」「虹」は1963年読売新聞短編賞受賞。その間50年半世紀あまり。一作家の時を経てその作風がわかる。「abさんご」は75歳で芥川賞受賞という話題性もさることながら横書きひらがな多用な文章で個性が群を抜く。読みづらいことをがまんして読み...続きを読む進めると不思議なことにそれに慣れてくる。言葉の表現の美しさに感心しながら読み終えたとき、ぼんやりとこの作品の姿がみえてきた。一人っ子の生い立ちから大人になって両親を見送るまでの物語。
aとb、aかbか、選択しなかったもう片方はどんなだろう。など、文章のあちこちに垣間見えることがこの作品の意図でしょうか。
「毬」他二作はタミエという少女を通して見る世界。子どもが解釈する大人社会や境遇が謎めいてみえる。こんなふうに子どもの頃はみえたのかななど懐かしさとともに怖さを感じた。
時間を費やしました。
Posted by ブクログ 2013年08月07日
いろいろな読み方があると思うが 自分は(お風呂で)音読して楽しんだ。 言葉と その紡がれた後のリズム感を 作者自身が楽しんで選んでいる というか とても熱意を以て追及しているという様な 「形式」への試みが感じられて楽しかった。 文字についても その音や 印刷された時の見た目など 日本語というものの魅...続きを読む力を 思いがけない角度から提供しているのだが それが実験的な押しつけがましさに終わっておらず 素直に楽しく読めた。 目で耳で何度も読み返したい そんな物語。
Posted by ブクログ 2013年05月20日
一番面白かったのは『abさんご』。この異色作を楽しむには「予備知識」があった方がいいかもしれない。
1.固有名詞を使わず、横書きの小説。文章は「ひらがな」が多くなる。日本語の句読点ではなくコンマやピリオドを使用。この視覚効果のため読みにくいし、内容が曖昧になる。
2.曖昧な内容のため、登場人物の...続きを読む性別まで曖昧になる。重要な登場人物は「語り手・片親・家事がかり」の三人で、「語り手は女性・片親は男性・家事がかりは女性」と思われるが、これが正しいとは限らない。
3.物語の内容はシンプル。「語り手は幼くして親を失い、残った片親と暮らしていた。そこに、ある家事がかりが同居して親子水入らずの生活が終わる。語り手と片親は『流されやすい性格』のため、家事がかりが『家の主』になり、成長した語り手は家出し、元家事がかりと暮らしていた片親も死去する」というストーリー。
4.『abさんご』の中で語り手は成長し、片親も老いてゆくが、この小説の「時間の経過」は曖昧にしてある。そこで「太陽系」をイメージすればいい。
まず、「片親の死」という「太陽」があり、その周囲を「さんご(3×5)=15の章」が地球や火星のように「太陽」の周囲を回っている。「片親の死(太陽)」を前に、語り手が「15の星(過去の記憶・片親と自分の流されてきた人生など)」を思い浮かべている。
『abさんご』を攻略するには、こんな風に「片親の死」だけを頭に入れ、「時間の経過」を無視して、「15の星」を一つ一つ読んでいけばいい。
5.「流されてきた人生」には、忌まわしい記憶や苦い思い出もある。が、「abのどちらでもなかった」という最初の章と、「abを選ぼうとして『こま』のように回転し、選べなくても笑いながらやり直す片親と自分」という最後の章が一本の線になった時、「生死を越えた親子の絆」も見えてくる。
Posted by ブクログ 2013年04月24日
『じっさいには,そのときの幼児の身たけに見あうごく小ぶりの傘にはそれほどしゅるいがなかったので,おとなたちどうしのやりとりはたちまちすんでしまい,うなづくことだけがうながされているばめんでうなづいただけの者は,でもしきりになにか言いたかった.』
夢の描写に脚色を加えることが一切禁じられたら、そこに...続きを読むは明確な筋道や物語は決して存在し得ないような気がするのだが、「abさんご」の文字列が構築する世界はひょっとするとその正確性が求められている夢の描写なのかも知れないと思う。ここで進行している物語めいたものが、現在進行形ではなさそうなことは比較的容易に想像がつき、過去の記憶の断片が言葉に置き換えられつつあるのだなと、すっと了解される。しかし、その先に広がっているだろう世界のことが解らない。何処にも辿り着けない、置き去りにされた印象が頁を繰る毎に深くなる。
