【感想・ネタバレ】かたばみのレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

凄い小説を読んでしまった。家族小説を真正面からバシンと描いた最高傑作。木内昇恐るべし。

槍投げでオリンピックを目指していた主人公悌子は自らの限界や戦時下という時勢もあって挫折し国民学校の代用教員となる…。大筋は悌子の戦中戦後の人生を描いていくことになる。

とにかくキャラの立たせ方と結びつき彼らの生き生きとした描写が良い。教え子を空襲でなくしたり、幼馴染の思い人が戦死したりと暗い出来事も多いのだが、必要以上に筆致に悲壮感を加えず、食糧難も姑のいじわるも思春期の反抗も、家族にとっては一大事と平等に描いていく。

それら一大事を家族愛や人間関係で緩やかにほぐしていく描写と、世の中の暗雲が少しずつ晴れていく戦後という時代背景が相まって温かく明るい小説になっている。

余談
NHK朝ドラの雰囲気がバチバチに出ている作風(おそらく意図してたものと思う)だが、人間ドラマを丁寧に描く上でNHKは大きな貢献をしているのではないかと思った。励みのある人間模様を観て「今日も頑張ろう」と思わせる貴重な朝の15分。朝ドラに全く興味のなかった俺だけど、そう考えると良いものなんだなぁということは理解できた。

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2024年05月10日

Posted by ブクログ

ネタバレ

槍投げにうちこむ真面目でひたむきな女学生が、戦争に巻き込まれて代用教員になり、子どもたちの指導に生き甲斐を見出しつつ、様々な困難に直面し生き抜いていく。
主人公の悌子をはじめ、下宿先の家族のキャラが皆愛おしい。女性の自立が難しかった時代に、疑似家族に支えられ成長していく姿は羨ましくもある。

最初は頼りなかった権蔵も、清一を育てる中で父親らしく成長していくのも見どころ。

期待はあらゆる苦悩のもと、
この格言が所々に生きてます。

続編出てほしい。

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2024年04月01日

Posted by ブクログ

ネタバレ

 戦中戦後、ひとりの女性を軸に、夫婦関係、親子関係を通じ、家族の在り方を描いた物語。

 主人公は、岐阜から上京してきた山岡悌子。恵まれた体躯の持ち主で、日本代表を狙えるかもという槍投げの選手だが、肩を壊し引退、教員として戦中戦後を送る。やがて、下宿先の家主の兄である権蔵と所帯を持つが、戦死した幼馴染みの遺児・清太を引取ることになる。
 学校での教育方針のみならず、戦後、考え方や価値観等あらゆるものが更新され、変化していく中で、変わらぬ家族の在り方を模索するような作品となっている。

 木内昇は、近年、よく読む作家さんだ。どの作品も読み応えがあり、本作も500頁を超す鈍器本に近い文量に圧倒される。
 最初に読んだ著者作品は『光炎の人』。大正昭和と富国強兵、軍拡を続ける中で翻弄される一人の技術者の人生を描いたもの。『万波を翔る』も、明治維新前後の時代の変革期に、幕僚としての使命を全うせんと奮闘する実在の人物をモデルに描いた。
 それらと較べると、時代背景は厳しい戦中戦後のお話ではあるが、武蔵野の地に住む、穏やかな家庭環境の中の、いち家族の成り立ちと変遷を描いた本作は、ややもすると、生温い朝ドラを見ているかのような気にさせられた序盤。

 が、そこは、さすが木内昇。終盤にかけては怒涛の展開、家族の危機、そして大団円を見事に描き切った。
 途中から、血のつながらない母子であること、その子が、初恋の相手の遺児であり、類まれない才能を有した故郷の英雄の血を引き、長ずるにつれ、その片鱗を見せることで、本人はもちろん、家族の中にも違和感が生じ、やがてこれが火種になるものと、当然、予想され、その通りにコトは進む。

 でも、どこか安心して見ていられるのは、主人公悌子および、夫権蔵、そして子の清太の、誰もが素晴らしい人間性を持っているから。そのことを、多くの紙面を割いて、そこまでの前段で丁寧に描いていたからこそ、悌子ら家族の周囲の人も含めた戦後日本国民全員の物語となっている。
 下宿の家主朝子、復員してくる夫茂樹、その母ケイ婆さん、権蔵と朝子の母富枝、みんな、いい。皮肉屋でひがみ節のケイ婆さんですら、「挫折」しかけた家族の窮地を救う貴重な助言を清太に与えるという周到さ。アッパレだ。

 長期にわたる新聞連載だった本作。書き始めたころは(2021/8)、今の世界情勢ほどキナ臭くなっていなかったろうし、情報統制が懸念されるでもなかったはずだが、先の大戦前後の、日本の空気を背景に、現代人の我々にも響くメッセージも折に触れ織り込んである。

「苦手なことを苦手と言うのは、勇気がいります。あなたはそれを事も無げに為した。むしろ立派な発言だったと私は思います」
「おかしいな、と自分で感じたものからは、いくらだって逃げていいんです」

 大勢に流されることなく、勇気をもって異を唱えろということだ。
 あるいは、男女同権が叫ばれて久しく、もはや片意地張って頑張る男も、もう肩の荷を下ろしていいよとも訴える。

「君のさ、『泣き言読本』だっけ、日々の憂さを独白するあのスタイル、案外受けると思うよ。これまで、男は強くあれ、国のために命を差し出せ、って唱えられてきたからね。改めて口にすると馬鹿らしい理念だけど」

 ひ弱な権蔵は、戦前戦中、まわりから馬鹿にされるが、戦後ラジオ放送の番組制作で頭角を現す。
 フィンランド映画『サウナのあるところ』を思い出す。サウナの中で裸の付き合いを通じ、男が本音、弱音を吐露する意外な内容のドキュメント作品だが、原題の意味するところの、「今度は男の順番ですよ」というのは、もう男だけが頑張ってる時代じゃない、男も「泣き言」を言っていいはず、というものだった。それに通じる、権蔵にまつわるエピソードだ。

 戦後、変わりゆく世相を例に、そんな今の世にも通用するメッセージを送ってくるのも著者の巧いところだ。
 戦後の放送界や、芸能の世界は、おそらく『笑い三年、泣き三月』あたりでの取材や執筆準備などで蓄えた知見、アイディアも活かされてのことだろう。

 さぁ、最後は大団円だ。家族関係、人間関係、登場人物のヒトトナリを見ていれば、家族崩壊、一家離散の哀しい結末を迎えるわけがない。どのようにオトシマエをつけていくかだけを楽しみに、残りの100頁は読み進められるはず。
 そして、「男女(おとこおんな)」と呼ばれ、多大なコンプレックスを抱えてここまで生きてきた悌子の見せ場もちゃんとある。槍投げの優等生だった悌子。戦中の竹槍教練の場で、軍人の指導教官を前に、槍の使い方はそうじゃないと、大きな放物線を描くべく、「んぬぅやぁっ!」と奇声一発、竹槍を遠投してみせる(もちろん、大目玉だ)。この前フリが、いい感じで活きてくる。

 涙なくして読めない大きな大きな家族愛の物語。最後にまた、この大音声を、読者は聞くことができる。
 お楽しみに!

 タイトルの「かたばみ」は、カタバミ科の多年草のこと。花言葉は、「母の優しさ」だ。

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2024年01月25日

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