【感想・ネタバレ】少女ダダの日記 ポーランド一少女の戦争体験のレビュー

あらすじ

友人との遊びに興じ、地下の学校で学ぶ14歳の少女のかたわらを爆撃が襲う。
愛国心を高めながら、時には敵兵にまで人間的な同情を抱き、平和を希求した少女。
世界で翻訳された日記が時を超えてよみがえる。

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Posted by ブクログ

東欧の国ポーランドは第二次世界大戦に於いて、ナチスドイツに蹂躙され、国民の約20%にあたる500万人以上が殺害された。同戦争における最も被害の大きかった国の一つである。ナチスドイツを率いたアドルフ・ヒトラーの「我が闘争」の中でもポーランドに対する戦争は計画的に描かれており、ドイツ人の敵としてユダヤ人と並んで根絶の対象となったのがポーランド人だ。ドイツの商店は「ユダヤ人とポーランド人と犬は(入店)お断り」といった看板を掲げ、ドイツ人の徹底した迫害の対象となる。地理的に言えばドイツの東方に隣接し、ドイツ人の主張するレーベンスラウム(生存圏)の一部として早くから戦争の対象国となっている。ポーランドの更に東にはリトアニア、ベラルーシ、ウクライナがありその後のソ連を中核とする社会主義国家と隣接する。ヒトラー率いるナチスドイツは大戦中ソ連に攻め入るが、その後反撃され押し戻されるなど、その戦闘地域には常にポーランドと周辺諸国が含まれる。よって前述した様な多くの犠牲者がここに集中する。
本書はその様なポーランドに生まれ、普通の生活を過ごしていた少女が12歳〜14歳の間にナチスドイツの侵略に怯えた中で記した日記を翻訳した内容となっている。当時のポーランドはドイツに蹂躙され市民が次々と逮捕され処刑される様な状況にあり、生きるも死ぬもドイツにその命運は委ねられていた。当時の12歳前後の少年少女は戦火を逃れて田舎へ逃れたり、ドイツの占領政策により居住地を指定されるなどして国内を転々としながらも、やがては国家のために伝令や武器運びなどに従事する生活を送る。その様な中で爆撃に怯え、銃弾に身を隠しながら健気に生きる少女ダダの日記には、戦火の悍ましさや恐怖のシーンはそれほど多く登場しない。寧ろ平和な世を夢見たり、友達と遊んだ楽しい記録、詩に想いを馳せる姿などが多い。直接的に戦場で戦う兵士や逮捕される大人達とは違う、1人の普通の少女の姿を思い起こさせる。時に傷つくドイツ兵を同じ人間として気遣ったり、友達の安否を心配する姿など少女の視点から見た戦争の姿がそこに垣間見れる。だがそれでも戦争は少女に日記をつけることも出来なくなる程の恐怖を与え、1943年あたりはすっぽりと日記も抜け落ちる。やがて再開した日記には少女時代のただでさえ早い一年を更に加速させた様な大人びた文章が見え始める。戦争という異常事態はその頃の少年少女を極限の恐怖に落とし入れた事が文面から伝わってくる。
ソ連が反撃しドイツをワルシャワまで押し戻す頃、ワルシャワではポーランド人によるドイツへの一斉蜂起が画策される。世にいうワルシャワ蜂起である。実際はソ連軍(赤軍)はこの蜂起を呼びかけながらもポーランドの国内軍を充分に支援せず(傍観)、ワルシャワ蜂起はやがて圧倒的な火力を有するドイツ軍により平定されてしまう。その際にレジスタンスとして闘った市民はドイツ軍に虐殺される。少女ダダもその様な状況で命を落としてしまう。本書は最後にダダが友人に送ったとされる手紙の内容や、学校の作文であろうか、20年後のポーランドの未来の姿を予想した文章なども紹介している。少女の中にあった平和で楽しい生活をダダが生きて過ごすことはできなかった。そればかりか戦争という悲惨な状況に置かれて、最も精神的に成長する大切な時間を銃弾や爆撃の中で過ごしたダダ。人が何故戦争を起こし、何故極限まで残酷になり、同じ人間同士で殺し合わなければならないのか。改めて人類の愚かさを考えさせるし、二度とこの様な事が起こってはならず、起こさない努力を同じ人間の1人として考え続けなければならないと感じさせる一冊だ。

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2025年12月14日

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