横書きにされた文章の読み難さは、左程言葉と言葉の構築する世界を隔てているようには感じられないのだが(馴れれば情報が左脳から右脳へ引き渡され咀嚼されるまでの時間差を意識することはなくなる)、咀嚼されたものを眺めても、それがまるで初めて学んだ外国語のセンテンスを何とか意味のある日本語に置き換えただけの文章を眺めた時に感じるものと同様の感慨しか受け止められない。読み終えた頁だけが増えてゆく。知らず知らず積もって来るようなものが手許に残らない。
方や、縦書きの文章の方を読むと、そこには確かにかなを多用して横書きにされた文章を産み出した作家と同じ作家がいることは解るが、こちらの物語はもう少し雪の上の足跡のようなものを残している印象を持つ。しかし、それとて束の間の痕跡だろうと受け止めた瞬間に達観してしまうような淡い痕跡である。ただ、道という言葉がたちまちアスファルトで舗装されたそれを意味しない時代を生きて来た世代である自分の遠い記憶と呼応するものがここにはあり、苦く甘い郷愁を呼び覚ましはする。ただ、それをいつまでも自分が抱えていたいのか否か、そこを予期していなかった角度から責められたような心持ちにはなる。
しかし、やはりそこから何処へも動いてゆかない、のである。そしてそのことを少し訝しく思っている自分がいることを誤魔化すことは出来ないのである。
Posted by ブクログ 2013年04月17日
とてつもなく、客観的な状況でしか自分を見つめることができなかった主人公を、とてつもなく客観的な文体で書いた、作品。この客観性がより一層人間の孤独を照らしている。
近年の芥川賞らしからぬ作品である。
Posted by ブクログ 2013年03月19日
母国語以外の小説を読んだらこんな感じなのかと思った。輪郭がなんとなくぼやけていて決定的なことがない。
感覚を頼りに読み進める。固有名詞がないというのは、読み手の創造をいくらでも広げてくれる。読んでる時にしか存在しない小説。または言語の起源。
Posted by ブクログ 2018年07月24日
父と子との記憶をめぐる、冷たく、鋭く、やわらかい空気につつまれた物語。たぶん。
なぜ「たぶん」かというと、ご存知の通り、すっげーーー読みにくいから。ストーリーを万全に把握できたかどうか自信がないのです(笑)。横書き、特徴的なひらがな使い、オリジナルな呼称(固有名詞を使わないんでしたっけ)、そして独...続きを読む特の言い回し。第一章のあたりでは何も頭に入ってこなくてどうしようかと思った。しかし大丈夫、不思議と慣れる。そして、気づいたら黒田ワールドに魅入られている。
受験勉強で大量に解いた古文の問題に似ていると思った。いっぺん目を通すだけでは、するりとは理解できない。でも文章の間にただよう香りは非常に素晴らしくて、よく分からないながらもウットリする。そうして読み慣れていくうちに、大量のひらがなと少しの漢字が織りなすリズムや、筆者の視点を含ませた言葉づかいが面白くなるのだ。
たとえば<しるべ>の章。妻or母を亡くした父と子。時がたち、用いていた提灯がボロくなってきたのにつられて、毎年のお盆もいつしか止めてしまうというくだり。
「死者があってから十ばかりの夏がめぐったころ,物も疲れ人も疲れた.死者の配偶者と死者の子とは成熟の出ぐちと入りぐちとへそれぞれにいっそう近づきいっそう押しつめられてあわただしいあけくれになっていた.」
どうですか、この描写。すごくないですか。うまくいえないけど。
ストーリーはさほど目新しいものではない。いや結構衝撃なんだけど(あんな乗っ取りアリなのか?)、あまりに語り手が淡々としているので「あ、ああ…」って感じでこちらも受け入れてしまう。その諦念に近いクールさこそ、描かれた父と子の真髄である気もする。
正直に言うと、半分くらいまでは「これ、縦書きで普通に書いてくれないかな…そしたら結構好きだと思うんだけど…」と思ってた。しかし読み終わるころには、ぼうっとして気持ちのよい世界にいて、終わっちゃうのが寂しくなった。まあ、300枚読まされたらかなり苦痛だとは思うけど(笑)。読み返すたびに、新しいものが感じられる気がして、まだまだ楽しみ。
Posted by ブクログ 2020年12月11日
横書き、ひらがな多めの小説ということで、以前から気になっていた一冊。
ひらがなが多いと、どうしても言葉の区切り方が分からなくなってしまい、読み切るのに時間がかかった。
ぶっちゃけ、話の内容はほぼほぼ頭に入ってこなかったし、理解しようとしても無理だった。
ストーリーが面白いのかはさておき、古風な言葉遣...続きを読むいというか、これぞ『美しい日本語』な感じの、声に出して読みたいような、ことばの柔らかい響きが印象に残った。
Posted by ブクログ 2020年06月14日
表題の『abさんご』は、ひらがなの多い横書きの物語という点だけでは児童文学かのような印象であるけれど、実際には正反対に集中して読み進めないとすぐ迷子になるような難解な上級者向けのお話しでした。記憶が曖昧になりがちな昔の思い出話の感情の部分、印象的な情景を、滲ませたり、ぼかせたりしながら書いているよう...続きを読むな、絵にすれば水彩画のような世界観だなぁ、と思いました。縦書きの3部作『毬』『タミエの花』『虹』はタミエという少女が主人公。毬を上手くつけなくて不器用だったり学校をサボって草花と戯れることが好きだったり、大人受けはしない子供だけれど、読んでいると自分が子供だった時もこんな感覚だったかも、と思えるほどに親近感を感じました。大人には理解不能な子供の心理描写が細かいです。でも『虹』の最後の方で明らかになったタミエの過去が衝撃でした。セピア色の昔の写真を見ているような作品ばかりでした。
Posted by ブクログ 2016年02月21日
芥川賞受賞作「abさんご」。過去の最高齢での受賞記録を塗り替えたことや、横書きという珍しい書式や、他にも直木賞を受賞したのが平成生まれとしては初の朝井リョウという年齢の差が注目を浴びた。
中身は、平仮名と漢字の使い方が独特なため、読み難い。加えて、似たような言葉を敢えて反発させた様に書いたり、その...続きを読む影響で一文が長くなったり、話し言葉かと思えば書き言葉だったり、誰も喋ることはない。海外の小説を翻訳が下手な人が遠まわしに訳した様な、そういうのに似た印象を抱く。物語も断片的で、周りや芥川賞の書評か何かで見た、”物語をさっと読んで欲しくない”という狙いを上手く落とし込んだのが、こういう物語になったのだろうか。言葉選びは、かなり時間をかけ、接いできた、というニュアンスに嵌まり込んでいる印象はあるが、音やリズムの無い、短調にして複雑な文章。明確な時代は記されていないが、戦時前後の空間を思わせたり、「百年の孤独」の蒸した風にも感じられた。およそストーリーと呼べるか判らない、文字を感覚で読むための本だと思う。蓮實重彦が言う、「凄い」とは、さてどこにあるというのか。
縦に書かれた三つの短編小説は、情景がよく記されている、いずれも記憶に残りやすい、小説だった。
Posted by ブクログ 2015年02月26日
何言ってるかわからない。
その原因の半分は主語の曖昧さからくるものではないかな?
モザイクかけてわからせないようにする。年長者とか、先に死んだ両親とか、すべて漠然とした代名詞。
それは、幼年期の視点、なのかもしれない。最後の方に書いてあるが、6歳なのかな。そこに至るまでの断片的記憶。
われわれが推測...続きを読むする幼児の視点。実際のことなんて、そのまま覚えてる人はいないし、仮に覚えていたとそのイメージが真実なんて保証はない。
その幼児期の人称不在や不透明に、意味の無限定性を文章と内容に織り込むと、これだけカオスになるのかもしれない。
実験は実験だし、きれいな文章と言えなくもない。
ただ、文学愛好家のための閉ざされた文学ではある。少なくとも、この実験は前衛ではないと思う。そして、本来の日本語の無限定性は、平易な文での意味の二重性に向かうべきではないか? と仮説。
Posted by ブクログ 2013年12月07日
表紙からの横書き、中書きをはさんで、裏表紙からの縦書きの作りは面白かったです。
まるで一冊のアート。
何回かくり返し読みたいです。新しい解釈がその都度でてきそう。
Posted by ブクログ 2013年08月28日
abさんご…書かれていることは特別のことではない情景です。
描かれている家族の話自体は、ありがちな物語でしょう。
例えばこれを映像化してそれを様々な人に逆に文章に起こさせたら、
それ程の表現をもってしなくても万人にあっさりと読みやすく表現されてしまうのではないでしょうか。
ということでこれは、物語...続きを読むを読む小説ではなく表現を読む小説なのだなと思いました。
ひらがな、漢字の「場所」をよく考え抜かれたのでしょうね。
これは若くしては書けない技法だと感じました。
難しく感じる言葉や表現に漢字が多く、感情や独特の言い回しを
多用する箇所にひらがなが多く用いられているように感じました。
それは私個人の感覚で実際は違うのかもしれませんが。
縦書きの方の「タミエちゃん3部作」(と勝手に呼びますが)は
不穏な空気に満ちています。子供ってでも実際にタミエちゃんのように
手を下さなくてもこんな不穏さは持ち合わせているものです。
見逃しがちなところをうまく掬い上げていると思います。
でも、この小説そのもの云々と言うよりも、この3部作と受賞作との間に
半世紀ほどの時が流れている、ということの方に感慨を感じます。
よくぞ続けられたなと文学に懸ける信念を感じます。
黒田さんの独特な感性から発せられた言葉をもって
違う文体で書かれた作品がいつでてくるのか、興味津々です。
Posted by ブクログ 2013年08月14日
輪郭をぼやかすかんじで外堀を埋めていく文章。
慣れるまではすこし大変だけど、慣れてしまえばこれほど感情に自然に上手に訴えかけてくる方法は他に無いのではないかと思えてくるほどくせになる。
Posted by ブクログ 2013年08月06日
【チャレンジ】を感じてしまった。
75歳の新人女流作家さんに。
しかし、読みにくかった・・・。
文字数少ない、薄い本なのですが。
綴じ方が逆【左くみ】、横書き、カンマ、ピリオドの句読点。
ひら仮名!カタカナ見当たらない・・・。
あとがきじゃなくって『なかがき』があって。
それ以降は。
綴じ方逆の...続きを読む【右くみ】縦書きの短編みっつ。
主人公の名前がおんなじなので連作かな。
慣れてからも【お経】かも?との錯覚。
朗読しているつもりで読んでいくと。
進めます。
でも、ページ飛ばしても、なんか、読めていくのだろうな。
と、感じる不思議感の中で進めたな。アタシ。
小児の周りを書いているのですが。
何しろ、そもそも、不思議なところに住んでいる。
引っ越した???
そして数は漢数字で目だつのだけど
年でを表していて、その幅が広い。
~十七さいが十九さいより~
~五十四さい~
さすが75歳の作者!
~二十ねんないし、二十六ねん半~
と、簡単に。時の流れを、たいしたことじゃないよ。
みたいな、感覚の中に閉じ込められた、みたいでした。
でも、ラスト
なんとなく、良かった。と、思えるお話でしたわ・・・。
Posted by ブクログ 2013年05月13日
山田詠美が評するのが当たっている気がする。「禁じ手」あるいは「恥ずかしくてできない手法」だけれども,謎解き的なミステリー要素が受けるというのはわからなくもないが。また,テーマの純粋さ(なにもなさ)が物語を支えている気もする(何かありそうで,その実,何もない)。
Posted by ブクログ 2013年05月04日
言葉の紡ぎ方といっていいのかどうかはわかりませんが、読めば読むほど、作品の世界に取り込まれました。
文章に、たくさんのことが練りこまれて、それから手間をかけて、選び、そぎ落とされた感じがしました。
さすがに、年を取ってからの受賞ですね。
長い間、熟成されていたお酒のような、独特の重さと甘さと...続きを読む香り。
心地よい、酔い心地とでもいいましょうか。
選考の時、選者が、洗練されていると評したそうです。
なるほど、確かに。
一文字一文字が選ばれていると思いました。
読みにくいことは最後まで変わりませんでしたが。
かなり、難攻したのですが、それなりに達成感あります。
Posted by ブクログ 2013年03月18日
まず見た目から、ひらがなを多用した横書きの文章の独特さが目を引く。でも何より独特なのは、この文体。正直、内容の全ては把握できなかったが、この文章を読んでいる時の、幻の中をたゆたっている感覚はなかなか味わったことがなかった。匂いや感触、色や音、五感を言葉にしてつらねていったかのようで、物語がつかめなく...続きを読むとも、文章を追っていくだけで心地いい。著者が75歳だからそう思ってしまうのか、幼少期からのぼんやりとした過去を回想している夢のような感覚だった。
同時に収録された、著者が若い頃の作品も面白い。幻想と追憶とかすかな恐れが表れる、また独特な世界だった。